マイナンバーカードを健康保険証として使うマイナ保険証の導入に伴い、設備投資の負担増で閉院する医療機関が増えている。地域医療機関の消滅は、医療のデジタル化が掲げる「保健医療の向上」と矛盾する。政府は強引なデジタル化の方針を見直すべきだ。

 医療のデジタル化は手段に過ぎず、地域医療が弱体化しては本末転倒だ。現行保険証の12月廃止方針を撤回し、マイナ保険証との併存を認めるよう重ねて求める。

 

 

 政府は昨年4月、医療機関に対し、患者の保険資格をマイナ保険証によりオンラインで確認することを原則義務化。今年4月には医療機関が診療報酬を請求する際、医療費を計算したレセプト(診療報酬明細書)をオンラインで請求することも原則義務化した。

 政府は、対応するシステム設置は補助金でまかなわれ、医療機関の実質負担はないとするが、医療者団体によると、専用光回線の導入工事などで自己負担を強いられる事例は少なくないという。

 

 開業医らでつくる東京保険医協会によると、2022年12月から今年5月までに退会した会員258人のうち、9%に当たる23人が保険資格のオンライン確認義務化を廃業理由の一つに挙げた。

 民間調査機関によると、今年1~6月に85件の歯科医院が倒産、休廃業した。過去最多を更新する勢いで、マイナ保険証の導入に伴う設備投資の増大が休廃業の一因と指摘されている。

 全国保険医団体連合会が昨秋に公表したアンケート結果では、レセプトを紙などで請求している診療所や歯科医院の19%が「オンライン申請が義務化されれば、廃業せざるを得ない」と回答。同連合会は全国で約1万機関が廃業しかねないと推計、警鐘を鳴らす。

 地方では人口減に伴って患者が減っていることに加え、開業医の高齢化も進む。新たな設備投資をためらうのも当然だろう。

 地域の「かかりつけ医」が廃業すれば、そのしわ寄せは住民がこうむる。憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を侵害しかねない。

 マイナ保険証の利用率は6月時点で9・9%にとどまる。政府は薬剤師約1万人を「デジタル推進委員」に任命し、10月からはマイナ保険証の利用率に応じて診療報酬点数を上乗せするが、普及策が強引すぎるのではないか。

 医療のデジタル化は手段に過ぎず、地域医療が弱体化しては本末転倒だ。現行保険証の12月廃止方針を撤回し、マイナ保険証との併存を認めるよう重ねて求める。