非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」国際運営委員の川崎哲(あきら)さんは「日米で『核使用の選択もあるぞ』との発信を強化することで、北朝鮮など周辺国に核保有を正当化させる口実を与え、核軍縮と逆行する恐れがある」と指摘。「首相が『核なき世界』を主導するというのであれば、アジア諸国との外交を強化し、紛争の種を減らすべきだ」

 

 

 日米両政府は28日、「核の傘」を含む米国の戦力で日本への攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」に関する初めての閣僚会合を東京都内で開いた。米側は核を含むあらゆる能力で日本防衛に関与すると強調。拡大抑止を強化し、戦略レベルの議論を深めることに合意した。米国による広島、長崎への原爆投下から79年の「原爆の日」を控える中、核抑止への依存をさらに深めるもので、核廃絶と逆行する岸田政権の姿勢が鮮明になった。(川田篤志)

◆上川外相「内外に対するメッセージの強化」

 拡大抑止に関する閣僚会合は、日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)に合わせて開催。中国やロシア、北朝鮮による核の脅威に対抗する目的で、4月の日米首脳会談で合意した日米同盟強化策の一環だ。上川陽子外相は閣僚会合の開催について、会合後の共同記者会見で「内外に対するメッセージのさらなる強化につながった」と意義を説明した。
 日米同盟の核抑止は、日本が核攻撃や核の脅しを受けた場合に、米国が核兵器による報復を行う意思と能力を示すことで敵国を自制させることを目指す。

 だが、「核なき世界」の実現を掲げるオバマ米大統領が2009年に就任し、日本政府は米国の「核の傘」への信頼性が揺らぐことを危惧。核政策を提言する米議会諮問委員会に懸念を伝え、日米両国は10年、事務レベルによる拡大抑止協議を立ち上げた。協議は年1、2回のペースで開催されたが、協議内容の詳細は非公表だった。

◆「核共有」は否定した岸田首相だが…

 

 

 22年、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、米国の核兵器を日本国内に配備して日米で共同運用する「核共有」の議論が浮上。岸田文雄首相は非核三原則と相いれないとして核共有を否定したが、「核の傘」が機能していると国内外にアピールする必要もあると判断し、今回の閣僚会合につながったとみられる。

 協議を閣僚級に格上げした意義について、外務省関係者は「何が起きても対処できるほど日米の議論が成熟し、準備が整っていると国外に示すことで抑止につながる」と話す。一方で、日本が米国の「核の傘」への依存度を高めれば、被爆地・広島出身の首相が目標に掲げる「核兵器のない世界」の方向性とは矛盾することになる。

 

◆周辺国に核保有を正当化させる恐れ
 非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」国際運営委員の川崎哲(あきら)さんは「日米で『核使用の選択もあるぞ』との発信を強化することで、北朝鮮など周辺国に核保有を正当化させる口実を与え、核軍縮と逆行する恐れがある」と指摘。「首相が『核なき世界』を主導するというのであれば、アジア諸国との外交を強化し、紛争の種を減らすべきだ」と訴えた。

 核抑止 壊滅的な被害を与える核兵器による脅しの効果で、敵国からの攻撃を防ぐとする考え方。冷戦時代に米国と旧ソ連は核軍拡競争を展開し、それぞれの同盟国は抑止力に期待して「核の傘」に入った。自国だけでなく同盟国にも広げて抑止力を提供するため「拡大抑止」と呼ばれ、「核の傘」はその一種。防衛目的の核兵器の存在を正当化する一方、ロシアによるウクライナ侵攻のように、核保有国と非核保有国との間で通常兵器による紛争が起こりやすくなるなど、「核抑止論は破綻している」(松井一実・広島市長)との見方もある。

 

在日米軍に統合軍司令部
2+2合意 自衛隊、事実上の指揮下に

 

「核の傘」強化・武器共同生産も
 

 日米両政府は28日、外交・軍事担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を都内で開催しました。共同発表文書に、東京・横田基地に置かれる在日米軍司令部について、ハワイのインド太平洋軍司令官の下で「統合軍司令部として再構成」すると明記。来年3月に創設される自衛隊の「統合作戦司令部」(約240人)の「重要なカウンターパート」だと位置付けました。

 今後、作業部会を設置して具体化を図りますが、最大の焦点となるのが日米の指揮統制関係です。共同文書は、「日米の指揮・統制構造の関係を明確にする」としていますが、「独立した指揮系統」になるとは明記していません。

 自衛隊は装備・情報両面で圧倒的に優位な米軍の指揮下に組み込まれる可能性は高い。国際法違反の先制攻撃まで選択肢に入れている米軍主導の戦争への参戦を拒むことが困難になるなど、主権に関わる重大な動きです。

 現在の在日米軍司令部の機能は基地の管理などに限定されており、部隊の運用や共同作戦計画の立案などはインド太平洋軍司令部が担ってきました。今後、こうした機能を日本に移転する形になるとみられます。また、自衛隊も陸海空といった複数の軍種を束ね、部隊を運用する統合作戦司令部を初めて創設。日米双方の統合司令部が連携強化を図ることで、中国を想定した共同出撃態勢を強化する狙いです。

 また、共同文書はF35ステルス戦闘機で使用する中距離空対空ミサイル(AMRAAM)や、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の生産能力を拡大するため、共同生産体制の強化を表明。米国はPAC3をウクライナや、パレスチナ自治区ガザで大規模虐殺を続けているイスラエルへ供給しているため、在庫が枯渇。その穴埋めが狙いです。殺傷兵器の輸出に道を開いた現行の防衛装備移転三原則でも禁止されている、紛争当事国への輸出につながるものです。

 さらに両政府は2プラス2と並行して、米軍の「核の傘」=核兵器を含む「拡大抑止」に関する閣僚会合を初開催。同会合に関する共同発表は、核戦力を強化する中国などを名指しし、米国の核政策や核態勢について閣僚級の議論を継続することを確認しました。日米は既に2010年から事務レベルの拡大抑止協議を継続していますが、その位置づけを高める方針です。79年前、広島・長崎に原爆が投下された8月を前にして、唯一の被爆国・日本で「核兵器のない世界」に逆行する核戦争体制の強化を議論する異常事態です。

 

 

3年前の悪夢を忘れたか? テレビが煽る五輪と猛暑、その裏で進む愚民政策
 

 安倍元首相ほど、五輪を政権浮揚や国威発揚に利用しようとした総理はいなかったのではないか。この馳発言で我々は、汚れた五輪を嫌というほど思い知らされたはずだ。
 

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
 

 「五輪自体のあり方が曲がり角に来ているのは誰の目にも明らかです。商業化に巨大化。カネがかかりすぎる。もはやアスリートのための大会ではなくなっています。そして、別の問題としてあるのは、五輪と政治の関係。今ごろ自民党は、パリ五輪を『パンとサーカス』にしようとしていますよ。これからテレビはニュース番組まで五輪にジャックされ、重要なニュースはますます報じられなくなる」
 

 その通りで、パリ五輪の期間中、自民党はシメシメだろう。華やかな開会式やメダルラッシュ報道で着々と進む「パンとサーカス」。権力者が民衆にパン(生活の糧)とサーカス(娯楽)を与え、政治に対する批判精神を忘れさせてしまう。そうした状況を意味する古代ローマの言葉である。
 

 「どんなにたくさんの金メダルを取っても、日本の行く末には関係ありません。自民党の裏金事件や防衛省・自衛隊のスキャンダルなど、国民が目を光らせていなければならないことがまだまだある。国のお金の使い方に関わる問題ですから」(五十嵐仁氏=前出)