「1979 Revolution: Black Friday」は、1979年にイラン・パフラヴィー朝で実際に起こった「イラン革命」を題材にしたアドベンチャーゲームです。プレイヤーは留学先のドイツから革命勃発直前の故郷イランに帰ってきた報道写真家志望の青年Reza Shiraziとなって、革命の真っただ中で生き残るために奔走します。本作はまずPC版がSteamで配信され、その後スマートフォン版も発売されたため、PCとスマホの双方でプレイできます。
「イラン革命」とは、1979年2月に起こった民衆革命です。それまでのイランはアメリカの援助を受けた親米国家で、一応イスラム教国家ではありましたが、時の皇帝モハンマド・レザーが”脱イスラーム化”を掲げ世俗主義による近代化政策を取っていました。1963年には農地改革、森林国有化、国営企業の民営化、婦人参政権、労働者の待遇改善、識字率の向上などを盛り込んだ「白色革命」を宣言し、トップダウンで近代改革を推し進めていましたが、これにイスラム教勢力や保守勢力が反発。またもともと文盲率の高かった当時のイランはそもそも近代化の基礎構造を欠いており、実際に改革の恩恵を受けられたのは一部のインテリに留まっていました。そのため貧富の差が拡大しリベラルな上流・中産階級と保守的な下層階級&宗教指導者との対立が激化。それに対し皇帝は自分の意向に反対する人々を秘密警察によって弾圧し、近代化の名のもと排除しましたが、国外追放を受けフランス・パリに亡命していたイスラム法学者のルーホッラー・ホメイニー帥を指導者とする革命運動が盛り上がり、遂に1979年1月16日に皇帝一家がエジプトに亡命。これを受けて同年2月1日にホメイニー帥がイランへ帰国を果たしイスラム革命評議会を組織。 評議会はパーレヴィー皇帝時代の政府から強制的に権力を奪取し公式政府となると、イスラム教国への移行の是非を問う国民投票を行い、98%の賛意を得て「イラン・イスラム共和国」の樹立を宣言しました。この革命の特徴は、徹頭徹尾民衆によって、「イスラム教」という宗教を柱に、米ソ冷戦の真っただ中であったにも関わらず他国の干渉および軍事的衝突なく成し遂げられたことです。しかし革命後イランがどんな国になったかというと、「シャリーア」が国法となったためイスラム教徒以外の宗教の信者はすべて二級市民になり、女性はヒジャブの着用を強制され、さらにシャリーアに基づき女性の結婚最低年齢が9歳となったため女児への性的虐待が合法化される事態が急増。そして王党派の旧体制の支持者や自由主義者はことごとく処刑されるディストピアへと変貌しました。まったく起こらなくてもいい民衆革命もあるもんだとつくづく思います。バカと貧乏人によって国がおかしくなるって、ある意味現在のアメリカと当時のイランは似ているのかもしれません。ちなみにこのイラン革命はHuluでもドラマ化されているマーガレット・アトウッドのディストピア小説「侍女の物語(The Handmaid's Tale)」の元ネタの一つでもあります。
ゲームはまず、暗室で自分が撮影した写真の現像を行っているReza Shiraziの独白から始まります。残念ながら本作は日本語サポートがなく英文を読むしかありませんが、そんなに難しい単語を使っているわけではないのでGoogle翻訳などを併用すれば十分読めます。
シナリオを読み進めていくと、途中途中にちょっとしたアクションが挟み込まれ、自分が青年写真家Reza Shiraziになっていることが徐々に実感できるようになっています。
現像してフィルムに浮かび上がるのは革命の熱気に包まれている街の様子。
ルーペで拡大して見ると、宗教指導者らしき人に混じって女性を含む普通の市民がいることが分かります。果たして彼らは革命後の国の姿まで想像できていたのでしょうか?
シナリオの途中途中には主人公のReza Shiraziの次の行動や発言を選ぶ選択肢が現れ、どれを選ぶかによって次のシーンが変化します。
ところが、本作の特長は実際に起こったイラン革命を題材にしていること。つまりどんな選択をしたところで革命を止めることはできないのです。
で、警察から逃げることに失敗したReza Shiraziは刑務所でボコられ尋問される羽目に。ここでも、どんな答え方をしてもぶん殴られる運命には逆らえません。そう、大きな歴史のうねりの中で個人ができることなんてたいして無いのです。結末は最初から分かり切っており、プレイすればするほど自分が「その他大勢」であることを実感する…これは一見空しいゲームのように見えます。ところが本作は、途中で虚無を感じることなくプレイヤーを最後まで完走させる要素があちこちにちりばめられているのです。それについてはまた明日以降書こうと思います。