ツクツクボーシが声高らかに謳いあげている。
「私はここにいるのよ」と。
誰が答えるというのか。

そよともしない枝先をかすめてまたいづれの木にしがみつき、声高らかに謳う。
「私はここにいるのよ」と。

森がわずかにセピアに染まると、今度はヒグラシがとって代わって密やかに謳い出す。
「私は待っています」と。
誰を待っているというのか。



蝉達の声と共に今年も夏が過ぎてゆく。

とめどなく流れる涙をそのままにしておきたいと思うことがある。

溢れ出る涙をぬぐうことなく頬を伝うままにしておきたいと思うことがある。

ただただ涙涸れるまで涙しておきたいと思うことがある。

悲しさや寂しさや切なさを越え、胸の奥の痛みさえ抜け出して涙だけが溢れゆく。

泣いているじゃない。
愛しき者を思うだけ。
夏咲く樹木の花にネムノキがある。淡いピンクの綿毛のような花で深緑の中で軽やかに漂っているかのように見える。


夏の木陰で午睡のまどろみにいざなう淡いピンクの妖精は、眠りの深淵へと連れていってくれる。
追いかけても捉えることないピンクの妖精はユラユラとベールをなびかせ遠ざかっていく。時折振り返っては優しい笑顔を見せて。


確かなものなどないもない。あるのは信じるということ。