仙台市民図書館は妙にポップカルチャーやカウンターカルチャーなど、多方面のオタクが喜びそうな蔵書が豊富で非常にありがたく、特にアートと小説に於いてはスチームパンク関連が充実しているのですが、今回これを見つけ、「仙台市民図書館の司書の中にスチームパンカーがいる」を確信しました。オーストラリアのイラストレーター・絵本作家のショーン・タンです。もう彼の著作が全部あるって最高かよ。
この「ロスト・シング」は、1999年にショーン・タンの本格的デビュー作として刊行された絵本です。少年が海辺で謎の「迷子」を見つけ、なんとか元いた場所に帰してあげようと奮闘するというお話です。
舞台は、工業用配管が町中に張り巡らされ、すべてが無駄なく動き、誰も無駄なものに見向きもしない管理されたディストピア。しかし息苦しさよりも、どこかレトロで、ノスタルジックで、シュールレアリズム絵画を思わせるような雰囲気なのがたまりません。絵の周囲にあるセピア色の部分は、設計を学んでいた作者のお父さんが持っていた本をコラージュしたもので、そのページの文言も何気にストーリーと一部リンクしています。
「迷子」は赤いティーポッドに触手がついた、機械なのか生き物何かわからない「何か」で、とても何かの役に立ちそうにはありません。明らかに異質なものなのに、町の人は誰も目もくれません。そんな「何か」を放っておけなかった主人公は、家に連れ帰り、エサを与えて、次の日から居場所探しを始めます。
本作は装丁と翻訳も素晴らしく、作中にある公文書的なものもオリジナルの雰囲気を壊さないよう配慮しつつ全て日本語になっています。例えるならピクサーのローカライズみたいな感じですね。
もうこの柱と配管、影の構図と描き方とか最高過ぎる!
そして迷子の「何か」のちょっとしたしぐさの表現も良いです。読み進めるごとに、最初は無機物ではないかと思った「何か」がちゃんと自分の意志を持って動く有機物に見えてきて、さらにかわいく思えてくるから不思議です。ここら辺の表現がまた見事!
スチームパンカー的にたまらない歯車&配管描写。ディストピアはディストピアでも、サイバーパンクのディストピアではなく、レトロフューチャーなちょっと温かみのあるディストピアなんですよね。
ついに迷子の居場所を発見した主人公。そこはまるでブリューゲルの絵画のような世界でした。
なお、本作は刊行から10年後に著者のショーン・タン自身の手により短編アニメーション化され、2010年にアカデミー短編アニメ賞を受賞しました。この世界観にノックアウトされて「これが動くところを見たい!」と思った方はぜひこれもみて下さい。もちろん絵本よりも情報量が増えてより没入できること間違いなしです。私としては、さらに一歩進んでVRコンテンツ化してくれないかと思っています。ショーン・タンの世界観がVR化されたら絶対高く評価されると思うんですけどね。
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