ウルトラウォーキングに何を求めて参加しているのか。正解の無い問いかけを自分にすることがある。


今回は一言で表せば「絶望感を味わう」というテーマが頭に浮かぶ。体力の限界を絶望感と共に味わう。全く持って魅力を感じないワードだが、そもそもなんで参加費を出してまで味わう必要があるのか、それは脳と身体のグリーンアップなんだろうと仮説を立てる。

つまり、私は体力の限界領域で絶望感を味わい不要なデータ(気持ちの不安や身体の贅肉)を削除しているのだ。

さて、淡路島一周ウルトラウォーキングはスタートが10時の為、埼玉県からとなれば前泊が必要で明石海峡大橋近くのシーサイドホテル舞子ビラにお世話になり、翌朝に高速舞子から洲本バスターミナルまでバスを使い向かう。前泊の夕食は前職でお世話になった方と楽しい時間を過ごし絶望感への落差を大きくする作業に成功している。



翌朝、朝食を済ませて7時55分のバスに乗り、たぶん4度目となる明石海峡大橋を渡る。さすがバスともなれば高い位置からの景色を堪能させてくれる。


明石海峡大橋の画像を期待していた皆さん申し訳ない。大会の公式発表によると獲得標高差1160mというだけあり山地も点在しているようだ。


9時頃到着洲本バスセンターまでの道中は、緊張感からだろう、寛ぐことはできない。今日の体調、特に足の調子はどうか。ホテルでは3時頃目覚めてその後うつらうつら程度の睡眠、疲れが残っているのではないか、装備に忘れ物は無いか、筋肉やマメによる痛みに耐えながらも無事にゴールできるか等々絶望へのカウントダウンが始まっている。


参加者は男子124名、女子66名の総勢190名で意外と女子が35%と多い印象を受ける。190名の絶望戦士達がバスにもちらほら見かけたが、お互い話しかけることなく、誰もが窓から遠くを見ているようだ。


いよいよ洲本バスターミナルに到着し、スタート地点の洲本市民広場へ向かい受付を済ませる。ゼッケンNo.122、幸運をもたらすよう数字にお願いをして速やかに準備を行う。


日焼け止めクリームを顔に塗り手繰り、帽子を被る。冷感アームカバーに手袋、短パンにcw-xのカーフを装着、足裏にクリームを塗りソックスを履きナイキのペガサス40では初大会だ。感想としては39の方が通気性の面で良かったな。


計器は、iPhoneデータ頼り。

大会の注意事項として絶対に走らないよう説明を受ける。なんでも警察による道路使用許可に関わる重大インシデントに該当するようで、絶望戦士達もうなだれた様子で聴く様がまた絶望的だ。


ウェーブスタートで10時5分にスタート。





それぞれ手を振ったり、拍手したり、ピースサインで体力の限界に臨むべくアドレナリンを上げて行く。

私もウルトラウォーキングの類は6大会目の参加だ。水分補給のタイミングをずらし、かつ少しずつにすることで内臓のダメージを抑えつつ、エイドでは足裏にクリームを塗り、夜間の照明は2個持ち途中で交換するように工夫した。


市街地では、団子状態となり地域の皆さんへ迷惑をかけながらのウォークとなる、絶望戦士達はアドレナリンが上がり過ぎて我れ先にと進む。その姿は、インシデント、コンプライアンスなどどこ吹く風と言った様相で、逞しい。


雲がかかり、気温、湿度、ウォーキング日和で歩きやすい。流石に皆さん速くフォームも個性豊かな中に安定感がある。


淡路島も美しい自然の中に歴史を感じる風景が印象的な島だ。ちょうど名産品である玉ねぎの収穫作業も見られたが、私が淡路島で最初に思い浮かぶのが、阪神淡路大震災の野島断層だけど、国生み神話が残る日本を語る上で大切な聖地でもある。


そんなことを考えながら進む。腕を振りながら歩く。コースはわかりやすくたまにGoogle mapを見るくらいで予備バッテリーは最後まで使わずに済んだ。だが、一ヶ所後ろを歩く方に矢印右ですよと声を掛けられて救われた場面があった。それは自動販売機を探し始めたタイミングで、矢印に目が向かなかった。あの時のウォーカーさん、助かりましたありがとうございました。


道を修正して無事に自動販売機でコーラを飲む。大会中一本飲むようにしているが、絶望的に美味しい。そこで、地域の方に話しかけられて大会概要を説明すると、想像の上を行く距離に驚かれていた。絶望感を感じる素晴らしいリアクションをしてくれた。


さて、コーラをキメた後は画像に収める必要があるチェックポイントを通過。



大鳥居を通過


通過時に一礼。


歩道が狭い箇所もあり、なるべく端を通るように気をつけて歩く。21km地点の第一エイドを通過しまだまだ腕が振れてる。


エイドでは、提供される食べ物をしっかりお腹に入れて燃料切れにならないよう注意。

持参したアミノバイタルもチャージし進む。


次の立ち寄りポイントのコンビニで、反射タスキの貸出を受ける。少し早いタイミングに感じたのは比較的早く通過したのだろう。反射タスキはこのあと味わうであろう絶望感のベストパートナーだ。絶望感の時はいつもキミを纏っている。


第2エイドまで若干のアップダウンがある。


第2エイドは40.5km地点、カップヌードルが提供され汁まで飲み干して塩分チャージ。いつもの大会より気さくな談笑があり、きっと仲間内からは110kmのウォーキング大会に参加する変わり者扱いを受けているんだろうなぁ、と想像しながら会話に加わる。ほんの短い時間だったがやはり絶望戦士達と過ごす時間は楽しい。




日本最古と言われる神社、伊弉諾神宮(いざなぎじんぐう)を一礼して通過。神々しい島である。


50km地点の第3エイドを通過すると、いよいよ明石海峡大橋近くの「道の駅あわじ」まで21km最大のアップダウンを迎える。予報より早く降り出した雨は、クールダウンにちょうど良くレインウェアを着ずにそのまま進む。途中、何度かレインウェアを着ようか迷う降り方になるもシューズに全く影響なかったし、暗くなった山道で歩みを止める気にはならなかった。この登りでバテた人をちらほら見かけたが、長い長い登りは順調過ぎた。しかしながら反動も来て下りから徐々にバテて来ていよいよ絶望の入り口だ。



ようやく見えた明石海峡大橋ライトアップは24時までだが、見えている間は綺麗にライトアップされていたので24時前には第4エイドを通過したようだ。

第4エイドで、レインウェアは簡易的なビニールのポンチョを選択して出発。深夜になると、冷え込みを心配していたけど、さほどでもない。


先ほどのアップダウンの疲れが出始めたのか徐々に睡魔が襲ってきた。すでに腕を振れずにダランと伸ばした状態でしかも左右にフラフラと歩き始める。マズイ、半端無い睡魔だ。仮眠したいがそんな場所はあるはずも無く、左右にフラフラとしながら進む。歩く速度は5km以下となり頭がボーっとしている。前後にウォーカーは居ない。


まさに絶望的な状況だ。


あっ、そうだコンビニで眠気覚ましのドリンクを買おう!


コンビニに入り、1番効きそうな商品を選び速攻で飲む。しかしコーヒーが好きな私はカフェインに強くせっかくの眠気覚ましドリンクも全く効果が無い。


80kmの立ち寄りポイント、道の駅東浦ターミナルで仮眠しようか迷う。

休憩していた戦士に話しかけて眠気を誤魔化しトイレで顔を洗い流して歩を進める。次の第5エイドまで15kmもある。今のスピードではとてつもなく遠く感じる。いよいよ足の裏のマメが本格的に痛くなり、眠いわ痛いわ万策尽きた脳裏にある言葉が閃く。


病院に勤めながら薬をほとんど飲まない私が、やはり人間は薬と共存をすべきだとロキソニンを取り出す。最近の大会では飲んでいなかったが、とにかく状況を変えたかった。

普段、薬を飲まないから速攻で痛みには効いた。しかし肝心な眠気は当然変わらない。


結局、眠気は第5エイド到着前の空が明るくなり始めるまで続いた。


95kmの第5エイドに到着の頃はすっかり夜も明けていた。温かい味噌汁を飲むと眠気も飛び、あれほど前後に見なかった戦士達が続々とエイドにやってきた。第4エイドから人がいる第5エイドは23kmあり最長区間だ。「長い、なんだよ、この区間よー、長すぎるよ!」とスタッフに文句を言いながらエイドインする絶望戦士もいて、賑やかになった。



さて、次の第6エイドは105km地点となるが、最後のアップダウンを味わうことになる。


しばらく海沿いを歩き、洲本市の標識が見えて最後の力を振り絞り腕を振りながら歩き出す。


第6エイドへの登りは疲労が蓄積されて心身共にキツかったが、鳥の囀り、田園風景はとても美しく印象深い区間だ。


第6エイドのレモネードは地元のレモンを使い疲れた身体を癒やしてくれた。


ゴールまで5km、痛みを堪えながらぼんやりと大会を振り返る。雨のおかげで暑さが緩和され夜の冷えも感じず季節的にはベストシーズンだろう。コースも分かりやすいという点も良かった。


また、淡路島は街中は多少の信号停止があるものの比較的歩きやすいと感じた。海あり、歴史あり、神社仏閣の迫力、明石海峡大橋、起伏のある地形に川、沼と飽きることが無い素晴らしいものだ。



ただし、紫外線は強く顔はかなり日焼けした。また、歩道が狭く気をつけなければいけない区間があるので事故には注意が必要。


100kmと110kmの違いは、景色を楽しめるからだろうか、さほど気にはならなかった。


なんて考えていたところ、恐ろしい程の下り坂が待ち受けていて主催者から最後のプレゼントを有り難く通過し、地元の方から声援を受け、一緒になった2人の戦士とスタート地点の洲本市民広場でゴールを迎える。


22時間38分、途中の絶望感を味わいながらも自分との闘いに勝てた。



淡路島の皆さん、ご迷惑をお掛けしました。

大会を支えてくれたボランティアスタッフの皆さん、お陰様で怪我も無く大会を終えることができました。私もいつの日かボランティアスタッフとして活動して御礼をしたいと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございます。このウルトラウォーキングで体力の限界に挑みながら絶望感を味わった結果、脳みそのバグが修正され、容量が生まれました。