11篇 指切りをした その20

 

 彼女は立木千晶と名乗った。ん?立木…と私は引っ掛かりを覚えた。たまたま名字が同じだと言うだけだろうか。立木佳史の顔が思い浮かんで、じっと彼女を見つめてしまった。もし私が立木佳史と言葉を交わした事があれば、素直に聞けたのかも知れない。何度かすれ違っただけの相手では、名前を出す事を躊躇してしまった。

 

  突然で吃驚したでしょ?ごめんなさいね。

  巧さんから良く聞かされていたから勝手に親近感を持ってしまって。

  ぜひ会わせてって強引にお願いしたの。

 

鈴を転がすような声って、こんな声を言うのだろうか。心地が良い。

 

  私には弟がいるのだけど、ずっと妹が欲しかったの。

  今度、弟を紹介させてね。

 

そう言われると立木佳史はもしかしたら弟なのだろうか。あの親しさは身内だからこそなのだろうか。佳史の名が出そうになったけれど、やはり口を噤んでしまった。

 

 立木千晶と言う人は声も言い方も優しくて、見つめられると温かな雰囲気に包み込まれる様で、嫌味な所が一つも無い。自然体なのだ。兄が好きになった理由が判った気がした。三人での会話は楽しかった。別れる時は初めて会ったとは思えないほど打ち解け合って、また会いましょうね、と約束を交わした。兄たちは此れからデートだろうから邪魔をしてはいけないと思い、友達と会うからと言い訳をして別れた。三田美子には今度ゆっくり来るね、と声を掛けて青い鳥を出た。心残りだったが客が立て込んで来ていたので仕方が無い。

 

 アパートへ戻り普段着に着替えベッドに這いつくばってしまった。初対面だもの、緊張して当たり前だと、自分自身に言い訳した。今になって緊張の度合いが半端なかったのだと思う。でも良い人だった。兄には勿体ないくらいだ。本当に嬉しかった。