※個人的妄想。苦手な方はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

”大きな小さい子”が

姿を現した翌々日のことです。

翔先生のお母上が

山の寺にやってきました。

 

「お祖母様!」

翔一朗ちゃん 大はしゃぎです。

大好きな方がまた一人みえたわけですから。

 

「予告通り 陣中見舞いに伺いました。」

予告?ああ、山の寺に来る前日

翔先生と一朗ちゃんは

お祖母様の家にお泊まりになったんですか。

 

「私の荷は

 本堂の端にでも置いてください。」

お祖母様 それでよろしいんで?

 

え?

お祖母様とお祖父さま つまりご住職は

離縁されて久しいのですか?

肝胆相照らすようなご関係と

お見受けしておりましたが。

 

「ほほ、確かに翔の父親とは

 大変に話し易い間柄です、

 それこそ子どもの頃から。」

幼馴染でいらっしゃるんで。

 

「学究がしたくてお坊さんになったのを

 わたくしの母の実家の存続のためと

 かき口説き

 還俗させて一緒になってもらいました。

 お蔭様で 翔を頭に子にも恵まれたのですが、

 今度は麓のお寺の救済所の運営がしたい

 と言い出しまして。

 はい、三行半を書いてもらいました。」

 

お祖母様 そんなにこやかに

お話になる内容でごぜぇましょうか。

と言うか、三行半を書いた方が

家を出たわけですね。

 

「言い出したらきかないところが

 ご住職と翔は そっくりです。」

さいですか。

 

陣中見舞いですから

お祖母様は たくさんの飛龍頭やら

お野菜の炊いたのやらお饅頭やらを

お持ちになりましたよ。

副住職や小僧さんも巻き込んでの

賑やかな食卓でございます。

 

そんな中で 智ちゃんは

確かにご住職と翔先生はそっくりだ

と感じ取っておったようです。

 

彼方では ご住職が小僧さん相手に

此方では 翔先生がお母上相手に

”謎の声(大きな小さい子)”の顛末を話しています。

どう申したら適確でしょうか、

場をまとめて治めようとするところが

なんだか似ていらっしゃるようで。

 

左官屋は どうしているか?

そこにいる全員が 興味を持って

ご住職 もしくは翔先生の話を聞いている

その様子を隅っこからみております。

 

智ちゃんは おとっつぁんが

それに満足していることを知っています。

 

おとっつぁんの横に座って

一緒に煮物をつつきたい気もあります。

一朗ちゃんが どうしても智兄の横がいい

と申しますので そちらにおりますがな。

 

結局 あの謎の声はなんだったのか

ですかい?

もう見当はついてらっしゃるんでは?

 

栂の若木だそうです。

はい、寺の門を入ってすぐ右手にある

栂の大木、その実が落ちて自生した

本当に若い木です。

 

先の大風で 庭の欅が倒れました。

はい、栂と対になっていた大木です。

お寺では 他には被害がなく

近隣の屋根が飛んだ家の人たちなんかを

暫くお世話いたしましたっけ。

 

欅は根っこから倒れまして。

うまいこと通路に倒れたもんだから

周りの草木にもほとんど影響ございませんで。

枝をうって幹を伐って只管片付けたそうです。

太い枝なんかは ほら

壁塗りに入る前に松吉さんが

延々薪割りを手伝っておりましたろう、

あれもこの欅なんです。

 

大風と雨の被害を

この欅が一手に引き受けてくれたんだろう

てんで

根っこや葉っぱなんかは

樹の立っていたところで

お焚き上げみたいにしまして。

 

ああ、貴賓室に誰かが悪戯したのは

ちょうどその頃でしたっけ。

 

倒れた欅の樹にも

近くに実生の若木がございまして。

門を入った右手と左手の大木、

その若木同士は

人間で申せば幼馴染。

 

なんだ その奇妙な話は、ですか?

今更”奇妙”と言われましても、ねぇ?

 

欅の若木は 大木の下敷きんなり

親の根や小枝と一緒に

燃されっちまったわけです。

 

栂の若木にしてみれば

毎日一緒に過ごした友だちが

いきなりいなくなっちまったわけで。

合点がいきませんわな。

 

結句 人を脅かすことになりました。

ま、若木の声は 子どもにしか

聞けなかったようでございますけど。

 

「天は見捨てません。」

ご住職も翔先生も

そんな表現をなさいます。

仏のご加護じゃないんですかい?

 

天か仏か どっちかは兎も角

なんかの力でもって

栂の若木は 欅の若木の兄弟に会えた、

ってことですな。

 

智ちゃんも翔一朗も優太も

大きな小さい子が探し人に会えるように

願いましたから。

 

願いごとを叶えたのは

草花の声を聴くことができる

あの小さいお友だちがくれた

飴の力だったかもしれませんね。