この「まっくら、奇妙にしずか」は、先日ご紹介したドイツのイラストレーター・絵本作家のアイナール・トゥルコウスキィのデビュー作です。もっと早くに読みたかったのですが、人気らしく図書館で他の市民に借りられており、やっと今日借りることができたのでした。

本作の何が凄いか?それは、これが一本のシャーペンのみで描かれていることです。

 

これがシャーペン画ですよ。製作期間は3年間で、使用したシャー芯は約400本!もはや狂気!アイナール・トゥルコウスキィがハンブルク応用科学大学デザイン・メディア・情報学部在学中に描き始め、完成させた後に卒業審査作品用に提出、そのあまりの完成度に審査した教授達がぶったまげて出版を勧めたところ、デビュー作でいきなり世界各国の絵本系・アート系アワードを受賞しまくったというとんでもないエピソードがあります。もうこれ卒制レベルじゃねえだろ。

 

彼の作品には「生き物と機械の融合」「自然と人工物の融合」という共通のモチーフが度々登場しますが、出身大学が応用科学大学という理系の大学だったことも影響しているのではないでしょうか。欧州は理系大学の中にアートや情報系の学部があり、日本のように「文系」「理系」を明確に分けず、むしろ両者を交流させることで新たなコラボレーションを生み出そうという傾向にあります。もしかしたら欧州以外の地域もそうで、分けたがる日本の方がおかしいのかもしれませんが。

 

それにしても素晴らしい!どのページをめくっても心躍るモチーフがあり、その一つ一つを見ていると本当に時間が経つのを忘れてしまいます。

 

そしてシャーペンのみで描いていることが信じられません。でもこのページのように、不意にグチャグチャっとラフに描いた雲が出てきたりして、そこで「あ、これシャーペン画だ」と気付かされるのですが。

 

お話の内容は、閉鎖的な小さな村に突然見知らぬ男が現れて、廃屋に住みつき、空に浮かぶ「雲」を手巻き式の機械で捕まえて大きな魚を獲り始めるというもの。村人は男をあからさまに怪しみ、疎み、変な噂話をしつつも興味津々で、ついに男の魚獲りの秘密を知ったところで、それを横取りしようと男を追い出します。人間の醜さや欲望をテーマとした作品で、一応「絵本」という体裁をとっていますが、実際は大人が対象でしょう。というかそもそも卒制で教授に見せるために描いたのだから大人向けなのは当たり前でした。
ページ数自体は少ないですが、何度も何度も見返したくなる本です。特にビスや鋲、アンカー、ヒートン、手巻き式ロープ機器といったモチーフが好きな人にはたまらない作品です。スチームパンク作品としても秀逸なのでそれらを愛好する人はぜひ読んでみて下さい。絶対気に入ります。