防衛省 218人処分

組織ぐるみの違反・不正判明

海自トップ辞任へ

 
 防衛省は12日、「特定秘密」の漏えいや海上自衛隊の潜水士による手当の不正受給などの違反・不正を巡り、事務次官や自衛隊制服組トップを含む関係者計218人(のべ220人)の処分を公表しました。200人以上が一斉処分される異例の重大事態であり、軍拡が進む一方、組織ぐるみで堕落・腐敗している自衛隊の実態が相次いで示されました。

 海自トップの酒井良海上幕僚長は減給処分とされました。酒井氏は19日付で辞任し退職します。

 潜水手当を巡っては、潜水艦救難艦の隊員62人が任務や訓練の際に支給される手当を架空請求。このうち11人が免職、48人が停職、3人が減給となり、不正受給を見抜けず指揮監督不十分として幹部3人が減給と計65人が懲戒処分されました。また計9人が訓戒・注意処分となりました。不正受給された手当は2017年~22年に計約4300万円に上るとされています。

 また、厚木航空基地隊など計3カ所に所属する、幹部を含む計22人の海自隊員が基地内の食堂で食事の無料支給対象者でないにもかかわらず代金を支払わず、計160万円相当の飲食を行い、降任や停職、戒告の懲戒処分を受けました。

 さらに、防衛官僚の幹部によるパワーハラスメントも初めて認定されました。防衛政策の企画・立案にあたる本省の内部部局の課長級以上の3人が部下に威圧的な言動を行うなどパワハラで停職や減給の懲戒処分を受けました。

 また、防衛省は、川崎重工業が海自との潜水艦修理契約に関して、取引先企業との架空取引でつくった年間2億円、合計十数億円とみられる裏金で海自隊員らに接待や金品の提供をしていた疑惑について「特別防衛監察」を早急に進めるとしており、処分者はさらに増える見通しです。

 特定秘密の不適切管理については漏えいが43件、手続き上の瑕疵(かし)が15件あったとしています。酒井海幕長の減給の他、事務次官や統合、陸上、航空の各幕僚長、情報本部長を訓戒とし指揮監督義務違反等で処分。他に停職15人、減給5人、戒告6人と計26人が懲戒処分で訓戒等が計89人となりました。

 特定秘密を巡っては無資格の隊員が特定秘密を扱う戦闘指揮所に勤務するなど海自艦艇38隻での不適切管理が確認され、陸自、空自、統合幕僚監部でも発生しています。

 

防衛省 218人処分
前代未聞の重大事態 首相出席予算委で解明を
山添政策委員長が会見

 日本共産党の山添拓政策委員長は12日、国会内で記者会見し、防衛省・自衛隊の一連の不祥事で218人もの大量処分が出たのは「前代未聞だ」として、岸田文雄首相本人出席で衆参の予算委員会を開き、「事実関係を解明し、その責任をはっきりさせることは不可欠だ」と主張しました。

 山添氏は、120人を超える処分を出した特定秘密の漏えい、海自の手当不正受給、無銭飲食、本省幹部によるパワハラ、川崎重工と海自潜水艦の修理契約をめぐる裏金事件に言及。「法や規律を守らない組織だという実態があらわになった」と指摘しました。

 その上で「岸田政権が安保3文書のもとで軍事費を倍増させ、国民には軍拡増税を押しつけ、憲法違反の敵基地攻撃能力の保有や戦闘機の輸出解禁などの大軍拡路線を突き進む一方で、これだけの不祥事が起きたのは言語道断。到底国民に受け入れられない事態だ」と批判しました。

 山添氏は、岸田首相自身が「組織そのものの立て直しが必要だ」との認識を示さなければならなかったほどの重大事態だが、その前提として、事実関係と実態の解明がさらに必要だと主張。とくに川崎重工との裏金事件は20年来に及ぶとされる防衛省と軍需産業との深刻な癒着が疑われるとして、実態解明が不可欠だと強調しました。


 

<社説>自衛隊の不祥事 軍拡路線の歪みが出た

 
 防衛省は酒井良海上幕僚長ら計117人を懲戒処分にした。訓戒を含む218人の処分は過去最大級。背景にある一連の不祥事は、第2次安倍政権以降の急激な防衛力強化の歪(ひず)みの表れでもある。安全保障の在り方を根幹から改めなければ、信頼は回復できまい。

 処分対象は特定秘密の不適切運用、パワハラ、海上自衛隊の潜水手当不正受給、自衛隊施設での不正飲食。増田和夫防衛次官、吉田圭秀統合幕僚長ら各組織トップの一斉処分は極めて異例だ。

 特定秘密を巡っては58件の違法な取り扱いを認定。特定秘密保護法に基づいて秘密を扱う公務員らの身辺を調査する「適性評価」を経ていない隊員に特定秘密を扱わせた事例が多くあった。
 
 同法は米国と共有する防衛機密の漏えい防止が目的だが、不適切な運用の背景に適性評価など制度自体の問題があるのではないか。
 ハラスメント体質の改善は進まず、手当の不正受給に至っては公金をだまし取る犯罪的行為だ。今回の処分とは別に、海自隊員が川崎重工業から賄賂まがいの金品や飲食を提供されていた問題でも特別防衛監察が行われている。

 実力組織が、規律だけでなく順法精神をも欠く事態は極めて深刻で危険ですらある。防衛省・自衛隊には解体的出直しを求める。

 安倍政権は特定秘密保護法に続き、歴代内閣が違憲としてきた集団的自衛権の行使を容認。外国同士の戦争に参加できる安全保障関連法を成立させた。岸田政権も平和憲法を逸脱する防衛政策を引き継ぎ、防衛予算倍増や敵基地攻撃能力の保有などを進めている。

 中国や北朝鮮の軍備拡張など周辺情勢の変化に応じて防衛力を適切に整備することは必要でも、予算や権限、防衛装備が急激に膨張し、組織に緩みやほころび、驕(おご)りが生じているのではないか。

 2023年度の防衛費約6兆8千億円のうち1300億円程度の使い残しも、必要予算を積み上げず「規模ありき」で予算を急増させた歪みだ。積算根拠なき「軍拡増税」の撤回を重ねて求める。

 自衛隊発足から70年。国民の信頼を得られたのは、災害派遣や国際貢献などの活動を地道に積み重ねてきたからだ。安倍政権以降の軍拡路線は、自衛隊組織の持続可能性をも脅かす。その責任は防衛省・自衛隊だけでなく、自民党が率いる政権全体にある。

 

特定秘密「漏えい」の定義知らなかった…海上自衛隊の認識不足 一方で「秘密保護の仕組みが問題」との声も

 
 「組織にたまっていたストレス」「組織の風通しが悪い」「組織が弛緩していた」—。不祥事続出に対し「組織」という言葉が並んだ。個々の行為に問題があるのは当然だが、個人への処分だけではもう解決できないということだろう。どう改めるべきか。国会での議論も求められる。
 
 
 防衛省は12日、国の安全保障に関わる「特定秘密」の不適切運用やパワハラ、手当ての不正受給などの不祥事で、最高幹部ら218人(延べ220人)を処分した。うち懲戒処分は、海上自衛隊トップの酒井良海上幕僚長ら計117人。酒井氏は19日付で退職するが、事実上の更迭とみられる。事務方トップの増田和夫次官、制服組トップの吉田圭秀統合幕僚長、陸上幕僚長と航空幕僚長、情報本部長の最高幹部計5人は内部規定に基づく訓戒となった。200人以上が一斉に処分されるのは極めて異例の事態。

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◆安全保障に関する特定秘密の漏えい・扱いの瑕疵は58件
 防衛省によると、安全保障に関わる機密性の高い「特定秘密」の漏えいや取り扱いの瑕疵(かし)は合わせて58件あった。このうち特定秘密を扱う資格のない自衛隊員を秘密を知り得る環境に置いた事案は35件。防衛省は「組織的な要因」があったと結論づけた。10年前に施行した特定秘密保護法が、現場で正確に理解されないまま運用されていたことも判明。秘密保護の徹底を目的とした同法の限界も露呈した。

 海上自衛隊トップの酒井良海幕長は12日の記者会見で、「漏えいの定義をしっかり部隊に認識させることができず、秘密保全や教育など、組織全体として問題があった」と釈明した。

◆無資格者を「知り得る状態」に置くことも漏えいに該当
 特定秘密保護法では、漏えいは誰かに漏らすだけでなく、映像や会話も含めて特定秘密を無資格者に知り得る状態に置くことも該当する。海上幕僚監部は、知り得る状態に置くことが漏えいに当たると認識しておらず、戦闘指揮所(CIC)などでの保全措置が不十分だったと認定した。

 具体的には、護衛艦の艦内にあるCICなどの区画には、レーダーやソナーによって得た周辺海域の外国船などの航行情報や、自艦の状態が表示されるモニターが複数設置されている。これらの情報には特定秘密が多く含まれるが、同法に基づき、秘密を扱うための身辺調査を伴う「適性評価」を受けた隊員と受けていない隊員が混在していた。

◆「10年間放置されたのが問題」
 防衛省幹部は取材に、「省内で漏えいの定義を組織全体に共有していれば、海自でも対策が取れた。10年間それが放置されたのが問題だ」と話す。同省は今後、再発防止策として、CICの勤務者と立ち入る可能性がある全隊員に適性評価を受けさせるとした。

特定秘密「漏えい」の定義知らなかった…海上自衛隊の認識不足 一方で「秘密保護の仕組みが問題」との声も
 
 
 特定秘密の指定対象は防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野。2023年末時点で各府省庁が751件を特定秘密に指定し、防衛省分が6割を占める。適性評価の保持者計13万5000人の内訳は、外務省や警察庁など26機関にまたがるが、漏えい違反が確認されたのは防衛省・自衛隊だけだ。

 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「業務に支障を来すような秘密保護の仕組みがそもそも問題だ。秘密保護を優先する法律の建前と、運用現場のちぐはぐさが明らかになった」と指摘。不必要な情報まで指定されている恐れもあり、「指定の妥当性を国会などがチェックするべきだ」と強調する。(川田篤志)

 

特定秘密漏えい、裏金接待、カラ手当…こんな自衛隊で大丈夫か 膨れる予算、隊員のストレスもパンパンな内実

 
 度重なる不祥事で12日に大量処分が予定されている防衛省・自衛隊。「特定秘密」漏洩(ろうえい)で海上幕僚長が引責辞任の意向を示しているほか、裏金作りやハラスメントも相次ぐ。単発のトラブルもあるが、組織で長く引き継がれてきた問題が目立つのが特徴だ。防衛費の急増を受け、拡大を続ける自衛隊で何が起きているのか。(山田雄之、森本智之)

◆海自、陸自、空自、統幕、背広組も…
 「これまでも防衛省には勧告し、意見しているのに誠に遺憾だ。厳しく対応しなければいけない」。海上自衛隊の複数の護衛艦で「特定秘密」の漏洩が確認された問題で、11日に非公開で開かれた衆院情報監視審査会。防衛省から説明を受けた岩屋毅会長は終了後、記者団にこう述べた。

 特定秘密のずさん運用は、陸自、空自、統合幕僚監部、背広組中心の内部部局(内局)にも広がる。3日には、潜水艦を受注する川崎重工業が捻出した裏金で海自の乗組員が飲食接待などを受けていたことも判明。複数の潜水隊員が実際は潜水していないのに手当を受け取ったことや、内局の複数幹部のパワハラ行為も明らかになった。
 10日に開かれた自民党の国防部会と安全保障調査会の合同会議で批判を受けた松本尚防衛政務官は「ご心配とご迷惑をおかけしている」と陳謝している。

 自衛隊基地のある街で注視する人たちは、不祥事の連続をどう見ているのか。

◆運転手が聞いた「いじめてやった」
 海自呉基地に加え、新たな防衛拠点計画が浮上した広島県呉市。市民団体「日鉄呉跡地問題を考える会」共同代表の西岡由紀夫さんは、「防衛費が43兆円と膨れ上がって浮かれているんじゃないだろうか。不信感しか生まれない」と憤る。

 川重からの接待問題については「上意下達の組織で、長年にわたり続いていたのは闇深さを感じる」と指摘。酒井良海上幕僚長が引責辞任の意向を示しているが、「組織を解体するぐらいの意気込みでの抜本的改革が必要だ」と訴える。

 「組織にたまっていたストレスのマグマが一気に表面化した」と話すのは、神奈川県横須賀市の市民団体「ヨコスカ平和船団」の鈴木茂樹さん。2年前まで市内でタクシー運転手をしており、海自隊員や防衛大学校の学生から「勤務がきつい」「いじめてやった」「いじめられてる」といった言葉をよく耳にしたという。「軍備増強で業務が増える一方で、人員不足が慢性化している。ストレスがたまりやすい構造の中、上手に発散ができない結果なんでしょうね」

◆そもそも、何が特定秘密だったのか
 「原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会」共同代表の呉東正彦弁護士も「『またか』が正直な印象だ。川重の接待や、相次ぐパワハラは組織の風通しが悪い証拠だ」とみる。「処分だけでなく、二度と起こさないよう再発防止策を講じなければならない」

 ただ特定秘密のずさん運用には、「処分の前に考えるべき問題がある」とくぎを刺す。「何が特定秘密に当たったのか、そもそも、本当に特定秘密にするべき情報だったのか。われわれには状況が分からないまま、情報統制だけが厳しくされていくのは許されるべきではない。客観的に検証できる仕組みが必要だ」

◆10人でやるべき仕事を6人で
 元海将で自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は「これだけ問題があちこちで噴出しているということは、順法精神や職業倫理、部隊の規律などさまざまな面で組織が弛緩(しかん)していたと言わざるを得ない。言い訳の余地がない」と指摘する。

 香田氏は「絶対にあってはいかんことです」と繰り返しつつ、不祥事が続発する背景を推察する。「中国やロシアの艦船の活動が活発になり、そのたびに現場では、警戒監視活動にものすごい時間を割かれている。任務が増えているのに、現場では慢性的な人手不足。10人でやるべき仕事を6人でやるような状況があちこちで起きている」

◆「石を抱かされても黙る」からバレない
 その上で、戦闘指揮所に特定秘密の無資格隊員を配置した問題について危惧する。「任務を達成するのに十分な人員がいない状況で、無資格運用をやらざるを得ない状況があったのでは。規則違反で、弁解の余地はない。ただ、現場を締め上げるだけでは根本的な治療にはならない。実力以上の仕事を現場に求めない工夫も必要だろう。こうした背景の問題に手を打たないと、同じようなことは3自衛隊どこでも起きうる」
 
 元海上自衛官で軍事ライターの文谷数重氏は「国民の血税をないがしろにしかねない」として、潜水艦乗組員と川重の癒着疑惑を特に問題視する。

 文谷氏によると、潜水艦は修理などの際にメーカーの工場に入り、乗組員はメーカー側の担当者と付きっきりで作業をする。「どこを修理するか、どの部品を交換するかはある程度、乗組員で決められるので、メーカーが慣習的にサービスを続けてきたのでは。潜水艦乗りは、石を抱かされても秘密を守る。口が堅く、フネ(自艦)のことは他の海上自衛官にも話さない。だから長い間続いたのでは」

◆国会が閉会したタイミングで発覚
 潜水艦は川重と三菱重工業の2社が交代で受注。「当事者が限られ密接な関係になりやすい。競争性も働きにくい」と構造的な課題も指摘する。

 一方、特定秘密の問題なども含め大型の不祥事が相次いで発覚したことには「政治的な影響が少なくなるよう、国会が閉会したタイミングを狙った可能性はある」とも述べた。
 
 不祥事は海自にとどまらず、内局でのパワハラ事案も複数確認されている。今年6月には陸上自衛隊でパワハラ被害の公益通報内容を所属部隊に漏らされたとして、北海道の50代の男性自衛官が国に慰謝料などを求め提訴している。

◆多額の予算、組織拡大のおごり
 自衛官からハラスメント相談を受けている元自衛官で軍事ジャーナリストの小西誠氏は「この10年ほど相談は増えている。昔は下士官クラスから一般隊員へのいじめのような内容が多かったが、最近は上級幹部から下級幹部へのパワハラが増えている」と述べる。

 中国をにらんだ南西シフトによる現場の業務量の増加に加え、防衛予算の大幅な増大で現場の隊員だけでなく内局の事務作業量も膨大になっているという。「あらゆるところにひずみが出ている。抜本的な対応を取らなければ、解決しない」

 軍事ジャーナリストの前田哲男氏は一連の不祥事について「要因はさまざまだろうが、共通するとすれば、第2次安倍政権以降続いた防衛省・自衛隊の拡大に対する反動といえる」と指摘し、こう推測する。

 「川重の問題は、多額の予算が割かれ組織が拡大することのおごりがあったのではないか。南西シフトが進み、人が不足する中で現場は過剰な任務や緊張を強いられている。そういう重みが一気に噴き出たように見える」

◆デスクメモ
 「組織にたまっていたストレス」「組織の風通しが悪い」「組織が弛緩していた」—。不祥事続出に対し「組織」という言葉が並んだ。個々の行為に問題があるのは当然だが、個人への処分だけではもう解決できないということだろう。どう改めるべきか。国会での議論も求められる。(本)