Switch向け牧場シミュレーションゲーム「ドラえもん のび太の牧場物語」がリリースされました。

 

 

本作は、マーベラスの看板タイトルの一つである「牧場物語」シリーズと「ドラえもん」のコラボタイトルです。突然見知らぬ異世界に飛ばされたいつものメンバーが、その土地で牧場を作り、農業や採取をして生計を立てていくという、ドラえもんの長編映画のフォーマットで牧歌的な農園生活を描いた物語…のように見えます。パッと見には。

 

しかし実際にプレイしてみると、それは牧歌的とは程遠い、むしろ「残酷物語」と題した方が適切ではないかというくらいシビアかつリアルなシミュレーションゲームであることが分かります。

 

この屈託ない笑顔に騙されてはいけない。

 

まずゲームを起動すると、見知らぬ田舎の大樹の下でのび太がドラえもんと一緒に昼寝をしているプロローグが始まります…が、実はこれ、なんとのび太が昼寝で見た夢というオチ。昼寝をしていて昼寝をする夢を見るというぐうたらにも程がある入れ子構造が秀逸です。

 

そしてママに叩き起こされるのもお約束。

 

のび太は夏休みの宿題を一切やらず昼寝ばかりしていたため当然ママに怒られドラえもんに急かされますが、そこはダメ人間のプロ・のび太。逆ギレして外に出かけ、いつもの空き地で異世界「シーゼンタウン」へと繋がる不思議な植物の「タネ」を拾いました。この「ヤケクソになったのび太が偶然何かやらかす」感じもまた大長編ドラえもんにありがちな流れです。

 

のび太と同様にドラえもんも異世界に飛ばされたはずみでひみつ道具の大半を失くすなど期待を裏切りません。見知らぬ異世界で元の世界に帰る方法も分からず、ドラえもんのひみつ道具もアテにできない。さあどうやって生き延びる!?

 

■ダメ人間は起業するしか生きる術がない現実

ところが都合の良いことに、異世界「シーゼンタウン」は”子供が大人の仕事を手伝うのが当たり前”という児童労働が常態化している町でした。そこで早速みんなは生活のため職探しに奔走し、それぞれの特技を生かしてサクッと仕事に就き、ドラえもんに至っては町長の秘書(もしくは執事)のような役職を手に入れるのですが…ダメ人間のプロ・のび太だけは全く仕事が見つかりません。

 

でもそこはダメ人間のび太、自分が無職になったことに逆ギレして開き直り、その返す刀で地元民から土地を借りて牧場経営を始めてしまうのです。そう!ここでやっとタイトルの「牧場物語」のスタート地点に立ちます…っていうかこのゲーム、「ダメ人間が生き延びるには起業するしかない」という現実を描いた風刺か何か?既にこの導入部から牧歌的な農園生活ではなくムチャクチャリアルな現実を描いていますよね。

 

■起業するも事業資金が枯渇

こうしてのび太は地元の少年から牧場と小屋を貸してもらい、自分の畑を持つことにしたのですが…

 

牧場っていうより荒れ地じゃねえか!南米開拓移民かよ!

そんな状態なので、まずは岩や石ころ、木、雑草を取り除いて整地するところから始めなければなりません。それが終わった後も、土を耕し、種を撒き、水と肥料を与えて…と、やらなければならないことがてんこ盛りで、農作物を売って利益を得るには相当な時間がかかることが分かりました。そのうえ始めたばかりの頃は農具もショボいうえに肥料は高価で事業資金は出ていく一方です。魚釣りや虫や木の実、山菜を取ってマネタイズすることもできますが、そんな行き当たりばったりの採取活動で得られる利益などたかが知れています。

 

そんなジリ貧生活の中、のび太は遂に気付いてしまいます。近所に鉱山があることを。そして、毎日農作業をするよりも鉱山で採掘作業をする方が確実に現金収入を得られることを。

 

■長時間重労働で事業資金を補填

実はのび太には初期より「昼寝さえすれば体力が全回復する」という特殊スキルがあり、それを繰り返すことによっていくらでも働くことができます。そこで、のび太は深夜・早朝を問わず鉱山の地下に潜り、頃合いを見計らっておにぎりの一気食いと昼寝を繰り返し、文字通り昼夜を問わず働き続け、鉱石を採掘することで道具を強化すると共にマネタイズスピードを一気に上げる作戦に出るのでした。その生活は産業革命時代のイギリスの児童労働者そのもの。

 

私は本作をプレイし、ふと秋田県のご当地ヒーロー「超神ネイガー」の中の人の著書を思い出してしまいました。

 

 

ネイガーの中の人は、地元にスポーツジムを開設し起業したばかりの頃、やはり事業資金の補填のため昼は経営、夜は工場の深夜勤務と昼夜を問わず働き、さらにその生活の中でネイガーのコンセプトを練ったとのこと。これこそが起業のリアル。経営者になったからといって自由に生きられるようになるわけではない。むしろ日々事業を回していくために昼夜を問わず、そこらへんの勤め人の何倍も働かなければならないのです。

 

なお、この「鉱山が効率が良過ぎる」問題は他ユーザーも早々に気付いたようで、Twitterでその情報が拡散・共有されたために、今月中にバランス調整のアップデートが入るらしいです。しかし計らずしも、のび太を通して起業家の現実をシミュレーションできる非常に学習的側面の強いゲームとなっているのでプレイするなら今です。アップデート前にやり込み、「結局ダメ人間がぐうたらのまま生きていくことなど不可能」だという現実を噛み締めましょう。