11篇 指切りをした その18

 

 四月、漸く一人暮らしにも慣れて、私は大学二年生になった。ついこの間大学生になったと思ったのに、もう後輩が出来るなんて、あっという間の一年間だった気がする。うかうかしていたら、何もしないうちに卒業が目の前に、なんて事になってるかもしれない。

 

 私のアパートには電話が無いので、両親や兄への連絡は私が近くの公衆電話を使うしか無く、滅多に声を聞かせてあげられなくて申し訳なく思う。その代わり両親には豆に手紙を書いている。そんなある日、両親から小包が送られて来た。果物や缶詰、細々とした日用品などが入っていた。こちらでも買えるのに、と思いながら、子を思う親心には感謝だ。

 

 両親に礼を言うために公衆電話まで足を運んだ。誰が出るか判らないので少し緊張したけれど、もしもし、と聞こえてきた声は矢張り母だった。嬉しそうなのが伝わって来て私の声も弾んだ。父は未だ仕事から帰ってないと言うので、心残りがあったけれど、よろしく伝えてと頼んで電話を終えた。

 

 腕時計を見ると八時を少し回っていた。もしかしたら兄が帰っているかもしれないと思い、電話を掛けて見た。最近、私と連絡を取る術が無いと困るからと、アパートに電話を引いたのだ。ベルを五回鳴らした所で、諦めて受話器を置こうとした時、もしもし、と兄の声が聞こえて来た。

 

  あ、お兄ちゃん、私。

  直ぐ出ないからまだ帰ってないのかと思った。

 

あからさまにガッカリした様な兄の声だった。もしかしたら彼女だと思ったのかもしれない。私は思わず笑ってしまった。

 

  彼女じゃなくて残念だったね。

 

揶揄い半分で言うと兄は苦笑いした。

 

  そう言う訳じゃないよ。丁度よかった。話があるんだ。

  彼女がね、志穂に会ってみたいと言うんだけど、どうかな。

 

思い掛けない言葉が聞こえて来て吃驚した。彼女が会ってみたいと言うほどに私の話をしていると言う事だろうか。