「ようやくこの日が来た」「早く解決してほしかった」。旧優生保護法下の強制不妊手術を巡る訴訟で、原告側と政府は13日、手術を受けた本人に国が1500万円の慰謝料を支払うことを柱とした和解の合意書に調印した。初提訴から約6年7カ月。調印後、ほっとした表情を浮かべた原告ら。長い時間がかかったことへの無念さから、そこに笑顔はなかった。
旧優生保護法(1948~96年)下で強制された不妊手術をめぐる訴訟で、同法と強制不妊手術は違憲だとする最高裁判決を受け、優生保護法被害全国原告団・弁護団と国は13日、こども家庭庁での調印式で、和解に向けた合意書に調印しました。被害者本人に最大1500万円、配偶者に200万円の慰謝料を支払うなどとするものです。
調印式で、原告団共同代表の飯塚淳子さん(活動名)は「27年間求めてきたことが実現します」と話しました。一方で「しかし私たちの心は晴れません。謝罪や賠償をされても優生手術によって狂わされた人生は戻ってきません。みんな手術前の体に戻してほしいと思っている。声を上げられない被害者が全国にたくさんいます」と涙ながらに強調。「私たちにも障害のない人と同じように当たり前に生きる権利がある。差別がない社会を実現してください」と語りました。
全国弁護団共同代表の新里宏二弁護士は、合意書の調印に至ったことを「感謝する」としつつ、国による賠償が遅れたことについて「猛省を促したい」と指摘。被害者は高齢だとして「早期に救済法をつくってほしい」と求めました。悲劇を二度と繰り返さないために、「優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会」など第三者を含めた検証を要望しました。
こども家庭庁によると、係属中の訴訟は10件。順次、和解が成立する見通しです。
調印式では、加藤鮎子こども政策担当相が謝罪の言葉を述べました。
強制不妊手術「国が謝ってくれたけれど、悔しい思いが消えることはない」 原告側、政府と和解の合意書調印
「今日の状況を見ていただきたかった。国がちょっと遅かった」。名古屋高裁で係争中の原告で、聴覚障害のある尾上敬子さん(74)は手話通訳を介し、提訴後に亡くなり、この日を迎えられなかった各地の原告6人の無念を思いやった。原告以外の全ての被害者の救済は今後具体化することになり「声を上げていない方は、これを機会に声を上げていただきたい」と呼びかけた。
14歳の時、仙台市内の児童福祉施設で手術を強制され、7月の最高裁判決で勝訴が確定した東京訴訟の北三郎さん(81)=仮名=も調印式に出席。会見で「国が謝ってくれて、うれしかったけれども、悔しい思いが消えることはありません」と話した。(井上真典)