私は常々思っていることがあります。それは「インディーゲームとヘヴィメタルは似ている」ということ。いずれかを(もしくはいずれも)知らない人にはなんのこっちゃかもしれませんが、この2つは「その土地ならではの独自の文化や歴史を他の文化圏や民族に分かりやすく伝えるメディア」として機能することに於いて共通しています。例えば台湾産のホラーアドベンチャーゲーム「返校」は、ホラーゲームという姿を借りて台湾の戒厳期の息苦しさを表現していました。

 

【TGS2017】ゲームという”比喩”のもと60年代台湾の「戒厳期」を描いたホラーアドベンチャー「返校(Detention)」

 

台湾の近代史を全く知らない人でも、これをプレイすることで、当時の台湾の高校や高校生がどんな状態に置かれていたかを疑似体験でき、結果的に台湾の戒厳期がどんなものだったかを知ることができます。ちなみに私は台湾の閃霊(CHTHONIC)を聴いていたおかげでこの「返校」のテーマもすぐに理解できました。

 

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ゲームとヘヴィメタルは娯楽としてのジャンルこそ異なりますが、現実に存在した物語自体を一つの作品に落とし込み、新たな切り口で表現することができるという点に於いては同じです。それは他民俗の文化や歴史に全く興味のなかった人をも魅了し、相互理解を促してくれます。

 

今回ご紹介する「The Mooseman」もまさにそれ。

 

本作はロシアのインディゲームディベロッパーのMorteshkaが開発した、スカンジナビア諸国およびロシアに分布するフィン・ウゴル系民族の神話を基にした横スクロールの謎解きアドベンチャーゲームです。ちなみにこのタイトルが描いた内容もなんとなく分かりました。なぜなら北欧メタルを聴いているから。ペイガンメタル、フォークメタル、バイキングメタルを普段から聞いている人ならすんなりこの世界観を理解できるでしょう。

 

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特にコルピクラーニがオススメ。同じくフィン・ウゴル系民族であるサーミ人の神話や伝承、信仰を手っ取り早く知るなら彼らほど最適なバンドはありません。

 

横スクロールといっても、求められるアクションはあまりありません。主人公はどこまでも画面右側に向かって歩くことしかできず、ジャンプや攻撃、防御といった動きもまるでなし。冒頭、主人公は森の中で他の人々と会合を開いていますが、ふいにそこから離れて一人で歩きだしてしまいました。

 

プレイヤーができることは、ただ彼を右に向かって歩かせたり、立ち止まったり、ちょっと後戻りするだけ。とりあえずただひたすら森の中を歩いていきます。

 

少し進むと、何やら文様のようなものが描かれた大木が見えてきました。ここで画面をタップすると…

 

主人公が動物の骨でできた仮面をかぶり、その途端今まで見えなかったものが見えるようになりました。それは森に宿る精霊や魂、神、亡者たち。森の精霊たちのデザインはちょっと「もののけ姫」の木霊に似ています。

 

こうしてステージ上で特定のポイントに到達したり隠された文様を見つけると、それが図鑑に登録されていき…

 

そこから神話の断片を読むことができるようになります。神話は最初はロシアの地方語「コミ・ペルミャク語」で書かれていますが、後から英語表記のものが表れるのでご心配なく。

 

こうして寂しげで寂寞感漂う荒涼とした世界を旅していきます。

 

 

 

例えば、仮面をしていない時はただの崖でしかない所も…

 

仮面をかぶるとこのとおり。精霊たちが連なって橋になってくれています。

 

しかし人間を手助けしてくれる精霊ばかりではありません。この熊の精霊に見つかるとすぐに襲われてゲームオーバーになってしまいます(リスタートは何回でも可能)。人間を生かしもすし殺しもするのが自然であり、アミニズムにおける「神」なんですね。

 

熊の精霊をやり過ごしたら、今度は通せんぼする大きな精霊が現れました。これもなんだか「もののけ姫」のデイダラボッチを彷彿とさせます。何気に開発者はジブリの影響を受けているのかも?

 

デイダラボッチっぽい精霊に通せんぼされていたら前の熊の精霊が追ってきた!ここはタイミングよく仮面を着けたり外したりしてデイダラボッチを潜り抜けて、熊の精霊に追いつかれる前に先へと進みます。

 

このゲームで重要なのは、「見えないものが見えるようになるんだったら仮面は着けっぱなしでいいや」ではないこと。目に見えるからこそ先に進めなくなる箇所がかなりあり、逆に見えなくなるからこそ突破できる箇所もあるからです。謎解き自体はそんなに難しくはないので、様々なタイミングで仮面を着けたり外したり、立ち止まったり、時には来た道を戻ったりと試行錯誤してみましょう。

 

例えば上のスクリーンショットも、仮面を着けている状態だと岩が芋虫のような精霊になり上に登ることができませんが、仮面を外すとただの岩に戻り、その上を歩いて先に進めるようになります。
これも仮面を着けた状態では精霊ですが…
 
仮面を外すと倒木の橋になり上を歩くことができます。
 
森を抜けたら次は湿地の荒野です。ここには謎の生き物や亡者がうごめいており、そのまま通り過ぎようとしてもすぐに捕まってしまいます。
 
亡者が赤い目の時は怒っている状態で、この時に通り過ぎようとするとすぐに襲われてしまいます。彼らの目をよく観察して通り過ぎるタイミングを計りましょう。しかし赤い目=怒っているって、もしかしてこれは「風の谷のナウシカ」の王蟲?やっぱりジブリの影響あるんですかね?
 
亡者の湿地帯を抜けたらいよいよ本格的に死者の世界に入ります。この神話に於いて、世界は神々のいる上部、全ての生き物がいる中部、死者のいる下部の三層に分かれており、主人公はその3つの世界を渡り歩きます。つまりこれは下部の死者の世界です。
 
薄明りの射す中をどんどん歩いていく主人公。
 
そして新たに出会う精霊たち。横たわっている人は死者でしょうか。
 
こうして旅を続けていくうち、死者の世界に落ちてしまった太陽を見つけて、それを神の世界まで持っていき空に浮かべる…という旅の目的が明らかになっていきます。
 
私はィン・ウゴル系民族の神話についても、コミ・ペルミャク語についてもろくすっぽ知らないのに、プレイしているうちになぜか懐かしい気持ちになってしまいました。おそらく日本の神道もまたアミニズムだからでしょうが、古事記で似たような世界観や描写があったよな…とふと思い出してしまうのです。見知らぬ異文化に触れているにも関わらず、どこかしら共通点や繋がりを見出してしまう、それもまた非常に面白い体験でした。
 
本作はPC版(Steam)とスマホ版があり、スマホ版は12ステージまで無料でプレイできます。全てのステージをアンロックするには240円のアプリ内課金が必要ですが、その元は十分に取れるくらい良質な作品なので是非プレイしてみて下さい。サウンドやBGMも素晴らしく、雰囲気ゲーとしても楽しめます。