その21

 兄が彼女にプロポーズして受けて貰ったと聞かされたのは、其れから間もなくだった。三人で会ったあの日に結婚を申し込んだと言う。互いの両親にも報告済みで、彼女の両親には挨拶を終えているが、兄の方は夏休みに彼女を連れて帰り紹介する段取りらしい。結婚式は来年の春だとか。あまりにも早く決りすぎて気持ちがついて行かない所もあるけれど、ただただ何事も無くその日を迎えられる様にと願っている。

 今年の夏もアルバイトをしたくて帰らない心算でいたけれど、両親に説得されて帰らざるを得なくなった。アルバイトをしたければ此方ですればいい、当てもあるから、と言われて頷いてしまったのだ。麻美は最初から休みの時は帰ると言う約束を親としているから論外だった。

 

 大学が夏休みに入った其の日に、麻美と一緒に夜行列車で実家へ帰った。駅まで麻美の父が迎えに来てくれて、少し遠回りになるけれど私を家まで送ってくれた。正月以来の我が家だ。

 

  ただいまあ。

 

わざと大きな声で叫んだ。母がバタバタと音を立てながら奥から出て来た。

 

  お帰りなさい。疲れたでしょう。

 

満面の笑顔を見るとやはり帰ってきて良かったと思う。

 

 夜行列車列車では眠れなかっただろうから、と母は朝風呂に入ってから一眠りする様に布団まで敷いてくれていた。勧められるまま朝風呂で体を癒してから布団に潜り込んだ。疲れていたらしく其のまま夕方まで熟睡してしまった。目が覚めた時には午後になっていた。

 

  あら、起きたの。麦茶飲む?

 

 

居間に行くと台所にいた母が振り返って聞いて来る。汗をかいた心算は無いけれど喉が渇いていた。

  うん、飲む。

 

母のさり気ない優しさに触れると、ああ、帰って来たんだな、と思う。