先日、レトロな街並みを散策する観光客をかき分け、小江戸・川越市にある明治38年創業の埼玉最古の映画館「川越スカラ座」にインド初のゾンビ・コメディ(英語では"Zom Com")映画「インド・オブ・ザ・デッド」(原題:GO GOA GONE)を見に行ってきました。

インド・オブ・ザ・デッド

この映画の存在を知ったきっかけはTwitterだったのですが、もうこのメインビジュアルを見た時点で「これは傑作に違いない」と確信しました。また公式TwitterのTweetも洒脱でウィットに溢れ、日々Tweetをチェックするごとに「これは何がなんでも観ねばなるまい」という気持ちが高まっていきました。

ストーリーは、自堕落なルームシェア生活を送る三人組が、”インドのヒッピーの聖地”と言われるリゾート地・ゴア(GOA)の離島でロシアンマフィアが主催する最新ドラッグのお披露目パーティに潜り込むものの、翌朝ドラッグの副作用でゾンビ化した他の参加者に囲まれてさあ大変!というもの。ドラッグを買う金の無かった三人はゾンビ化を逃れたものの、来る時に使ったボートをゾンビに奪われ、武器もなく、おまけに全員底抜けのバカ。果たしてこの状況から生還できるのか?

まず何が良いって、主人公の三バカのキャラクターです。これはチラシの裏なんですが…

インド・オブ・ザ・デッド


どうですこの一目でバカと分かるビジュアル。イケメンだけど女たらしで酒&ハッパ漬けのチャラ男ハルディク(左)、彼女との結婚のために酒&ハッパ漬け自堕落生活を改めようとするも結局フラレてクズに逆戻りのラヴ(右)、真面目に生きようとしているのにクズ2人に振り回されるボンクラのバニー(中央)が、終始アホなやりとりをしながらジタバタする様子はコメディとして非常に良くできており、脚本の完成度とインド独特の会話とも相まって何とも言えない味わいを醸し出しています。だいたいボンクラ野郎共が酔っ払って七転八倒した挙句にお互いの足を引っ張り合って総転びする映画に駄作はありません。

本作の一番の見どころは、やはり「インド人」と「ゾンビ」という異色の組み合わせです。本作に限らずゾンビ映画は往々にして主人公が初めてゾンビに出会い驚愕するところから始まるのですが、この三バカのリアクションには「これなんだっけ?…えーと、ゾンビ??」といった独特の”初々しさ”があります。なぜならインドには死人が蘇るという文化が無いから。ヒンドゥー教も仏教と同様に輪廻転生を信じ魂を重要視しているため、インドの葬式では遺体を火葬してガンジス川に流します。だからゾンビになろうにも肉体が無く、ゾンビを題材としたコンテンツも作られてきませんでした。これは日本映画からゾンビものの良作が出てこないのに似ているかもしれません。それを考えると、ゾンビとは土葬するキリスト教圏の文化に根ざしていることに気付かされます。で、三バカはギャーギャー騒ぎながら映画とゲームで仕入れたうろ覚え知識でゾンビと対峙します。

インド・オブ・ザ・デッド
なんでインドにゾンビが?という疑問に出した答えは…

インド・オブ・ザ・デッド
「グローバル化だ」

いろいろ調べてみたところ、実際にインド社会にはロシアンマフィアがかなり入り込んでおり、彼らがばら撒く新型ドラッグが若者の間で広まっているとのこと。「新型ドラッグを食ったらゾンビ化した」というのも「マイアミゾンビ事件」など複数の事例があるので丸っきり絵空事とは言えません。そうした現実の出来事を設定に取り込んでいるのも上手い!さらにロメロ作品など既存の名作ゾンビ映画をはじめとする様々な映画を研究しオマージュを捧げているのも窺え、ただの面白おかしいコメディ映画ではなくゾンビ映画としてしっかり楽しめる作品になっています。ゾンビ映画好きなら「ショーン・オブ・ザ・デッド」と「ゾンビランド」の影響が見てとれるでしょう。

なお、「ゾンビランド」のタラハシーに相当する頼れる大人キャラとして、インド人(?)ロシアンマフィア・ボリスが出てくるのですが…

インド・オブ・ザ・デッド
腹痛が痛い的な矛盾台詞で登場

こいつのガンアクションがなかなかカッコ良く見応えがあり、中盤で誰でも知ってるド定番のネタをやらかします。ボリスはパーティを主催した諸悪の根源なんですが、主人公の三バカがあまりにもバカなため、ストーリーが進むごとにだんだんと真っ当な人間に見えてきます。むしろ「バカかお前ら」「アホどもめ」と呆れながらも見捨てずにちゃんと助けてあげるボリスが可哀想になってくるほど。

インド・オブ・ザ・デッド
英語・ロシア語・ヒンディー語の3ヶ国語を操り戦闘能力も高く情にも厚いハイスペック人材・ボリス

以前、映画評論家の町山智浩さんのトークで「インド映画は1作品の中で喜怒哀楽全てを描く」的なことを聞いたことがあるんですが、本作もきっちりそれを守っています。「楽」が圧倒的に多いけど。正直VFXや特殊メイクの完成度は高いとは言えませんが、そんなことがどうでもよくなるくらいゾンビ愛と名作映画へのオマージュ、ネタ、笑いが詰め込まれています。何の予備知識が無くても十分楽しめると思いますが、あらかじめロメロのゾンビ三部作、「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ゾンビランド」を観ておくとオマージュの元ネタが分かりより楽しめます。ちなみにメインビジュアルに加えられたコピー「きっと、うまくいかねぇ」は2013年に日本でも公開されたインド映画「きっと、うまくいく」のパロディですね。

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あともう一つ私が気になったのは劇中に散りばめられたスティーブ・ジョブズのネタです。三バカはIT企業に勤務しジョブズに憧れているのですが、そもそもジョブズはハッパを吸い、ドラッグをキめ、インドに憧れて荒修行をし仏教徒になったという典型的なヒッピーです。そんな人が起こしたムーブメントがインドまで届き、彼の作った製品をインド人が使い、そして憧れるという描写はグローバル時代のカルマと言えるでしょう。そういえば冒頭シーンでラヴが着ていたTシャツはAngry Birds柄でした。

インド・オブ・ザ・デッド

AppleのApp Storeのおかげでフィンランドのスタートアップが一躍有名ゲーム会社になり、そのゲームのTシャツをジョブズに憧れるインド人が着る…まさに「グローバル化だ」
他にも「仕事中にFacebook」「Facebookでは友達だが実際に会ったことはない」「どうでもいいプライベートまで逐一タイムラインで共有」「実際の武器を扱ったことはないがゲームで慣れている」など、IT&ゲームあるあるが満載なのでそっち系の人も楽しめると思います。

最後に、川越スカラ座が良い雰囲気の映画館だったことを記しておきます。最初にネットで調べた時は正直「ムチャクチャ駅から遠いじゃねえか!」と思いましたが、観光名所になっているレトロな街並みに近い場所にあるので、街歩き観光も兼ねて行くといいんじゃないでしょうか。

インド・オブ・ザ・デッド

インド・オブ・ザ・デッド
例えるなら「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ! 夕陽のカスカベボーイズ」の「カスカベ座」的な感じ。

インド・オブ・ザ・デッド
スタッフの方も血糊でゾンビコスだったためチケットも血痕付き。

インド・オブ・ザ・デッド

インド・オブ・ザ・デッド
あんまり面白い映画だったので帰りにTシャツも購入しました。

とにかくオススメなので川越市民は絶対観に行くべき!また大阪、兵庫、愛知でも新たに上映が決定し、また東京都内でも大森で上映されるそうなので、ゾンビクラスタは何があろうとも万難を排して行って下さい。詳しいスケジュールは作品の公式サイトを参照のこと。





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6月にDVDリリースも決定したそうです!絶対買う!