※妄想 苦手な方はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

本日、時多會の面々は

地唄舞の師匠のおうちにおよばれです。

『皆さんに付き合っていただいたから

そのお礼に馳走をしたい』てな名目で。

 

大野さんは和服姿で

櫻井さんの運転するお車に乗り参上です。

そのお着替えバッグはどちらのものでしょうか。

 

『皆さんには八月歌舞伎を

 随分とご一緒していただいたでしょう。

 そのお礼。』

とは、おっしょさんのお招きの言葉です。

玉様の出演されていた第三部を

おっしょさんに誘われて

面々が代わる代わる観に行っていたようです。

 

しかしお礼とは?

切符はおっしょさん持ちだったし。

 

地唄舞のお師匠と

地唄の名門時多會とのお付き合いは

長くて太いものですから

お招き自体に不思議はございませんが。

 

おっしょさんのおうちには

稽古場もございまして。

床は檜でございます。

 

本日は馳走の前に

八月歌舞伎の振り返り、

つまりは地唄と舞をやるようでございます。

 

「智くぅん

 本当に着流しでよかったの?」

櫻井さんが稽古場脇の座敷控室で

大野さんに訊いています。

 

ほぉ、今日は大野さん

三絃ではなく舞のほうをなさるので。

おっしょさんのはじめのご希望は、裾引きで、

だったら鬘に白塗りも、というものでしたが。

 

「おいら 三味線弾きだし。

 舞も教えていただいたけど

 それは弾くのにべんきょぉになるからじゃん?

 鬘とか合わせていただくの

 素人にはもったいないし

 衣裳借りて汚しちゃったらどうすんの?」

 

「僕はあなたの裾引き姿も

 観たいですけどね。

 それこそ勉強になるだろうし

 それに絶対素敵だと思うなぁ。」

 

そう話す櫻井さんは

最近は演奏はなさいません。

もっぱら大野さんの番頭さんみたいな感じでございますから

結局は演者の希望を第一に調整されます。

 

衣裳なんぞは対丈の着流しで

つまりは男姿のまんまで

舞うようですな。

 

扇だけはおっしょさんのご希望通り

”姐さんのもの”をお借りするそうです。

 

今日この場に招かれている人々は

その意味をよぉくわかっておいでのようで。

 

そもそも八月歌舞伎で

おっしょさんと一緒に玉様の舞を堪能するのは

”姐さん”と呼ばれる

おっしょさんの姉妹弟子のはずだったこと、

 

”姐さん”がここのところ

病を養っておられたこと、

八月歌舞伎の切符を贖う頃には

既に緩和ケアに移行されていたこと、

 

それでもおっしょさんは二人分の切符を用意して

”姐さん”が儚くなられても

地唄の関係者を代わる代わる誘っては

舞台を堪能されたこと・・・

 

今日はちょうど四十九日でございますな。

ご法要は先日お身内でなさったのですか。

今日のこの場には

”姐さん”の娘さんもお出でで

先ほどまで大野さんの練習を指導なさっておられました。

ええ、もちろん本番もご覧になって

その後の御膳もご一緒されます。

 

「・・・てかさ、

 こんだけ面子が揃っているのに

 どうしておいらが舞うの?

 しかも舞いながら唄うって・・・」

 

大野さん、今更のボヤキです。

本日は時多會三羽烏の三絃で

大野さんが残月を舞い唄い、

その後は時多會大先生の三絃と唄で

おっしょさんが雪を舞われます。

 

若かりし頃の三羽烏と大野さんに

舞のお稽古をつけたのは

おっしょさんの娘さんと

”姐さん”の娘さんだったんですか。

 

確かに先生方を差し置いて

大野さんが舞うというのも

荷が重い感じはございますな。

 

『ねえさんはよく言ってたの、

 智ちゃんはけんけんみたいに

 出役と演奏の二刀流でいけばいいって、

 地唄舞と地唄三絃の両方を極めたらいいって。』

 

今回大野さんを口説くのに

おっしょさんは何度かそう話されたそうです。

 

うん、確かに適任かも。

”姐さん”が見込んだ大野さん、なのですから。

 

「お師匠の雪が観られるから

 いいかぁ・・・

 え、でも、

 おいらが雪でおししょぉが残月のほうが

 よくね?」

 

大野さん、今更、です。

 

隣の檜の控室のほうで

三羽烏が調弦を始めました。

そろそろ本番の時間のようです。

 

櫻井さんが”姐さん”の扇を

大野さんに手渡します。

 

さっきまでボヤキ放しだった智ちゃんも

すっと背筋が伸び

まなざしまで変わります。

 

さて、どんな舞台になりますでしょうか。

 

いってらっしゃい。