昨年11月~12月にフィンランドに行った際、往復の航空券が一昨年の同時期よりも約1万円も高くなっていたため、「こうなりゃ少しでも元を取ってやる!」と一睡もせずに映画を観まくったのですが、そのうちの一つがこれでした。
2015年公開のフィンランド映画「ビッグゲーム」です。フィンランド渡航にはピッタリな作品と言えますが、フィンランド映画なのにアメリカ大統領が主役のアクション映画という異色作です。ちなみに大統領役はサミュエル・L・ジャクソンなんですが、もうこれだけでB級映画好き、特に「映画秘宝」の読者はお腹一杯でしょう。
この作品のストーリーは非常に分かりやすいです。サミュエル・L・ジャクソン演じるアメリカ大統領がエアフォースワンでフィンランド北部を通過中にテロリストに攻撃されて墜落。大統領のみ緊急脱出ポッドで脱出に成功するも、土地勘のないフィンランドの森の中でテロリストに追いかけ回される羽目に陥りますが、偶然出会った現地の子供に助けてもらいました。以上!要するに「エアフォース・ワン」の脱出したフィンランド版みたいなもんです。最初からこんなストーリーだから、もう清々しいくらいに超!B級映画。それも真面目に作ったのにB級になっちゃいました!という失敗作としてのB級ではなく、大金をつぎ込んで監督も他のスタッフも出演キャストも嬉々として”敢えて”B級映画にしたタイプの狙ったB級なのでむしろ安心して観られます。突っ込みどころ満載ですが、こうした作品は突っ込んだ方が負けというものです。
そもそもこの作品には、製作に至るきっかけとなったB級ならぬ”Z級”ホラー映画があります。それは本作の監督・原案・脚本を手掛けたヤルマリ・ヘランダーの前作「レア・エクスポーツ ~囚われのサンタクロース~」です。
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これがもう観た後に「私なんでこんな映画を観ちゃったんだろうな?」と自分の人生に於ける時間の価値を否が応にも考えてしまうどうしようもないバカタレホラーで心底呆れてしまいました。だってストーリーが「大企業がなまはげのような風体のフィンランドの伝統的怪物をサンタクロースに調教して世界中に輸出しようと企んだらエライことになったので現地の子供ががんばってなんとかする」ですからね。エイリアン2のプロットにかつて”ヨウルプッキ”と呼ばれていたフィンランドの伝統的なサンタクロースの原型を足して消費社会を風刺した社会派ホラーにしようと思ったらトンデモ映画になった、という感じの作品で、ヒットこそしませんでしたがカルト映画として世界中の好事家の知るところとなりました。ちなみにがんばる現地の子供役を監督の実の甥っ子である中学生のオンニ・トンミラ君が演じていますが、彼はこの作品での熱演により「ビッグゲーム」でサミュエル・L・ジャクソンと共に主演を務めることとなりました。中学生でサミュエル・L・ジャクソンと共同主役って彼の今後の人生が心配楽しみです。
こういう作品が元になって作られた映画なんだから、「ビッグゲーム」にあれやこれやとまともな作品としての要素を求めるなんて的外れもいいとこです。なんだコリャ!というところがあったらそれを楽しむのが粋な鑑賞法というもの。なお、観る前に北欧の先住民族「サーミ人」についてある程度知識を仕入れておくとより作品の背景が理解できるでしょう。というのも、サミュエル・L・ジャクソン演じる米大統領を助ける現地の少年は「サーミの見習い狩人」という設定で、サーミの通過儀礼として一人で森に入り獲物を獲るため森の中にいたからです。なぜ彼が獲物を追っていたのか?なぜもっと強力な武器ではなく昔ながらの素朴な弓を持っていたのか?なぜ煤で顔に斜めに三本線を描いていたのか?などの細かい演出は、サーミ人がどういった民族か知らないとイマイチピンときません。まあ知らなきゃ知らないでもストーリーには特に影響しませんが。しかし先の「レア・エクスポーツ」といい、フィンランドがキリスト教化される以前の伝統的な文化・民俗を混ぜるのがヤルマリ・ヘランダー監督の作家性なのかもしれませんね。
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