図書館でルネ・ラリックの関連書籍をまとめて借りてきました。まずは1冊目。この「ルネ・ラリック モダン・ジュエリーの創始者」は、「知の再発見」というミニサイズの書籍シリーズの中の一冊なのですが、このシリーズの面白い点は…

 

 

 

このように、ページが2つ折り、4つ折りになっており、「展開」することで作品写真やデザイン画を大きなサイズで見られること。アクセサリーだと原寸大サイズで見る事ができ、実際に身に着けたらどんな感じかを具体的に想像することができます。あとデザイン画も、ラリックがどのような点に特にこだわっていたかを筆致から知ることができ、作品への理解がより深まります。
 
ルネ・ラリックは19世紀末~20世紀初頭に活躍したジュエリーデザイナーで、のちにガラス工芸作家へと転身し、いずれにおいても高く評価されているマルチアーティストです。アール・デコ、アール・ヌーボーの芸術家の一人とされていますが、時代やジャンル、作品傾向を越えて「ルネ・ラリック」という独自の作家性のある人ではないかと個人的には思っています。
 
彼のジュエリー作品の特長は、それまで主流だった「アクセサリーは石こそ主役、それを固定している枠だの金具だのはただのパーツ」という常識を覆し、「アクセサリーの主役は俺のデザインじゃい!」というオリジナルデザインで勝負したことです。なので使う真珠はいびつだし、石は透明度が低かったり色にムラがあったりと宝石としては価値の低いものばかりですが、そのいびつな姿すら生かしてデザインに取り込んでしまう。素材の良さを生かしつつ、自分のデザインを全面に押し出すという絶妙なバランス感覚が最高なんですよね。

 

 

あともう一つの特長は、植物や昆虫、動物、リアルな人間の姿そのものをモチーフとしていること。

 

 

 

ある時はルネッサンス様式を19世紀に再現し…

 

またある時はスカラベ(フンコロガシ)、七宝、ラピスラズリで古代エジプト風のモチーフでまとめてみたり…

 

 

 

またある時は「これティアラ?」という今見ても斬新過ぎる新しいジュエリーの形式を作ったり。

 

とにかく自由奔放。時代も技法も飛び越え、あらゆるものを内包し、ルネ・ラリックでしか具現化できない造型をする。

 

 

これなんてコサージュですからね。そしてモチーフは「甲冑を着て手が虫の羽の女性」。なんかこう、現代に生まれていたらクリーチャー系のモデラーになってそうな感じですよ、ルネ・ラリック。一体どういう頭をしていればこんな組み合わせを思いつくのか。

 

こうもパンチのあるデザインだと当然一点ものも多く、むしろ身に着ける人もパンチの効いた人でないと逆に「アクセサリーに着られる」状態になると思うのですが、彼の作品はいずれも一回誰かに購入されているんですよね。一体どんなファッションモンスターがこれを買ったのか。

 

あと本書でも触れられていますが、ルネ・ラリックは当時フランスで旋風を巻き起こしていた「ジャポニズム」の影響も当然受けており、リアルな自然描写、特に「風景」や「花」を取り入れた作品は浮世絵に影響されているのだとか。

 

 

そう言われてみれば確かにそう見えます。このペンダントヘッドなんてもはや「身に着ける絵画」ですね。

 

 

 

このあやめのブローチは格しか北斎の「あやめ」に影響を受けているとか。

 

 

 

 

ここら辺も葛飾北斎の風景モチーフの浮世絵っぽい!特に木を全面に押し出しているところや、雲の表現にそれが感じられます。

 

このような大型の駆使は、日本髪の髷用の簪に影響を受けているそうですが、櫛の歯を茎に見立てて花とミツバチをモチーフにするとは考えたものです。使用していない時もそれ自体が”絵”になるという。
 
思うに、ルネ・ラリックは19世紀末~20世紀初頭にもう一回ルネッサンスをやった人ではないでしょうか。生身の人間や自然そのままの美しさを賛美するよ表現は、中世のルネッサンスに通ずるものがあります。
 
本書では晩年のガラス工芸作家に転身した後の作品は少なめで、40代までのジュエリー作品を重点的に紹介していますが、それでも非常に見ごたえがあるので、作品写真やデザイン画を大きなサイズでじっくり見たいという方、何かの資料として使いたい方にオススメです。ただ写真が多めな分読み物の部分は少ないので、ルネ・ラリックの経歴はサラっとしか追えません。