先日「DA・TE・APPS! 2018」という学生が開発したアプリのアワードを取材するため仙台へ行ったのですが、そのついでに仙台駅近くの映画館「チネ・ラヴィータ」にてインドの大スペクタクルエピックファンタジーアクション開運招福健康促進映画「バーフバリ 王の凱旋」を観てきました。

 

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んふ!んふ!(バーフバリ!バーフバリ!)
 
この映画がどんな作品かは既にTwitterなどで散々語られているので概要は省きますが、観た直後の感想としては「とにかく凄えもんを観た」という言葉しか出てこない大傑作でした。もう劇中のありとあらゆるシーンが色彩豊かで美しく、壮大で、豪華絢爛で、「あれ?これもしかして無双シリーズ?」というくらい一瞬一瞬が”絵”になり、観ているこっちは脳内麻薬物質が分泌されまくりで多幸感がハンパありません。もはや「観る抗鬱剤」です。とりあえずコーエーテクモは一刻も早く映画会社と話をつけて「バーフバリ無双」を開発するべきです。
 
この、「終始圧倒され心身とも健康になるのと引き換えに言語能力が著しく下がる」という作風は何かに似ています。そう、2015年公開の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」です。
当時も「V8!V8!」としか言えなくなる人が続出しましたが、今回も「バーフバリ!バーフバリ!」としか言えなくなる人が続出しているようです。そして不思議なことに、一見勢いで突っ走る大仰な大作バカ映画のように見せかけて、実は細部まで緻密に計算され多方面から様々なネタを盛り込んでいる情報量の多い映画であるという点でも、この「バーフバリ」と「マッドマックス 怒りのデス・ロード」は共通していました。
 
本作は、川の上流から滝の下の村へ謎の赤ちゃん(主人公バーフバリ)が流れ着き、何も知らないまま成長して大人になるが、実は彼は川の上流にある巨大な王国の王子様で、自分を国の外へと追いやった敵と戦い本来の居場所と身分を取り戻す…という、世界中ありとあらゆる地域・民族が持つ伝説の鉄板パターン「貴種流離譚」の典型的なやつです。そうした神話的構造のお話なのでストーリー自体はどシンプル。勧善懲悪で何のひねりもなく、海外の映画批評ではこの点を指摘しマイナス評価を与えているところもありました。でも…
 
 
この「バーフバリ 王の凱旋」において、やれストーリーが単調だのひねりがないだのほざく連中なんてただの無粋な理屈バカです。四の五の言わずに王を称えてりゃいいんだよ!
 
貴種流離譚や神話的構造について詳しく知りたい方はジョゼフ・キャンベルの「千の顔を持つ英雄」あたりを読んで頂きたいのですが
この「バーフバリ」の各シーンおよびキャラクター造型はインドの国民的叙事詩でありヒンドゥー教の聖典「ラーマーヤナ」と「マハーバーラタ」というまさに”神話”が元になっています。なので劇中いくつも「これの元ネタってあれ?」という部分があり、それを見つけるのが楽しく、また見つける度にヒンドゥー教の神様が取り込まれた仏教と神道の文化を持つ日本人として親近感が湧くのです。例えば冒頭、お寺に荒行の願掛けに行くシーンで象が暴れるのですが、それを止めるために使われるのが障害克服、商売、富、知恵を司る神様「ガネーシャ」の山車なのです。
 
一人だんじり祭りのバーフバリ
 
暴れ象を”象の頭”を持つ神様の山車で止めるっていうのがシャレが効いている上にスケール感が狂うこのサイズ!象と比べると如実にその巨大さが分かりますが、冒頭からこれですからね。画面全体がありがたみに溢れており、もう初詣の方がはるばるインドから来てくれたという感じです。
 
他にも、偉い人が座る際に片膝を立てるのも神様の座り方だし、人を踏む演出は絶対的な服従を示す表現で、それらは皆ヒンドゥー教の神様に由来しています。そしてそれらは壁画として描かれたりレリーフや彫像として彫られたりし、それが仏教美術にも取り入れられ、やがて中国に伝播し日本まで到達します。
 
 
 
映画を観た後だと、これら仏像の表現に急に親近感が湧き、インドと日本は確実に文化的に繋がっていることを実感できるのです。勿論そんなもん高校の頃に世界史や倫理の授業で散々習ったし美術の教科書にも仏像の写真が載っていましたが、このインドと日本の文化的繋がりの事実をバーフバリという大傑作で見せられる贅沢さ。もう日本は実質インドということでいいです。いや日本をインドにしてしまえ!
 
無論、バーフバリは元ネタが分からないと楽しめないタイプの作品ではなく、インドについて何も知らなくても、頭をカラッポにしていても十分楽しめます。むしろちまちま細かいところを探るような見方ではなく、ただただそのダイナミックな映像美に圧倒される見方の方が楽しめるでしょう。
 
なお、上映中に発声したり鳴り物で音を出したりできるインド式の”マサラ上映”も各地で開催されているそうですが、仙台のチネ・ラヴィータでも2月16日(金)の20:40の回に実施するそうです。
 
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この回が最終上映だそうで、チケットは公式サイト上でも販売中です。もうすぐDVDもリリースされるし配信も始まっている作品ではありますが、こうした超大作は劇場で自分以外の人と大画面で一緒に観ることが醍醐味なので、少しでも興味のある方は絶対に観に行って下さい。マジで!