「わたしが死んだら桜の下に埋まりたいわ」

 知ってる?美しい桜の下には女性の死体が埋まってるのよ。残酷だからこそ、美しいのが桜なの。
 そう教えてくれた人は桜の下に制服姿で体操座りをして本を読んでいた。
 そして彼女は読み終えたのかわからない本を横に避け、桜に体を預けるように目を閉じ、空を仰いだ。散りかけの桜の隙間から青空が覗く。しかし目を閉じた彼女に、この景色は映らない。

 散る桜、隙間から注ぐ光、色白の彼女は、今にも息を止めてしまいそうなほど、美しかった。

「わたしね、永くないの」

 お医者様に言われたと聞くまで、「ナガクナイ」がどんな漢字なのか思い浮かばなかった。

「わたしが死んだら桜の下に埋まりたいわ」
「樹木葬?」
「…まぁ、そうともいう。いや、土葬、かしら」
「土葬?」
「だって、わたしの血を吸ってくれなきゃ」

 桜は色づかないわ。

「美人の血を吸い上げた桜よ?一層美しく蕾をつけ、色をつけ、花をつけて散るわ」

 楽しそうに、けれども真面目に、少し悲しげな音を響かせた彼女は、一週間、そう、桜が散るか散らないかの頃、生涯を終えた。

「埋めてほしいって言ってたのにな」

 彼女は土葬ではなく、樹木葬でもなく、火葬になった。
 骨はちゃんと残ったと聞いた。

「骨になったら、桜に色、つけられないだろ」

 美しい桜になりたかったと、本をなでながら言う彼女。

「わたしね、あなたのこと、そこそこ気に入ってるのよ。君もそうでしょう?」
「好きですよ」
「なかなかストレートね」
「伝え方を知らないもので」
「初心なのね」
「それはどうでしょう」
「忘れないでね」
「忘れませんよ」
「覚えていてね」
「覚えてますよ」

「わたしを愛していてね」
「あなたを愛してますよ」

 病室で交わした、最初で最後の口づけ。

 残酷で美しい桜は、はにかんだ君だった。