死霊の盆踊り Returns ① 不道徳教育講座 | まつすぐな道でさみしい (改)

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東京都墨田区 横網町
 2019年11月2日土曜日 
 SNSを覗くと、界隈の人々はこの日が来るのを指折り数え、浮き足立っている姿が見て取れるのだがそれも当然であろう。




 この日行われるNOAH the BEST 2019~美学のある闘い~と名付けられた年間最大のビッグマッチには、この他にもグレート・ムタマイケル・エルガンという、世界を股にかけて活躍する2大ハゲまでもがスペシャルゲストとして用意されているというのだから、その筋のマニアからすると期待するなと言う方が無理な話だ。










東京都豊島区 巣鴨
 多くのプロレスファンが両国国技館に目を向ける3連休の初日、そんな世の中の流れに背を向け、私の足は巣鴨に向かっていた。

 目的地である闘道館の前には、既にターザン山本に負けないくらい濃ゆいファンの層が列を成しており、トークショー初体験の私は少々ビビリながらも、恍惚と不安の二つを胸に開始時間を待っていた。


 レスラーが試合もしないで、ただ喋ってるのを見て何が楽しいのだろう?  


 私の心の中にはこの様な疑念がずっと燻っていたのだが、ターザン山本のトークショーに足繁く通うという熱烈なファンによると、豊富な知識と経験に裏打ちされたトークは実に軽快で、時間の経つのも忘れ3時間にも及ぶロングトークもあっという間と感じる程だと言い、数年振りに見る生・前田日明とターザン山本のトークが合わさったらどの様な化学反応を生むのか? との期待から、私は思わずプロレス観戦と同額とも言える、5千円ものチケットを購入しこの日に備えていた。


 
 開始を待つ間、若い店員にトークショーは初めてだと告げ、この後どの様な段取りで進められるのかと問えば、16時から開催されるイベントの終了時刻は特に定められておらず、通常2時間から3時間程度行われるとのこと。


 2〜3時間か? 2時間ならギリ、3時間ならアウトだな…


 この日私は、もし間に合うならばという前提で次の予定を考えていたのだが、まずは目の前のトークショーを楽しまなければと頭を切り替える。



『さっきね、控え室で前田さんと話してたんだけど、今日予定してた内容が全部駄目になっちゃいました。今日はプロレスの話は一切無しという話でしたが、プロレスの話になるかもしれないですし、もう、どうなっちゃても私は責任持てませんよぉ〜』


 マジかよ、レスラーとプロレスの話しなくて何の話するつもりだよ? 日本刀の話を延々3時間もされてもな…



 開始前の打ち合わせでダメ出しされたのか? 波乱を予想させられる幕開けだが、予定調和が通じないのが昭和プロレスっぽくて良いじゃ無い! 

 いっそのことルール無視してプロレスの話で3時間くらいやってくんねぇかな? などと考えてると、キャプチュードに乗って前田日明が登場!

 これがプロレス会場で有るなら大前田コールの合唱となるところだが、流石に大人な客層なだけあって多少のざわめきと共に静かに迎え入れられる。



不道徳教育講座
「大いにウソをつくべし」
「弱い者をいじめるべし」
「痴漢を歓迎すべし」
「知らない男とでも酒場へ行くべし」
「人に迷惑をかけて死ぬべし」


 前田日明による三島由紀夫「不道徳教育講座」の朗読からスタートしたこの企画、前田語録の中で1番有名だと言っても過言では無い「選ばれし者の恍惚と不安、二つ我あり」という言葉は、高校時代に読んだ太宰治の短編集「晩年」に収録されている「葉」という短編の冒頭に書かれたフランスの詩人の文を引用したものだが、これは前もって用意していたのではなく、リング上で咄嗟に思い出して口にしていた。という、何度か耳にした定番の話題に始まり、オリンピックのマラソン札幌開催問題や趣味の日本刀の話など、予定通りプロレスの話題を避けながら話は進むのだが、どうも話が盛り上がらない。


「昔ね、私の家に女の子が転がり込んで来ちゃってさぁ〜、これ、後に嫁さんになるんだけど、どうしたら良いんだろうって、前田さんに相談しに道場に行ったことがあったんですよ。そしたらこの人何て言ったと思います?」

「あれは違うよ。道場やなくて、一緒に車に乗ってる時に相談されたんだよ。相手の親父さんが堅物で結婚させて貰えないって言うから、そんなん簡単やん、中出ししちゃえば良いんだよ! って言うたんよ。子供出来ちゃったら相手の親も反対出来ないやんって」


 意外にも一緒にドライブ行ったり、恋愛相談をするような仲だったんだと驚かされる、定番の下ネタを織り混ぜながらの青春談話や…


「でもな、この男の1番凄い所はどんなに喧嘩してようが、仲が悪くてもね、金さえ貰えば表紙にして巻頭記事に載せてヨイショちゃうってところなんだよ! 俺なんか、後から本読んでびっくり返ったもんな。全部、本当やったんやって」


 あ〜そういえば「金権なんちゃら」とかいう本出してたよな? 面白そうだから帰りに探して買ってくかな。会場の闘道館は古書からマスクまで揃うプロレスグッズの販売店)などと考えさせる、面白いパスを投げられているのだが…


「いやね、お金は大事ですよ! お金は! 前田さんは執着しないですか?」


 意外とアドリブが利かないタイプなのか? 久しぶりの前田とのトークで緊張しているのか? まったく話を広げることも出来ず、話のテンポも悪く、普段読んでいるこの人の文章からは想像の付かない程ぐだぐだのトークを繰り広げ、「ほんま今日は大丈夫か?」と何度も前田に突っ込まれるというより、本気で心配されるズンドコ振りに、不謹慎にも私の頭はその場を離れ、ある男の姿を思い浮かべていた。






 ナイフボーイ曰く、あのクラッシャー高橋!


 ナイフボーイ曰く、幻の人間風車二世と呼ばれるプロレス界のレジェンド。










 この日私は、まだ見ぬレジェンド、クラッシャー高橋見たさに、巣鴨・闘道館と十条・超格闘技トーナメントのダブルヘッダーを予定していた。




 正直、もう2度と観に行くことは無いだろうと思っていた、あの死霊の盆踊りにもう1度足を踏み込むなど、散々言いたい放題言っといて、今更どのツラ下げてやって来るつもりだ! と、ドヤされそうだが、プロレスファンたる者、糞ぶっ掛けてやるくらいの暴言を吐き捨てて退団した古巣に、団体経営に失敗した途端平気でUターン出来る長州力並みの胆力も時には必要なのだ。

 もしかすると、上手いこと言って私の事をおびき寄せといてリンチにするつもりかもしれないが、その時はその時で、むかし通信教育でプリ体得しリリ~北斗リリ〜拳で
プリリリ〜

 
 誰だよ? 

 まったくマナーがなってねぇ〜な、こんな時はスマホの電源落としとくもんだろうが!



はぃ、ふぁへぇふぇよたぃのひほくふぇなぇなしふぇたのふべ……
(はい、では予定の時刻になりましたので、質問コーナーに移りまして、その後に皆さんで集合写真を撮りたいと思います!)




 はて、確か終了時間は設定されていなかった筈だが?


 あまり長引くようだったら途中退場してクラッシャー高橋の元に向かうか? と思案していたところで、まさかの闘道館・館長によるドラゴンストップ!




 大概3時間は行うと言われるターザン山本のトークショーだが、不穏な空気を察知した闘道館館長の強制介入により通常より短めの丁度2時間、18時に終了となったのだが、ここは館長の英断に感謝しか無い。

 あのテンションで後1時間も見せられていたら、全員がこのような笑顔で写真に収まっていただろうか? 

 そう、我々は殺し合いを見に来てるのでは無い!

 そんな大切なことを思い出させてくれた館長に感謝しながら時計と相談する。

 ここから巣鴨駅まで約5分、巣鴨から十条まで電車で15分、十条駅から会場まで約20分何とか間に合う!

 取り敢えず、1階の書籍スペースでターザン山本の「金権なんちゃら」を探してみるも見つからず、もうゆっくり探している暇は無い。


 待ってろ、クラッシャー高橋!


 鉄板カードと思っていた前田日明vs.ターザン山本戦でまさかの死霊の盆踊りを見せつけられ、私は再びあの盆踊り会場を目指し闘道館を後にした。













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