11篇 指切りをした その15
大晦日は父と母と兄と私だけ。父も兄もお酒は飲めるけど好きではないらしくて晩酌はしない。いつもより豪華な料理と思い出話で夜を過ごす。除夜の鐘を聞いて、年越し蕎麦を頂き、新年の挨拶を交わし眠りにつく。毎年変わらない遣り取りだけど、姉が此処にいないので、変わらない事は無いのだ、と実感させられる。兄が去り私が去り、父と母の二人だけになる日が来るのか、と思うと寂しさを感じる。
元旦は寝正月になってしまった。来客が無いので気持ちがだらけてしまう。二日目兄は地元の友人たちと旧交を温めに出掛けた。明後日から仕事なので、明日は一日骨休めをしたいから、と夜行列車で帰って行った。慌ただしいなあ、と休みの短い兄に同情してしまう。
それから一週間後、私と麻美も帰りの日数を合わせて、一緒に大学へ戻った。兄と二人の生活が当たり前の様に始まった。親から離れて暮らす事に違和感が無い。此方での暮らしが私の日常になって来ているのだろう。
平凡な私の日常は淡々と過ぎて行く。大学での講義が終わればアパートに直帰だし麻美と一緒に帰る時は買い物に付き合うぐらいで遊ぶ事が無い。つまらなくないの?と学友たちに言われるけれど、人混みが苦手なので出掛けたいとは思わないのだ。最初は付き合いづらいと思われていた様だけれど、今では普通に話しかけてくれるので嫌な気持ちになった事は無い。
最近は暖かい日が続いている。冬の間はカチカチに固まっていた肩の凝りが解れて来た。春が目の前まで近付いてきている様で嬉しい。今年は此方で花見がしたい、と麻美が言う。大学からアパートへ帰る途中に小さな公園がある。其処に桜の木が植えられているのだ。此処に誘おうかな、と考えている。規模は小さくても桜は桜なのだから、と申し訳なく思いながらも開き直る事にした。
そんな気持ちで今日も小さな公園を通り掛かりながら桜を眺めた。うっすらと色づいている。このまま暖かさが続いたら間も無く咲きそうだ。空を見上げて見た。雨にならなければいいな、と思う。雨に降られた桜は萎えてしまい痛々しい。