岸田文雄首相を検察審査会に申し立て 「起訴相当」の議決を/首相就任を「祝う会」で政治資金規正法違反 上脇博之教授

 
岸田文雄首相を検察審査会に申し立て 「起訴相当」の議決を
 
 
 
◆「全員不起訴はとうてい納得できない」
岸田文雄氏の「内閣総理大臣を祝う会」(2022年6月、広島市)は事実上の政治資金パーティーだったのに、後援会の政治資金収支報告書に一切記載がないなどとして、岸田首相本人ら4人が政治資金規正法違反容疑(不記載など)で刑事告発されていた事件について、広島地検はこの8月9日、4人全員を不起訴処分とした。岸田首相は「嫌疑なし」、後援会の代表者ら3人は「嫌疑不十分」だった。

これに対し、刑事告発人でもある神戸学院大学の上脇博之教授は8月28日、とうてい不起訴には納得できないとして、広島検察審査会に審査申し立てを行った。岸田首相ら4人全員に「起訴相当」の議決を求めるとしている
 
検察審査会は有権者から選ばれた市民11人で構成されており、検察が不起訴とした判断が適切だったかどうかを審査する。「起訴相当(起訴すべき事件である)」か「不起訴不当(さらに詳しく捜査すべきである)」の議決が出た場合、検察は事件を再捜査して起訴するか再度判断しなければならない。
 
◆「首相就任を祝う会」について「政治資金パーティー」の事前告知なし
政治資金規正法の規定では、参加者から対価を受けて開催したイベントの残金を政治活動に支出する場合、そのイベントを「政治資金パーティー」と定義。開催に当たっては、そのイベントが「政治資金パーティー」であることを参加者に事前に書面で告知しなければならない、としている。

しかし、申立書によると、2022年6月12日に岸田首相の地元・広島で行われた「岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」(会場:リーガロイヤルホテル広島)は、政治資金規正法の定めにある政治資金パーティーに該当するにもかかわらず、その告知がなされないまま開催された。このことがまず、規正法違反に当たるとしている。

◆「祝う会」の真の主催者は「後援会」と指摘
また、申立書は「祝う会」の主催者について、実際は政治団体「岸田文雄後援会」だったにもかかわらず、「広島県経済関係団体自治体合同任意団体発起人11名」を主催者名にしたことを問題視。この「合同任意団体」は「祝う会」の残金を、岸田首相の政党支部(自民党広島県第一選挙区支部)に寄付し、政党支部は「合同任意団体」から寄付を受けたことを収支報告書の収入欄に記載しているが、主催者が「後援会」だった以上、政党支部の記載は政治資金規正法の虚偽記載に当たる、と指摘している。

政治資金規正法は、1000万円以上の収入のあったパーティーを開催した場合には、収支報告書を作成して選挙管理委員会に提出するよう義務付けている。「祝う会」には約1,100人(会費1人1万円)が参加していたため、収入は推定約1,100万円。したがって、仮にパーティーの主催者が「合同任意団体」だった場合、この団体は法の定めに従って収支報告書を提出しなければならない。ところが、「合同任意団体」から報告書は提出されていない。

このため、「祝う会」の主催者が岸田後援会だったとしても、合同任意団体だったとしても、どちらのケースであれ、政治資金規正法違反だ、と申立書は指摘している。
 
 
◆「“死人に口なし”で責任逃れするのか?」
この事件について、上脇教授は今年2月末、岸田首相ら4人を広島地検に刑事告発した。広島地検が4人全員を不起訴処分とした8月9日は、岸田首相が9月の自民党総裁選に出馬しないと公表する8月14日の5日前だった。

今回の申し立てについて、上脇教授は次のように指摘している。
 
「『祝う会』の主催者が岸田後援会であれ、合同任意団体であれ、政治資金パーティーという告知がなされないままイベントは開催されており、政治資金規正法違反は明らか。それなのに、誰も起訴されなかっただけではなく、起訴猶予もなかった。岸田後援会の当時の事務担当者は当時、『祝う会』の連絡担当になっていたが、その後亡くなっているため、被疑者らは広島地検の捜査に対し『死人に口なし』だとして、すべてその故人の単独犯にして責任逃れの弁明をしたのかもしれない」

「しかし、政治資金パーティーは決して独りでは開催できない。最初の告発から5カ月程度の捜査で不起訴となったのも、あまりにも早すぎる。捜査を尽くせば、被疑者らの共謀が立証できたはず。岸田総理は党総裁選に出馬しないのだから、広島地検はもう忖度することなく捜査を尽くせるはずだ。広島検察審査会には是非とも“起訴相当”議決をしていただきたい」
 
 
鈴木祐太
 ジャーナリスト。
地方の理系大学に在学中から、被差別部落・ベトナム難民などの在日外国人の子どもたちへの支援に関わる。
小学校臨時教員、派遣社員などを経て、ネットを中心としたメディアに関わり、「政治とカネ」「子どもの貧困」などの社会問題を中心に記事を発表してい...

 

卒業旅行?思い出づくり? 岸田首相、退任直前の外遊に渦巻く疑問「先方も困るでしょうに」

 
 
 
 9月27日におこなわれる自民党総裁選は、立候補に意欲を見せる議員が10人を超え、8月19日に小林鷹之前経済安保相、24日に石破茂元幹事長、26日には河野太郎デジタル担当相が立候補を表明。今後も小泉進次郎元環境相、林芳正官房長官、茂木敏充幹事長、高市早苗経済安全保障担当相らの立候補表明が予定され、混沌を極めている。
 
 そうしたなか、気がつけば「現自民党総裁」である岸田文雄首相の存在感がまったくない……。

「岸田首相に関する報道は激減しましたからね。もちろん、公務はこなしています。議員や役人と面会する回数は、むしろ増えています。

 そして、夜の会食もしっかり入れています。8月26日には銀座の料亭『新ばし金田中』で森喜朗元首相、岩沙弘道三井不動産相談役らと会食しています。その席で岸田首相は、総裁選について『新たな自民をつくるためのよいスタートができた』と上機嫌で語ったということです」(政治担当記者)

 退任発表後は、国民から「増税メガネ」「ばらまきメガネ」と言われ続けた重圧から解き放たれ、公務にあたっているのだろう。

 その岸田首相が「最後の1日まで政策実行に一意専心あたっていく」と意気込み、韓国訪問と国連総会出席の意向を示しているという。

「岸田首相は自らを『外交の岸田』と称したように、2021年の就任から今年7月までの外国訪問回数は28回になりました。訪問した国と地域はのべ56になります。3年間にしては多いほうではないでしょうか。

 韓国とはシャトル外交が復活して関係は良好になりましたから、その関係強化を目的に、9月上旬の訪韓を考えているようです。ニューヨークで開催される国連総会は9月下旬です。スピーチも予定されていると聞いています。

 歴代の首相も退任直前に外国訪問をしていますが、相手国もやめていくトップと実務的なやりとりをするわけにもいかず、『お疲れ様でした』と労うのがせいぜい。そのため、『卒業旅行』『思い出づくり旅行』なんて言われていますよ(笑)」(同)

 Xにも、意義を疑問視するポストが多く寄せられていた。

《変な約束してこないでほしい。 次の方の迷惑になる》

《また、血税をばら撒きに行くのかしら?》

《首相辞めるって分かってる人に来られても先方も困るでしょう・・・》

 この「最後の外国訪問」にも国民の税金が使われる。岸田首相の最後の異名は「外交の岸田」か、それとも「ばらまきメガネ」か……。

 

「誰が勝っても地獄」河野太郎氏 “脱原発” 封印で批判殺到…石破茂氏も前言撤回「総裁選」は二枚舌&スネに傷ばっかり!

 
総裁選をショーアップして盛り上げ不祥事をチャラにしたいという自民党の総意。それに答えるべく歯の浮くような美辞麗句を並べ立て嘘もいとわない候補者たち。こうした身内の論理を見せつけられる国民は「やっぱりね」と呆れているのでは?
 
山崎 雅弘さん 
河野太郎は、傲慢で無能な上に常習的なウソと詭弁の使い手。日本の首相などとんでもない。最近でも、裏金は返金したとBBC記者にウソを吐き、自分に批判的なアカウントを片っ端からブロックして「誹謗中傷されたから」とウソをつく。権力者への批判を誹謗中傷にすり替える詭弁。
 
自民党総裁選に立候補した河野太郎氏(左)と石破茂氏

自民党総裁選(9月12日告示、9月27日投開票)へ向け、立候補表明が続くなか、立候補者の発言の “変節ぶり” が注目されている。

8月26日に表明会見をおこなった河野太郎デジタル大臣だが、原発政策について「今は電力を最大限供給するため、水素やアンモニア、核融合や(原発の)リプレース(建て替え)なども選択肢としてある」と示したことが話題になった。
「事実上、“脱原発” を封印した形になりました。もともと、河野氏は福島第1原発事故後に超党派の議員で設立された『原発ゼロの会』の発起人で、共同代表に就任するなど、脱原発を持論としていました。それを今回あっさりと方針転換させたわけです」(政治部記者)
 
河野氏は、その理由として電力需要の急速な伸びにより、「今はまず電力の供給を最大限にするために、あらゆる技術を張っておかなければいけない」などと語った。

しかし、X上では批判の嵐といった状態だ。

《「脱原発」が口先だけだったのは明白です。氏に限らず、三流政治家は、その場にあわせて受けそうな事を言いますが、軸がないので、話がコロコロ変わります》

《見本になる二枚舌野郎》

《河野太郎は脱原発とか言って嘘ついたから信頼してはいけない。薄っぺらな人間だと思います》

河野氏のほかに “変節” して批判を浴びたのは、8月24日に地元の鳥取県八頭町で出馬表明をした石破茂元自民党幹事長だ。

石破氏は「38年間の政治生活の集大成で、最後の戦い」と5度めの総裁選出馬を表明し、「国民と誠実に向き合う政治としたい」と意気込みを述べ、裏金議員への厳しい対応を示した。

政治資金収支報告書への不記載があった自民党の現職議員は計85人。そのうち過去5年間の不記載総額が500万円以上の議員らと旧安倍派幹部を含む計39人が処分されている。

「石破氏は『裏金事件に厳しく臨む』と明言し、『国民の審判を受けるにふさわしい候補者か、党として責任を持つ』と述べました。これは、自分が総理総裁になったら、次の選挙では処分議員を公認しない可能性があると言及した形です。

旧安倍派の議員から一斉に反発の声があがりましたが、党内の反発はある程度見越したうえで、党員や国民から一定の支持を得ようとしたのでしょう」(前出・政治部記者)

ところが、8月25日、鳥取県倉吉市で記者団の取材に応じた石破氏は、前日の発言をあっさり軌道修正してしまった。

「裏金事件に関係した議員の選挙での公認について、あらためて聞かれた石破氏は、『新体制になってどうするのか決める。(党総裁に)なってもいない者が予断を持って言うべきではない』とトーンダウンしたのです。これにはSNSで《一度吐いたツバは飲み込めんよ》といった批判が続出しましたね」(同)

出馬表明済みの小林鷹之氏は旧統一教会との関係を指摘され、初の女性首相を目指す上川陽子外務大臣も「女性が生まずして」発言で、3カ月前に大炎上したばかりと、“スネに傷” の候補者も多い。

そんななかでも、自民党内からは次々と立候補の表明が続く予定だ。

「小泉進次郎氏は、台風10号の影響で予定を変更し、9月6日に出馬会見の予定です。その前後には茂木敏充幹事長、林芳正官房長官、高市早苗経済安全保障大臣も会見を予定しています」(同)

しかし、X上ではこんな声まで――。

《しかしまあ、よくもこれだけ「誰が勝っても地獄」という状況を完璧に作り上げたよな、自民党総裁選》

これ以上、国民を失望させないことを祈りたい。

 

自民党総裁選出馬会見、「政治とカネ」問題で「抜本改革」を打ち出せない小林・河野、他の候補者は?

 
 
「自民党が変わることを国民の前にしっかりと示すために、私が身を引く」と述べて岸田首相が自民党総裁選への不出馬を表明したことを受け、自民党総裁選に向けての動きが活発化し、10人を超える議員が出馬の意向を示している。

まず小林鷹之議員が8月19日、河野太郎議員が26日に出馬会見を行い、総裁選に向けての政策、方針などについて述べた。

岸田首相が総裁選不出馬に追い込まれた最大の原因となったのは裏金問題、政治資金問題であり、総裁選に向けて、この問題をどう整理すべきか、これまでの経緯を振り返り、問題を整理してみたい。

昨年12月、自民党派閥政治資金パーティーをめぐる裏金問題が表面化し、検察捜査が本格化して以降、政治資金規正法違反事件等の実務経験に基づき、政治資金規正法自体に構造的な問題があり(政治家には政治献金を受け入れる複数の「財布」があるので、政治家側が裏金を受領した場合に、その帰属が特定できず処罰が困難であるという問題)、同法による裏金受領議員の処罰のハードルは極めて高いこと、処罰を免れても重大な政治責任がある「裏金受領議員」は、早急に、政治責任をとって議員辞職し、選挙で改めて有権者の信を問うべきであること、政治資金規正法の構造問題を是正する抜本的な制度改革を行うべきとの意見を述べてきた【「ザル法の真ん中に空いた大穴」で処罰を免れた“裏金受領議員”は議員辞職!民間主導で政治資金改革を!】。

国会で裏金問題の追及を続けてきた立憲民主党の「国対ヒアリング」にも、昨年12月18日、26日、今年1月20日と3回出席し、政治資金規正法の問題について説明し、今回の「裏金問題」を受けての政治資金規正法改正についても提案を行った。

私の予想どおり、その後の検察捜査は迷走し、裏金議員に対する厳正な処罰を期待していた国民の期待を大きく裏切ることになった。政治家たちが所得税の課税・納税すら行われないまま刑事処分を免れ、一方で、確定申告で厳格な納税申告を求められる国民の批判不満は最高潮に達した。

「裏金問題」表面化後、最初の国政選挙となった4月28日の3つの衆議院補欠選挙で、自民党は保守王国と言われ過去に敗北したことがなかった島根一区で惨敗、他の2つの選挙区では、公認・推薦もできず不戦敗という惨憺たる結果に終わった。

自民党内では、議員本人に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけたうえで、会計責任者が虚偽の記載などで処罰された場合、内容を確かめずに作成していれば公民権を停止する措置を導入するなどの「裏金問題の再発防止策」中心の政治資金規正法改正案を自公両党で国会に提出し、強引に成立させたが、そのような「その場しのぎ的対応」で国民の不満や怒りが収まるはずもなく、岸田内閣への支持率は低迷を続けた。

こうした中で、9月に任期満了に伴い自民党総裁選挙に向けて去就が注目されていた岸田文雄首相が総裁選不出馬、退陣の意向を表明したのである。

岸田首相の不出馬の最大の原因となったのが「裏金問題」であり、岸田首相が行ってきた対応が国民から全く評価されず、信頼を失ったからこそ、再選に向けての出願を断念せざるを得なかったのである。今回の総裁選では、「裏金問題」への対応に関して、岸田首相との違いをアピールできる対策の「競争」になると考えるのが当然だろう。

「裏金問題」への対応には、二つのポイントがある。

一つは、派閥から政治資金パーティーの売上のキックバック等を受け、政治資金収支報告書に記載しなかった議員(裏金議員)に対して、どのような対応を行うのかという問題、もう一つが、このような「裏金問題」を含め、政治資金制度をどのように是正していくのか、具体的に政治資金規正法をどう改正していくのか、という問題である。

この二つについて、国民に全く評価されなかった岸田首相の対応とは異なるどのような施策が打ち出せるかが注目点だ。

しかし、小林氏、河野氏の二人の政治資金問題、裏金問題についての出馬会見での発言の内容は、全く評価できないもので、「愕然とした」というのが率直なところであった。

「政治とカネ」問題についての会見での発言は、小林氏は、

「一人一人の政治家が自ら説明責任を果たしていく。これが原則だ。私も実態が正直よく分からない。検察当局が調べる中で、今回不起訴という処分になっている。そうした中で、検察のような権力、権限を持たない自民党が調査をするというのも一定の限界がある。新たな事実が出てきた場合には当然、党としての調査を考えるということだと考えている」

河野氏は、

「(裏金問題の)真相究明ができたというふうには思えない。ただ、捜査権を持っている検察が調べて分からないものを、どう真相究明をするのかというのは難しいものなのかなと思うが、不記載との指摘を受けて書類を直したらそれで終わりというのは、なかなか国民から理解を(得る)というのは難しいだろう。それならば、不記載と同じ金額を返還をしていただくことでけじめとする、というのがよろしいのではないかと思う」

というような内容だった(いずれも、東京新聞による要約)。

まず、裏金議員に対する対応について、二人に共通するのが、「捜査権を持つ検察以上のことはできない」と言って、裏金に関する事実解明を行う気がないということだ。この点についていえば、岸田首相がこれまで国会答弁で繰り返してきたことと全く変わらない。

「捜査権を持つ検察ができないことは自民党にもできない」というのは、全くの誤りだ。

検察が行えることは、刑罰法令を適用し、刑訴法に基づく権限を行使して、証拠により犯罪を立証して処罰を求めることだ。適用する刑罰法令に問題があれば、処罰が困難になり、刑訴法上の権限を用いることにも限界が生じる。また、検察の捜査に対しては、被疑者側には黙秘権があり、捜索差押等には令状主義の制約がある。被疑者側としては、検察の要求に任意に応じるだけであり、積極的に自発的に裏金をめぐる事実関係を明らかにしようとする動機がない。

裏金議員の中で唯一人、逮捕・起訴されたのが池田佳隆衆院議員であり、大野泰正参院議員は在宅起訴されたが、前記の政治資金規正法の「大穴」の下では、起訴はもともとかなりの無理筋であった(【「政治資金規正法の大穴」を無視した池田議員逮捕、「危険な賭け」か、「民主主義の破壊」か】)。二人とも、いまだに公判も始まっておらず、裏金をめぐる事実関係が公判で明らかになるかどうかも不明だ。

そういう意味では、今回の「裏金問題」については、検察による事実解明にはもともと限界があったと言わざるを得ない。

一方、自民党として、裏金の事実解明を行おうと思えば、行えることは十分にある。「公認権」という党所属議員の生殺与奪の力を有している自民党総裁として、裏金受領議員に、受領の経緯、保管状況、使途について可能な限り調査して報告させ、十分な説明責任を果たすことを次期衆院選の公認の条件とすれば、相当程度の事実解明ができるはずだ。

「検察捜査以上のことはできない」などという腰の引けた発言は、「裏金議員への配慮」によるものととしか思えない。

このような、裏金の事実解明に後ろ向きの姿勢を取り繕うためか、河野氏は、裏金議員への対応として、「不記載と同じ金額を返還をしていただくことでけじめとする」などと述べている。

自民党総裁として、裏金議員に返還を求めるというのは、どういうことなのか。この「裏金」は、派閥から所属議員にわたったものであり、自民党は返還を求める立場ではない。しかも、既に「寄附」として資金管理団体や政党支部の収支報告書の訂正をしている。仮に、議員個人に「返納」させるという意味であれば裏金が政治資金規正法に違反する議員個人宛のお金だったことになり、資金管理団体、政党支部宛の政治資金の不記載ととらえた検察の認定とも食い違うことになる。

「返還」と言っても、実質は「不記載額と同額の制裁金を科す」という意味であれば、そもそも、不記載の金額以外はほとんど事実解明も行われていないのに金銭的制裁を科すこと自体が問題であり、しかも、既に行った党の処分との関係で「二重処罰」の問題も生ずる。裏金議員側が反発するのも当然だ。

単なる思いつきで、このような裏金議員への対応を打ち出したとすれば。裏金問題、政治資金問題が最大のテーマになる総裁選への出馬会見での発言として、あまりに無理解・無責任だ。河野氏は、このような政治資金問題に関する発言を見る限り、総裁候補として失格と言わざるを得ないだろう。

もう一つのポイントである政治資金規正法の改正については、小林氏が、「改正政治資金規正法を厳格に守っていく」などと述べているが、少なくとも、裏金問題の背景となった「政治資金の不透明性」の解消に向けてさらなる法改正をする気は全くないようだ。「政治とカネ」問題での自民党への国民の不信に対する認識が甘いと言わざるを得ない。

国民が求めているのは、裏金問題の背景となった政治資金の不透明性を解消するための思い切った対策だ。岸田内閣で行った「その場しのぎ的」な法改正以上の抜本改革に後ろ向きのままでは、総裁選後の総選挙で国民に支持されるとは思えない。

この問題については、前の通常国会で政治資金規正法改正の議論が始まる前の5月8日に出した【後半国会の焦点・政治資金規正法改正、“裏金根絶”のための決定打は?】で、「政治資金規正法の『大穴』」を塞ぎ、政策活動費、旧文書交通費等も含め、政治資金の不透明性を解消する「抜本改革」について提案している。

この時は、自民党案への対案としての立憲民主党の政治資金規正法改正案が多くの問題を抱えたものであったことから、野党の代案を提案したものであった。今、まさに政治資金制度改正の議論をすべき場は自民党総裁選であろう。そこで求められているのは、これまでの政治資金の不透明さを解消し、国民の信頼が回復できるような政治資金規正法の抜本改革の具体案を競うこと、それについて党内のコンセンサスを作っていくことではなかろうか。

今週末から来週にかけて、有力候補とされている小泉進次郎氏を始め、総裁選候補者が次々と出馬会見をすることになるだろう。裏金問題、「政治とカネ」問題全般について、どのような具体的な対応方針を示すのかが注目される。



郷原信郎
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。