ホビージャパン別冊のBLフィギュア特集号を読みました。2006〜2022年までにリリースされたBLフィギュアを総ざらいし紹介した内容でしたが、そこから模型市場のジェンダー不均衡が如実に分かり、さらにそこから模型というホビーの歴史もまた美術史をなぞっているのでは?という思いが強くなりました。


まず改めて驚いたのが、BLフィギュアという明確に女性を対象としたフィギュアジャンルの歴史が始まったのが2006年と、わずか20年前だったこと。



それよりはるか以前に美少女フィギュアはあったし、明らかにエロいR18の女性フィギュアもあったのに。無論、ガレージキットの作り手も買い手も圧倒的に男性が多く、その一方で女性は同人誌やコスプレでの二次創作をする人が多いというのはありますが、それでも女性モデラーは以前からいたし、ガレージキットは仕上げられなくても完成品なら欲しいというニーズは確実にあっただろうに、それが掬い上げられたのが2000年代になってからというタイムラグ。やはりこれは模型市場を形成しているのが男性中心というジェンダー不均衡によるものでしょう。印象的だったのは、女性向けのBLフィギュアをリリースしようとなった時に、男性が喜ぶ女性フィギュアの線は分かっても、女性が喜ぶ男性フィギュアの線が分からないという男性の原型師が多かったという記事。これだけでも、いかに模型・フィギュア市場が女性を視野に入れてこなかったかがよく分かります。


これを読んで思い出したのは、19世紀末〜20世紀初頭のフランスの画家シュザンヌ・ヴァラドン。彼女は労働者階級の最下層の暮らしのなか、画家のモデルをしながら独学で自身も絵を描くようになり、自分の息子モーリス・ユトリロの友達を恋人にし、さらに彼をヌードモデルにして代表作「網を打つ」を描きます。



これは漁港で見た漁師の投網の無駄のない動きに感銘を受けた彼女が、その動きを三分割してアニメーション的に表現したもので、かつ正面・横・後ろの三方向から描くのは古代からモチーフになってきた「三女神」のオマージュでもあるという画期的な絵ですが、当時は女性画家が男性のヌードを描くのはタブー中のタブー。でも、それこそ古代から男性による女性のヌード作品は数えきれないくらい描かれ作られてきたし、それもなんだかんだ言って本音はエロ目的。



男はさんざん女を裸に剥いてきたのに、女が男を裸に剥くのはタブーなんて不公平だろ!じゃあ今まで画家のモデルになって裸に剥かれてきた私がやってやらあ!という心意気がシュザンヌ・ヴァラドンにはあったと言われています。そのように男性中心だった美術業界に喧嘩を売る作品を発表し、加えて息子が超有名な画家になってしまったせいで存在が霞み正当評価されず知名度が低いとされていますが、近年はフェミニズムの観点から再評価が進んでいます。



なお、「男はさんざん女を裸に剥いてきたのに、女が男を裸に剥くのはタブー」という不公平さについては、現代美術アクティヴィスト集団の「ゲリラ・ガールズ」も「裸でなければ女性は美術館に入れないのか?」というメッセージを発表しています。



この美術のヌード表現の不公平も、美術作品の作り手も買い手も評論家さえも圧倒的に男性が多いというジェンダー不均衡によるもの。もちろん女性アーティストもコレクターも評論家もいるものの、歴史の長さから見たらやはり少なく、いたとしても“いないもの”と透明化され今日まで来てしまったという負の美術史があり、またそれが近年問題となっているギャラリーストーカーや各種ハラスメントの原因とされています。


BLフィギュアの作り手や買い手にシュザンヌ・ヴァラドンやゲリラ・ガールズのような心意気があるかどうかは分からないし、おそらく無いんだろうなという気はしますが、それでもこの流れは近現代の美術史をなぞっているような気がしてならりません。模型・フィギュアもまた彫刻という立体作品で美術に含まれるし、ジェンダー不均衡もまた同じなのだから。


ということで女性オタクはもっと模型・フィギュアに手を出し男を裸に剥いていきましょう。