11篇 指切りをした その22

 その日の夕食は久しぶりで母の手料理を味わった。朴訥な父との語らいは都会の鋭利な空気を素朴なものに変えてくれる。姉は二人目を出産していた。今度は女の子だったので姉よりも夫君の方が喜んでいたと言う。男の子でも女の子でも健康ですくすく育って欲しいと叔母としては思う。産まれたばかりの姪を外に連れ出す訳には行かないので私が会いに行く心算だ。

 

 日曜日に父の運転する車で母も一緒に姉の家を訪ねた。借家だけれど一軒家なので騒音で気兼ねする事など無さそうだ。姪はベビーベッドで眠っていた。まだ赤ちゃんなので判らないが、どちらかと言えば姉より夫君に似ている様な気がする。甥は赤ちゃん返りをするでもなく、今からお兄ちゃんぶって妹を可愛がっていると言う。夫君は家事も嫌がらず参加して、子供たちの面倒も良く見ている様子が、短い滞在時間の中でも判る。夫婦の仲睦まじさがあるから、甥も妹を守るべき存在だと理解しているのだろう。素敵な夫婦だな、と思う。晩御飯ぐらい一緒に、と姉夫婦は言ってくれたが、両親は姉の手を煩わせたくないからと、夕方には帰宅した。姉の事もあるけれど、義両親に気兼ねしたのかもしれない。

 

 実家へ戻って来てから何かと母に連れまわされている。アルバイトをする話も立ち消えになってしまった。家の中で忙しくしているうちに兄が彼女を連れて帰省して来た。玄関先で兄が彼女を出迎えた母に紹介した。彼女が丁寧に頭を下げて挨拶をすると、母は満面の笑顔で二人を中へ誘った。緊張していたであろう立木千晶が私の顔を見ると、ホッとした様に笑顔になった。母はすっかり立木千晶が気に入った様で、何かと世話を焼きたがり兄に抑えられていた。

 父が帰って来たので歓迎会が始まった。立木千晶も手伝うと立ち上がろうとしたが、今日だけはお客様で居て、と母が断り私も料理を運ぶだけだから、と兄に彼女を託した。父が立木千晶が腰を下ろしやすい様に、と気を使って話しかけてくれたので、私も其のまま母の後に続いた。和やかな時間が流れた。みんなが笑顔で嬉しそうだった。