リオのビジネス街のレストランは高級店を除いて、サンパウロから始まった(ブラジルでは、新しい業態など大半がサンパウロで始まる)ポルキロ (por kilo=キロ当たり)型レストランに疾風怒涛の勢いで様変わりしてしまった。(その後住宅街にもこの現象が。手軽に多種の料理が食べられるとあってやはり女性に人気)

 

 必要ないのに恐怖心から自分に少食を課す若い女性、時間 (とお金)を惜しむサラリーマンの気に入られて、シュラスカリア (バーベキュー屋)などが、次々に ポル・キロ・レストランに衣替え。オーナーにとっても、熟練のウェイターより何の技術もない女の子を雇うほうがよっぽど良い。 値段は一律 「100グラムいくら」。サラダ20種類位、パスタ・肉料理各5種位、米、フェイジョン、スライス・フルーツ2~3種が中央テーブルに並び、その上の棚には色々なソース類や調味料 (ワインビネガー、オリーブオイル、タルタルソース、見事なハーブが入ったオイル、バルサミコ酢………、しょうゆもある)、客は一つの皿に好きなものを好きなだけ取り、これを計って貰い、席に着くと、飲み物とデザートだけは注文を取りに来る。デザートまで por kilo の所もあるが。 

 

さて、上の写真は、セントロのビジネス街の中心リオ・ブランコ街から一つ入った通りにある、私もよく通った por kilo レストラン。入り口でバイアーナ二人 (一人は太った中年という典型的な“バイアーナ”で油で揚げたり、切ったりの方が忙しい。もう一人は多分衣装だけがバイアーナの、若くて、浅黒い肌がさわりたくなる位きれいな人。皆この人から貰いたそうな顔をしている) が、出てくる人、入ってくる人・こない人の別なくバイア独特のお菓子や料理の一口を振舞っている。 (*バイアーナ=東北に位置するバイア州の女性という意味。同州は独特の料理で勇名)

 

 por kilo への転換も一巡し競争が激しくなってからはこのように他店と違ったサービスを打ち出したり、寿司を置く店も増えた。のり巻きのみのところが多いが (カッパ巻の他に、カリフォルニア巻と称するアボガド入り、フィラデルフィア巻というカニカマ・クリームチーズ・マヨネーズ入り)、ここは各種スシも揃え、特別に箸、小皿、ガリ、わさびがあり (ブラジル人はわさびが苦手の人が多いので、握りには入れず、別に置く)、ただし別料金。 とろけるチーズがのったパスタやフェイジョンと一緒の皿でサーモンのスシを食べ、最後にパーム・オイルを使った独特の匂いのするバイア・スナックやお菓子を一口というのは、味覚音痴なのか、フュージョンなのか。 

 

ところで、「Sushi」 はこれほど浸透しており、カリオカにとってはすでに高級なもの、ファッショナブルなものという感覚はなくなったようだ。市内では殆ど日本人のみを相手にしていた高級和食店がすべて姿を消し、いま日本料理屋と看板を掲げているのはブラジル人経営でブラジル人のスシマンが握っているところが多い。もっとも最近、高級レストランとしてはフレンチが2軒、イタリアンが1軒近郊の別荘地とサンパウロに移転、「カリオカは安ければ何でもいい」 という、陰口がここでも聞こえる。

 

 そういえば、「ブラジルで金があるところはサンパウロとブラジリアだけ」 という。 

サンパウロは南米一の工業都市、人々は勤勉、ということで納得が行くが、ブラジリア(首都)は、、、、、、(沈黙)。。。。やはり納得がいく。 “新興都市”ブラジリアでは、サンパウロ並の良いレストランが続々開店、驚くことに (「こういうものはサンパウロ」という考えがまず浮かぶのでという意味で) 、フランスのコルドン・ブルーが同市に開校するという噂もあった。

 ブラジルでは歴史的にも、料理に精出すことはそれほど評価されることでなく、家の作りを見てもそれは分かる。古くは黒人奴隷 (ブラジルに連れて来られたアフリカ人が作る料理はポルトガル人のそれより格段美味しかった。フェイジョアーダも黒人奴隷の苦肉の作品) 、お抱え料理人、ごく最近まではメードに作らせるのがステータスだったからで、古い家のキッチンは例え広くても一番悪い場所に位置している。 

最近になって、大半の家庭がメードを雇えなくなったという事情と相俟って、ブラジル人も栄養の大切さ、料理の面白さを発見したようで、写真を見ているだけで嬉しくなるような料理やデザートの本が増え、男性のための料理教室なんていうのも人気を集めている。

 

 このような背景と、若い人を中心とする健康ブームで、伝統的なブラジル料理離れが起こっており、軽いもの、健康的なものがもてはやされ、 「生の魚なんて気持ちが悪い」 とされていたスシも平気で食べるようになった。

上記レストランでは、各料理名の下に 「100g当り何カロリー」 と書いて女性に喜ばれている(でしょう)。 Barra などの海岸では砂浜でもスシが食べられるし、私の家の近くのスーパーでは、日本風の門をかたどった (つもり)の 小さなコーナーで、刺身包丁、巻きす (のり巻きを作る時使う竹のすだれのようなもの)、海苔、割り箸、おかき、緑茶などを売っており (しょうゆはすでにかなり前に市民権を獲得、普通の棚にある)、「花のくちづけ」 という名前のアメまであって可笑しい。