11篇 指切りをした その25


 思い掛けない三人での食事に緊張したけれど、立木佳史が普通に話しかけてくれて、こんなに気さくな人だったのか、と意外に思った。菊入重子に紹介された時は私よりも麻美に対してだったので、きちんと顔を合わせた訳でも無く、言葉さえ交わしていない。お互い印象は薄かったと思う。幾度か遠くから見掛けたり、すれ違ったりした事があるだけで、お互いの兄と姉が結婚するなんて考えもしなかった。縁なんて目に見えないものだけれど確かにあるのだ。人との繋がりを疎かにしてはいけないと感じる。


 帰りは電車だったので駅まで一緒に歩いた。行き先が違うので改札口で別れた。見送っていると立木千晶が振り返って、又ね、と手を振ってくれた。佳史も私の方を見て笑いながら片手を上げた。私も慌てて手を振り返した。親戚になるのだから親しみを覚えてくれているだけだ。そう思うのに其れが嬉しくて胸が弾んだ。


 年の暮れは両親に催促されて実家へ帰った。兄も姉も帰らないので私だけでも顔を見せて欲しいと言われたのだ。兄は結婚式が目の前に迫っている。姉は小さい子供を二人も抱えているので身動きが取れない。まだ学生の身である私だけでも顔を見せに行かなければ親が可哀そうすぎる。両親二人だけのお正月を想像してみると帰らない選択肢は無かった。


 親子三人だけで過ごした年の暮れは静かなものだった。寂しくない訳では無かったが、のんびり出来たのは悪くないな、と思った。誰に気遣う事も無く、自分の部屋でごろごろ出来たのは、初めての様な気がする。三日目に姉には電話だけで挨拶をして自分のアパートへ帰った。大学に提出するレポートを仕上げなければいけなかったからだ。


 個人の思惑に関わりなく時間は過ぎて行く。あっという間に兄の結婚式の日を迎えた。雲一つない青空で、結婚式には有難い上天気になった。和装の花婿花嫁姿を初めて見た時は、別人かと思うほど美しくて、感激して涙が零れてしまった。隣に居た姉がそっとハンカチを手渡してくれた。