厚労省は、事業所と同一か隣接の敷地内の建物に住む利用者の人数によって介護報酬を削減する措置(同一建物減算)を設けている。だが同機構の調査では、営利法人で「減算あり」の黒字事業所は44・6%で、赤字事業所より多い。報酬が削減されても効率的なサービス提供で黒字になっているとみられ、同省は4月からこの措置を強化した。

 介護保険に詳しい実践女子大の山根純佳教授は「同一建物の減算ではなく、利用者の自宅を回る訪問介護の移動時間に加算を付けるべきだ。ヘルパーの移動にはガソリン代などの経費もかかる」と話している。

 

 

 訪問介護で短時間のサービスを数多く提供する事業所が収益を確保している実態が、福祉医療機構(東京)の調査で鮮明になった。黒字と赤字の事業所で利益率の格差は大きく、「訪問介護は他のサービスに比べ利益率が高い」として基本報酬を削減した4月の報酬改定の根拠が揺らいでいる。(五十住和樹)

 東京都足立区で働く訪問介護ヘルパーの男性(35)は、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)と利用者の自宅の両方を担当。「サ高住は担当する約10人の部屋を回る短時間のケアが多く、時間に追われるが体力的に楽。自転車で利用者宅を回る方は、移動時間が30分になることもあり真夏や悪天候だとつらい」。サ高住では朝昼晩の時間帯に、服薬や更衣の介助など20分未満を含む短時間の身体介護が多いという。

 この調査は、同機構から資金を借りている1901事業所に、2022年度の経営状況の報告を求めて分析した。384の営利法人を黒字と赤字の事業所で比較すると、ヘルパー1人当たりの年間平均サービス提供回数では、20分未満の身体介護が黒字は856・7回、赤字は280・3回=グラフ=と約3倍の差があった。平均営業利益率も黒字が13・9%だったのに対し、赤字はマイナス12・9%と格差が大きい実態が浮き彫りになった。

 

 

 訪問介護の介護報酬はサービス提供時間で単価が決められ、短時間だと報酬は低い。サ高住や有料老人ホームなどではヘルパーの移動時間がほとんどなく、多くの利用者に対して効率よく多数回のサービス提供ができる。調査では、1カ月当たりの平均サービス提供回数が黒字事業所は1858・3回、赤字が981・8回で900回近い差があった。同じ利用者に短時間の身体介護を多数回提供することで、黒字を確保しているとみられる。
 この結果、1事業所当たりの平均収益は黒字が8718万5千円、赤字が5687万5千円で3千万円以上の差がついた。

 4月の報酬改定で厚生労働省は、訪問介護について別の調査で7・8%と高い利益率(収支差率)だったことで基本報酬を下げた。だが、事業所全体では4割が赤字。倒産、撤退する事業所が相次いでおり、サ高住などでの高い利益率に支えられた黒字を根拠に、基本報酬を削ったことに批判が続出している。

 

 厚労省は、事業所と同一か隣接の敷地内の建物に住む利用者の人数によって介護報酬を削減する措置(同一建物減算)を設けている。だが同機構の調査では、営利法人で「減算あり」の黒字事業所は44・6%で、赤字事業所より多い。報酬が削減されても効率的なサービス提供で黒字になっているとみられ、同省は4月からこの措置を強化した。

 介護保険に詳しい実践女子大の山根純佳教授は「同一建物の減算ではなく、利用者の自宅を回る訪問介護の移動時間に加算を付けるべきだ。ヘルパーの移動にはガソリン代などの経費もかかる」と話している。