11篇 指切りをした その12
胸の中を風が吹いている様で落ち着く事が出来ず、次の目的地に向かった方が良いかもしれない、と言う考えが頭を過ぎったけれど、麻美の注文したメロンソーダーがまだ来てないので口に出せなかった。偶然は重なるものなのか、今度入って来た客は立木佳史で、奥の席へ迷わずに進み腰を下ろした。声を潜めているのでハッキリ聞こえなかったが、母さん、と年配の女性を呼んでいた。ああ、やっぱり親子だったのだと納得した。
ここは単に待ち合わせの場所だったらしく、立木佳史が頼んだアイスコーヒーを一気に飲み干すと、揃って店を出て行った。その時にチラッと此方を見た気がしてドキッとなった。歩きながら周りに視線を移してしまうのは珍しい事ではないと思う。何気ない仕種でも、心に引っ掛かりを覚えてしまうのは、意識し過ぎでは無いのだろうか。恥ずかしくなった。
麻美のグラスが空っぽになったので喫茶店を出た。大学の担当教授から、出された課題に必要な参考書を求めて、本屋へ行くのが目的だ。大学から其れほど離れていない場所に其の書店はあった。中へ入ると顔見知りの学生の姿がチラホラと見受けられた。大学の御用達みたいな書店なのかもしれない。
あれ、菊入さんだ。
本を探し当てた麻美が声を出してから慌てて口を押えた。会計の方を見ると、麻美の声が聞こえたらしく、此方を向いた菊入重子が、笑顔で手を振っていた。友達同士で来ているのだろう。名前は知らないが、顔を知っている人達が2・3人、側にいるのが判った。
菊入さんの所へ行かなくていいの?
今迄なら姿を見つけると必ず声を掛けていたので聞いてみた。
一緒にいる人、ちょっと苦手なの。
麻美は首を竦めて苦笑しながら言った。仲良しの人の友達でも気が合わない人はいるものだ。交際範囲の狭い私にはない現象だけれども理解はできる。
目的の本が見つかったので私達も会計をして外へ出た。随分遠くの道を歩いて行く菊入重子の姿が見えた。なんとなく溜息が出てしまった。