これもまた昨年のフィンランド渡航の際に機内で観た映画です。
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のフュリオサ役でお馴染みのシャーリーズ・セロン主演のスタイリッシュバイオレンスミュージックボックススパイ映画です。スタイリッシュなのにバイオレンス、バイオレンスなのにBGMがPOP、そして全ての戦闘シーンが「どうすれば女が身の回りのありふれた物を使って男を何人もブチ殺せるか?」を徹底追及している非常に丁寧な作品でした。
ストーリーの舞台は1989年のベルリンの壁崩壊直前の冷戦時代末期。 諜報員の名簿リストが入った腕時計を持っていた英MI6の諜報員が東側の何者かによって殺されリストが紛失してしまいます。その奪還と東側に通じている裏切り者の二重スパイを見つけ出すよう命じられたMI6の諜報員ロレーン・ブロートンは、ベルリンで各国のスパイを相手にリストと二重スパイを巡って複雑に入り乱れる大争奪戦を繰り広げるのでした。次々と現れる謎の人物と敵、西側と東側の探り合い、騙し合い、殺し合いがハイスピードで展開するスピード感、謎解きとバイオレンス炸裂なアクションシーンが交互にやってくるテンポの良さが最高です。しかもそれらを彩るBGMが、1989年のベルリンに合わせ当時ヒットしていたユーロポップ&ロックという凝りよう。おそらく「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のヒット以降増えたのだと思いますが、ちょっと昔の懐かしいヒット曲を各シーンに当てはめてBGMに使用する”ジュークボックス・ミュージカル”形式の映画が最近よく公開されていますが、本作もまさにそれ。当時の時代を知っている人なら懐かし過ぎててその場でのたうち回ることでしょう。
しかし本作が他のスタイリッシュなスパイ映画やアクション映画と異なるのは、全体的にスタイリッシュでありながらも戦闘シーンにちゃんと双方の「疲労感」や「痛み」が表現され実にリアルなこと。そこら辺にあるものを武器として使う際も「普通女がこんなにサクッと男を殺せるかよ!」という映画特有の外連味のある演出がなく、撃つにせよ刺すにせよ殴るにせよ蹴るにせよ一打一打に”重さ”があります。例えばハイヒールで敵に攻撃する時は、どこをどう持ってどの角度でどこに振り下ろすと一番ダメージを与えられるかが考えられているし、フライパンで敵を殴るにしても、横向きに使うか縦向きに使うかで打撃力は全然違ってきます。ある意味「日用品どうやって武器として活用しどう攻撃すれば敵を倒せるか?」を徹底追及しているという点では、本作はジャッキー・チェン作品に最も近いかもしれません。作風は全然違いますが。
特に圧巻だったのは後半の約7分にも及ぶワンカットの戦闘シーン。7分のシーンをワンカットで撮ること自体相当に凄いことなんですが、さらに本作はそれが戦闘、しかも高低差のある階段を上り下りしての殺し合いです。俳優たちの動きから場面の移動、カメラワークまで何から何までが考え抜かれ、計算しつくされ、7分ずっと戦闘でも見ていてちっとも飽きないという近年の映画では最高峰の戦闘シーンが繰り広げられていました。調べてみたら監督はスタントマン出身の人らしく、やはりこれまでのキャリアが反映されているんでしょうね。
なお、戦闘シーンだけでなくストーリーも非常に重厚で、ラストのどんでん返しを見た後でも「あれ、もしかしてやっぱり主人公はあれなんじゃ?」と余韻…というか深読みが止まらなくなる仕掛けが随所に仕込まれていました。各キャラクターが飲んでいた酒の種類と、東側が暖色で西側が寒色と明確に色分けされていたところに何気にヒントがあったような気がします。これが気になった人は是非実際に観てみて下さい。
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