11篇 指切りをした その13

 

 道を歩くと街路樹の葉がすっかり枯れ落ちていた。ジャケットを忘れると夕暮れ時は肌寒い。セーターに薄手のカーデイガンを羽織っただけの麻美が、寒~いと言いながら、ふざけ半分でピッタリくっついて来た。

 

  もう~、歩きづらいじゃないの。

 

押されたせいでよろけてしまい、横を通り抜けようとした男性に、ぶつかりそうになり冷や汗をかいたので、横目で睨んでしまった。

 

  ごめんごめん、あれ、巧兄ちゃんじゃない?

 

少し先の交差点で、信号待ちしている人混みの方を見て、麻美が吃驚して叫んだ。其方へ視線をやると確かに兄の姿があった。しかも隣に並んでいる女性と親し気に笑って話をしている。麻美と思わず顔を見合わせていると、信号が変わって動き出してしまった。

 

  え~、巧兄ちゃん、恋人いたの?

 

何故かショックを受けている様な麻美の声だった。付き合っている彼女がいるなんて聞いた事も無いし、それらしい影も無かったのに、あの笑顔は単なる同僚に向けたにしては優しすぎる。兄に恋人がいても可笑しくは無いけれど、心の片隅で嫌だと思う自分が居て戸惑う。

 

 用事を済ませて麻美とも別れて、一人になると兄の事が思い浮かんだ。先ほど一緒だった女性は彼女なのだろうか。彼女はいないの?と聞くたびに否定されていたので信号待ちで一緒にいた女性の事を、話題にしてはいけないと思うのに、隠す必要など無いだろうと不満を覚えてしまう。その日、兄は仕事で帰りが遅くなり、翌朝も早く出掛けてしまったので、彼女の話を聞く事が出来ないまま、日数が過ぎてしまった。それで良かったと思う。

 

 寒いと思い空を見上げたら灰色の雲が重く広がっていた。兄は暖房器具を必要としなかった様だけれど、今年の冬は私がいるからと炬燵を購入してくれた。たまにスッポリ潜り込んで眠ってしまいそうになる。故郷では大きなストーブが居間の真ん中で赤々と燃えている頃だ。冬休みがもう直ぐだと思うと、両親の顔が思い浮かんで早く帰りたくなる。