※個人的妄想。苦手な方はご遠慮ください。

 

 

 

会計は ”2人の財布”(翔が持ち歩く)から払った。

 

「櫻井さんと

 やっとお目にかかれました。

 またお2人でお越しください。」

松本さんが にっこり微笑む。

 

「もちろんお1人でも。」

オーナーシェフのお愛想が

抜かりなく おいらに向けられる。

 

おいらの雷神は

幾分大人しく放電している。

 

「ご馳走様でした。」

「また2人で伺います。」

 

シェフコートの松本さんは

店の外まで見送ってくれた。

肌寒いだろうに。

植栽も色付いている。

お洒落な外観にお似合いのシェフ。

翔がクルマを出す。

小さくなる松本さんの姿。

 

「美味しかったね。

 翔と来られて嬉しい。」

言わなくてもわかるだろうと思って

普段は口に出さないようなことを

今日はちゃんと言ってみる。

 

「狸穴は シンゴさんも

 一緒だったんですか。」

翔が なんだかむくれたカンジで

訊いてくる。

 

「うん、柿のおじさん家に

 シンゴと松本さんと3人で行って。

 あのおじさん おいらが行くと

 『シンゴは元気か』って必ず訊くから。

 おいら達まだ小学生みたいに思われてんのかな。」 

 

「山にも3人で?」

「翔も今度行ってみる?

 柿のおじさん家から

 おいらん家の山を抜けて大野旅館まで。」

 

「・・・徒歩?」

「山だもん。」

 

運転席の翔から

ガスが抜けている?

 

「でも、その後

 松本さんの運転で山の上へ

 紅葉の写真撮影に行った?」

「行った。」

 

翔が大人しくなった。

レストランは 温泉街の中だから

上(かみ)の旅館も近い。

おいら達は 社員寮(と言っても戸建てだけど)に帰る。

翔は そろそろ仕事に戻らなくてはならない。

 

「俺 友達の結婚式に出席するのを

 繁忙期だから断ろうとしていたじゃないですか。」

「うん。」

「でも、あなたが行くように勧めてくれて。」

 

うん、仕事も大事だが

友達も大事だ。

仕事はチームでやっているんだから

なんとかなる。

 

「それって・・・」

何?

 

「・・・そんな目で見ないでください。」

だから、何だよ。

 

「松本さんに あの日

 誘われてたから、では・・・」

「そんなわけねぇべ。

 結婚式は ずっと前に返事してるだろ?」

 

「でも、ユウちゃんが・・・」

翔が いきなりおいらの姪の名前を出した。

 

「ユウ?」

「ユウちゃんが、”濃い顔のシェフは

 智のこと好きだ”って。」

 

おいらが言うのもなんだが、

翔はデキル男だ。

仕事だって完璧だし。

大野旅館でも重宝されてた。

今だって 湯乃宿の要になっている。

 

それなのになんで

ユウの言葉なんかに惑わされるかな。

ユウはまだ子どもだぞ?

 

今日お泊りのお客様には

おいらがご挨拶をする方もいる。

一緒に出勤しなきゃ。

着替えるおいらを 翔が見ている。

違うか?呆然としている?

 

「そろそろ時間、だぞ?」

「でも俺は、松本さんが・・・」

 

今日はご挨拶だけだから

作務衣ではなく印半纏にしよう。

(翔がプレゼントしてくれた)ボタンダウンのシャツに

ネクタイ・・・と。

 

おいらは首にネクタイをかけ

翔に相対する。

呆然としたままの翔が

機械的にそれを結んでくれる。

 

呆然、だけど、頭ん中は

色んなこと考えてんだろうな。

でもたぶんきっと 余計なことばっかじゃね?

 

おいらは ちょっとだけ伸び上がって

翔の唇に 自分のを重ねる。

 

印半纏は帳場に置いてある。

フリースを引っ掛けて戸締まりの確認を始める。

 

「智・・・」

後ろから従いてきた翔が

不意においらを背中から抱き締める。

 

んふふ

身体も起動したみたい。

 

「おら、仕事行くぞ。」

「智・・・」

 

翔が 想いのこもった眼差しを

直ぐ近くから向けてくる。

 

うん、おいらも大好きだよ。

おいらが絵を描く時間を持てるように

いつも2人分の仕事をガンバってくれて

ありがとな。

 

「もし松本さんに誘われても・・・」

「バカ言ってんじゃねぇよ、

 ほら 仕事仕事!」

 

おいらは翔のケツを叩いた。

 

 

 

 

 

 

のんびり何も起こらず終了