既にTwitterなどで大変話題になっているフィンランドのSupercellとグリーの特許紛争の件ですが、勿論私も注目しています。私もクラクラとクラロワをプレイしているし、そもそもSupercellのことはクラクラのリリース以前、それこそ会社を設立して第一弾タイトルのPC向けブラウザゲーム「Gunshine. net」のオープンβテストを行っていた頃から動向を追っているし(ちなみにGunshine. netはリリース前に開発中止となりSupercellはモバイルゲーム専業にピボット、後にGunshine. netのPvP構想がクラクラの土台となる)、CEOのイルッカ・パーナネン氏にも会ったことがあるし、思い入れがあるので今後の進展が心配です。ということでここで改めて両社の時系列をまとめてみたいと思います。
2010年5月:フィンランド・ヘルシンキにてSupercell創業
2011年5月:SupercellがシリーズAラウンドにてAccel Partnersより1200万ドル調達、この後、オープンβテスト中だった第一弾タイトルのPC向けブラウザゲーム「Gunshine. net」の開発を中止しモバイルゲーム開発に転向
2012年6月:Supercellが第一弾タイトル「Hay Day」iOS版をリリース
2012年8月:Supercellが第二弾タイトル「Clach of Clans(クラッシュ・オブ・クラン、通称クラクラ)」iOS版をリリース
2013年6月:Supercellが「Clach of Clans」にて日本語対応を開始、これを機に日本市場進出を本格化
2013年10月:ソフトバンクがSupercellを15億3000万ドルで買収、また同月に「Clach of Clans」Android版をリリース
2013年11月:Supercellが「Hay Day」Android版をリリース
2014年3月:Supercellが第三弾タイトル「Boom Beach」をリリース
2014年5月:Supercellが「Clach of Clans」にレイアウトエディタを実装することを発表
2014年7月:グリー子会社Wright Flyer Studiosが「天と大地と女神の魔法」をリリース
2015年2月:「天と大地と女神の魔法」サービス終了
2016年3月:Supercellが「Clash Royale(クラッシュ・ロワイヤル、通称クラロワ)」をリリース
2016年6月:ソフトバンクがSupercellを中国テンセントに73億ドルで売却
2016年9月:グリーがSupercellに特許権侵害を伝える
2017年5月:東京地裁からSupercellに仮処分申立て(2回)
2017年7月:東京地裁からSupercellに仮処分申立て(2回) 、また同月グリーが米子会社GREE International Entertainmentを閉鎖
2017年9月:Supercellが米カルフォルニア地裁にグリーの米子会社GREE International Entertainmentを特許権侵害で提訴
2017年12月:Supercell経営陣が来日しグリーと話し合い
…そして現在に至るという感じです。
グリーはSupercellが非常に多数のグリー保有特許を侵害しているとしていますが、その特許番号を公開していないため、それらが一体何なのかを我々が知ることはできません。ただ日本の企業がどんな特許をいつ出願し、いつ発行されたかは特許情報サイト「J-PlatPat」で調べることができます。そこで「グリー株式会社」で検索してみたところなんと848件もヒットしました。他の会社のも混ざっているのでこれ全部がグリーの特許ではありませんが、さすがにこれを一つ一つ調べるのは大変です。ざっと日付を見ると、2012年10月から出願が一気に増え(それ以前の2011年はほんの数件)、最も出願が頻繁だったのは2015年~2016年でした。
ここで改めて今回の特許紛争を振り返ると、Supercellは東京地裁からの仮処分申立てに際し、最悪の事態の予防策として今月頭にクラロワの日本版から「一定時間待つと開く宝箱の待ち時間演出」を停止し、先週クラクラから村を編集して保存しておく機能「レイアウトエディタ」を停止しています。ということは、グリーが主張する侵害された特許というのは、これらの「宝箱演出」と「レイアウトエディタ」に関するものであることが推測できます。ここから導き出されるのは、それらの特許がレイアウトエディタ実装が発表された2014年5月からクラロワがリリースされた2016年3月までの間に発行されたものだということです。
ということで発行日がこの期間になっているグリーの特許を絞り込んだところ、それでも600件超でした。これを全部チェックするなんて無理!
それにしても私が気になるのは、Supercellもまたグリーを子会社とはいえアメリカで提訴していることです。最初にこちらのブログで知りました↓
【#グリーを許すな】アメリカ カルフォルニアでスーパーセルがGREEを特許権に関する事項で訴訟中であることが判明 他
Supercellは2017年9月にアメリカでグリーの米子会社GREE International Entertainmentとさらにその傘下のFunzio Gamesを提訴していますが、これはグリーがSupercellに特許権侵害を伝えた後なので「殴られたら殴り返す」感じの提訴だったのかもしれませんが、GREE International Entertainmentはこの2か月前という”タッチの差”で閉鎖されています。もっともGREE International Entertainmentの業務は全て日本のオフィスに集約されたので、どっちみちSupercellとグリーとの紛争には変わりはないのですが。
それにしても私が気になるのは、現在のSupercellは中国のインターネット最大手テンセントの傘下であることです。もしこの訴訟紛争がSupercellがまだソフトバンク傘下の時であれば、フィンランドの会社と日本の会社の喧嘩とは言え紛争そのものは日本国内で済みました。ところがグリーがSupercellに特許権侵害を伝えたのは同社がテンセント傘下となった3か月後。しかもその後Supercellがアメリカでグリーを提訴しているわけで、フィンランド、日本、中国、アメリカをまたいだ非常に面倒な紛争に発展していると言えます。これ、転がり次第では日本のモバイルゲーム市場を超えたとんでもない紛争、いや戦争になるかもしれません。
来年2019年は日本・フィンランド国交樹立100周年のアニバーサリーイヤーなのに…