また仙台市民図書館で借りた本なんですが、おそらく図書館の司書、もしくは図書館が入っている複合文化施設「せんだいメディアテーク」の職員の中に絶対サブカルチャーやアングラに精通している人材がいますよね?まあメディアテーク自体がギャラリーやシアターも備えた施設なので、むしろそっち方面の知識・教養がないと職員は務まらないのかもしれませんが。なお、同施設は映画系のイベントもしょっちゅうやっているのですが、フィーチャーする作品がいずれも映画雑誌「映画秘宝」と相性が良さげなものばかりで、かつ図書館の蔵書にも「映画秘宝」の別冊MOOKがやたらとあるので、確実に同雑誌の読者な職員がいると思われます。最高かよ。

 

 

で、この「幻想怪奇譚の世界」ですが、その名のとおり「幻想」の世界を描いた古今東西の小説家を取り上げた内容なのですが、その”人選”が最高です。

 

小泉八雲!泉鏡花!夢野久作!江戸川乱歩!海野十三!小栗虫太郎!ここら辺の並びを見ただけで心躍りますね。

 

 

さらに海外勢の”人選”も凄い!ちなみに撮り忘れましたがこの後にラヴクラフトも続きます。こうして改めてラインナップを見ると、「幻想」と一括りにしても、それぞれの作家の作品ジャンルは純文学、推理小説、怪奇小説、ゴシック小説、SF、冒険小説、ドイツ表現主義と多岐にわたり、非常にバラエティに富んでいることが分かります。
 
本書はざっくり3部構成となっており、第1部と第2部は上の写真にあるとおり日本と海外それぞれの小説家を1人ずつフィーチャーしその作風や人となりについて評し、第3部は著者が翻訳した海外の幻想小説3編を収録しています。実は本書を借りるまで著者を全く知らなかったのですが、 調べてみたところ評論家、翻訳家、小説家と多岐にわたり活動されている方で、かつ本の収集管理や映画にも精通している方とのこと。ぶっちゃけ本書で取り上げられている小説家は小学生の頃からほぼ読み尽くして知っているのですが、それでも、「ページ数が限られた書籍でなぜこのエピソードを取り上げたのか?」とそのチョイスの絶妙さに思わず首を傾げたくなる…というか燃え(萌え)滾る箇所が多く、非常に読み応えがありました。まず江戸川乱歩の項目でこれですよ。

 

江戸川乱歩の随筆の紹介で、仕事の話や友達の話などもあるなか、なぜ「中学生時代の同性への憧れを軽妙ながらも詳細に語る」「二・二六事件の傍ら寛永年間に亡くなった衆道の若侍カップルの記念碑に何度も通う」を選んで紹介したのか?この腐男子め!いいぞもっとやれ!
 
あと江戸川乱歩評で面白かったのはこちら↓
江戸川乱歩の作品でよく取り沙汰されるのが、作品の多くが戦時中に出版社の自粛で出版停止になったり、検閲で発禁処分になったりしたというエピソード。特に「芋虫」は両手両足、耳、声帯を失った傷痍軍人とその妻を主人公としているため最高レベルに「ヤバイ作品」というレッテルを貼られました。
しかしその一方、左翼には反戦を訴える小説と捉えられ称賛されていたとのこと。尤も、江戸川乱歩にはイデオロギーはなく、ただ純粋に自分が心惹かれるモチーフやインスピレーションを得たものを描いていただけだったそうですが。本書でも「おそらく彼には体制的指向はない」と評しており、かつ作品を「地方的ナショナリズムがインターナショナルな感と矛盾なく同居しえたのである」と表現しているのが興味深かったです。これは現在ビジネス界隈でよく言われる「Think Global, Act Local(もしくはその逆)」、「グローカル(グローバル+ローカル)」にも通ずる考え方ではないでしょうか。グローバルとローカルは決して相反するものではなく、むしろ共存してこそ新たな価値が生まれるという。
 
あととりわけ面白かったのが、第2部海外編にある、イギリスのオカルティスト「アレイスター・クロウリー」の人生を手短にまとめた箇所↓

 

・メスカリン、ハッシュ、コカイン、ヘロイン、阿片などありとあらゆる麻薬を常用

・何人ものマゾヒストの女性と結婚したあげく性魔術に利用し多くを自殺に追い込む

・黒人の少年と男色に耽る

・登山家気取りでカンチェンジュンガ登頂を目指しポーターを虐待。その帰りに雪崩で多数を死なせる

・非難された際の反論が「手助けをしてやろうという熱意があまりなかった」

 

実にあっぱれなデタラメ人生です。60~80年代のロックミュージシャンでもここまでデタラメな人生を送った人はまずいないでしょう(ちなみに彼はビートルズやジミー・ペイジ、オジー・オズボーンなど多くのイギリスの著名ロックミュージシャンに影響を与えています)。しかもここまでデタラメの限りを尽くして誰にも殺されず、オーバードーズ等の不慮の事故に遭うこともなく、72歳で天寿を全うしてますからね。あっぱれという他ありません。もうピエール瀧の薬物問題なんてアレイスター・クロウリーの前には吹けば飛ぶよな将棋の駒ですよ。

 

…とまあ、ページ数が限られた書籍の中に(実際ページ数もそんなに多くはない)、幻想の分野において並外れた才能(?)を持つ人々のエピソードがぎっしり詰まっています。その分雑多で若干食い足りない感もありますが、もし気になる作家がいたら、次は自分でもっと詳しく調べたり著書を読んだりすると面白いのではないでしょうか。だいたい今なら図書館に収蔵されてそうな小説家ばかりだし。

 

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