キャタピラー [DVD]/寺島しのぶ,大西信満,吉澤健

¥4,935
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本作は江戸川乱歩の「芋虫」がベースになっているとのことですが、ただちょっと設定を借りた程度で完全に別ものの戦争映画です、

本作では出征した旦那が、両手足も無く、耳も聞こえず、口もきけない状態で復員してきます。それは乱歩の「芋虫」と同じなのですが、大きく異なるのは「農村」という外の世界が存在すること。「芋虫」では話のほぼ全編が夫婦のみ、家の中のみで展開されます。家の大家さんもいますがほぼモブキャラ。それが「キャタピラー」では”農村”と”村民”という外の世界が登場します。これが不思議なことに、この外部の世界が登場したことにより「芋虫」よりも息が詰まるような閉塞感が生まれているように感じました。もう本当に農村特有の”ダメな感じ”がよく出ています。

村民は皆ダルマ状態になった旦那のことを「軍神」と崇め奉り嫁に「軍神の妻」であることを無言のうちに強要し、夫婦は戸惑いながらもそれを心の拠り所にします。実はこの映画で描かれている本当の絶望は、旦那がダルマ状態になったことではなく、軍神と貞淑な妻であることを強要する「コミュニティの圧力と閉塞感」ではないかと思いました。人間が同じ人間を勝手に神格化し、人間が人間を拝むことがいかに恐ろしいことか。そして「軍神」であることを自己のアイデンティティとした際、その大元が崩れ去ったときにどんな結末を迎えるか…

この作品ではとにかく主演女優の寺島しのぶさんの演技が絶賛されていますが、旦那役の大西信満さんも相当凄い演技をしていると思いました。ほとんど台詞らしい台詞がなく、ただうめき声と表情、のたうち回る動きだけで表現しなければいけないのだから。この作品は内容が内容なのでレーティングを喰らいましたが、むしろ家庭内で小さい子供にも見せて敢えてトラウマを植えつけるといいのではと思います。こういう良質のトラウマはなるべく早いうちにたくさん植えつけておいた方がその子の一生の宝になるだろうから。