〈鹿児島県警・情報漏えい〉「さらしすぎとは思わない」性被害訴えた女性のチャットを会見で暴露した医師会は「ハニートラップ」とも発言し身内の性暴力を否定。記者からは「なぜそこまでするのか?」とツッコミも…

 
 
鹿児島県警の不祥事に絡み、2021年に当時の県医師会職員A氏から強制性交の被害を受けたと看護師Bさんが訴えている問題で、県医師会が会見を開き、Bさんの主張を否定。性行為は「合意の上だった」と強調した。さらに会見では、その“証拠”としてBさんのチャットを暴露。医師会幹部は、Bさんが「ハニートラップと思われても仕方ない」行為をしたとまで口にし、会見は異様な空気になった。
 
私信を暴露した鹿児島県医師会の“異様”な会見
「医師会はなぜそこまでするのか」

6月27日、鹿児島県医師会館で大西浩之・医師会副会長と立元千帆常任理事が2時間近く行なった会見は、剣呑な空気に包まれた。2人の幹部に直接そう問い質したのは、地元で最大の発行部数を誇る南日本新聞の記者だ。

複数の記者が疑問を呈したのは、2021年8~9月に新型コロナウイルス感染者の宿泊療養施設でA氏から強制わいせつと強制性交を受けたと訴えるBさんが、A氏と同年10~12月に交わしたとされるLINE・メッセンジャーのやりとりや通話記録を含む大量の資料を医師会が配布し、これをスライドで大写しする中で会見を進めたことについてだ。

普段なら資料配布をありがたがるメディアだが、これに違和感を持ったのには経緯がある。

「Bさん側は2022年1月にA氏を刑事告訴し、医師会にも対応を求めました。これに対して医師会は同年9月、加害を否定したA氏の主張が正しいとし、性行為は『合意の上である蓋然性が高いと思慮される』という調査委員会の報告書を県に提出しています。

しかし県は、調査前から『行為が複数あった』『強制であったかどうか』などとBさんの訴えを取り合わない発言をしていた医師会理事が調査委に加わったことなどを挙げ、調査の進め方に問題があったと医師会に指摘し、当時から調査の公正性は疑われていました」(地元医療関係者)

県警は2023年6月になってからA氏を書類送検し、鹿児島地検は同年12月に嫌疑不十分で不起訴とした。Bさんは納得できないとして検察審査会に審査を求め、A氏に損害賠償を求める訴訟を起こしている状態だ。
 
医師会「事実に基づかない一方的な記事が散見される」
「これとは別に、県警巡査長の藤井光樹被告(49)=懲戒免職、地方公務委員法違反罪で起訴=がA氏に絡む捜査資料を持ち出す事件が起きました。鹿児島県警は情報漏洩事件として今年4月8日、藤井被告を逮捕し、問題の資料を元に記事を書いた福岡のニュースサイト『ハンター』を家宅捜索しました。

この際、偶然に県警が確保したデータの中に、今年3月に退職した県警元警視正で前生活安全部長の本田尚志被告(60)=国家公務員法違反罪で起訴=が北海道のフリージャーナリストに送った内部資料があり、この“第2の漏洩”に気づいた県警は、本田被告も逮捕しました。

ところが、本田被告が“情報持ち出しは、県警トップの野川明輝本部長が現職警察官による犯罪のもみ消しを図ったことが許せなかったからだ”と主張し、大騒ぎになりました。その流れで、そもそもガサの名目になった情報漏洩に絡み、A氏の強制性交疑惑の捜査や医師会調査が妥当だったのかどうかがクローズアップされるようになりました」(社会部記者)

こうした事情は前記事(#2、#3)で詳述した。そこで医師会は「鹿児島県警をめぐる一連の報道の中で、発端となったのが医師会の関与する事件で、県警と医師会が結託して事件を隠蔽したことから内部告発が来た、という主旨の事実に基づかない一方的な記事などが散見される」とし、これを否定するために会見を開いた、と立元氏は会見の冒頭で述べた。 

 A氏が「シロ」、すなわち性行為が合意の上であったことが県警との結託がないことを示す前提となるため、大西氏は「今日言いたいことは、たった一つなんです。われわれ、“素人の裁判”と言われるかもしれませんが、強制性交はないと判断しております」と強調した。

それを証明するには、行為があったあともA氏とBさんが親密だったとアピールする必要があり、そのために2人の間の私信を公開したというわけだ。

通話記録や雇用主・C氏との資料まで配布
Bさんの弁護士は「当然、公開には同意してない」と猛反発している。

公表されたやりとりは、プライバシー侵害に加担する恐れがあり内容を詳しく紹介できないが、Bさんが人物を取り違えて噂話をしてしまったと釈明したり、打ち合わせのために会う時間を尋ねたりする内容だ。

会見では、日時が記された2人の通話記録や、Bさんを支援している雇用主・C氏とA氏とのやりとりに関連する資料なども配布された。医師会は、こうした資料がスライドで大写しにされた会見の映像を、YouTubeでも公開している。

会見で大西氏は、Bさんのチャットを読み上げ、以下のように強調した。

「2人の仲を、いろんな話をするなかで調査しました。非常に仲がいいと。仲が良すぎて、怪しいと思う者もいた」

「(2人は)非常に、毎日のように長い電話をしております。20分のときであったり、2時間のときであったりですね」

だが関係者によると、Bさんは当時体重が100キロ以上あった巨漢のA氏に抵抗できず、最初の被害に遭ったあとは「現実ではなく悪夢だ」と自分に言い聞かせ、療養施設への派遣勤務期間が終わるのを待った、と周囲に打ち明けている。

会見でも、性暴力の被害者が精神的な支配下に置かれ、加害者に迎合することがあるのではないか、と質問が飛んだ。

これに対し、大西氏は次のように述べ、委員会では性犯罪被害者の心理が考慮されなかったことをうかがわせた。

「迎合はよくわかりません、私は。あるということは、知っていますけれども、迎合というのがどの程度まであり得るのか、そういう形の関係をずっと、1カ月間続けられるものだろうか」

さらに、性行為の合意があったかなかったかは、行為のあとではなく事前の同意の有無を見て判断すべきだと指摘されると、

「行為の時点での合意があった、なかったは、本当に言い分がまったく食い違っていますから、それを証明することはできないんです」

とも言い切った。それでも、「いろいろな調査結果、こういったメールとか、それが違うと言われれば違うのかもしれませんが、いろいろなものを総合的に判断して、決して隠蔽しようとか、そういう意図はなく、正直にこういう結論であろうという結果を出した」と説明した。

ただ、公表された行為後のやりとりでは、Bさんが事前に性行為に同意していたことはうかがえない。ここに話が及ぶと大西氏は、今回公開した資料は自分が個人的に収集したもので、調査委にはこれ以外に多くの資料があるが、それを公開しろというなら「女性を貶めることになりますよ」というのだ。
 
「ハニートラップと思われても仕方がない経過がある」と発言
一方で関係者によると、鹿児島の女性県議のひとりが最近、Bさんの行為は「ハニートラップ」だと吹聴しているとの情報がある。

会見で記者のひとりがこの件に触れた際、大西氏は「申し訳ないんですけど、女性の矛盾がいっぱいあるなぁと思っているんですけど、男性の供述を詳細に、これは調査委員会の話ですから言えませんけど、ハニートラップと思われても仕方がない経過があるわけです」とも発言した。

「言えない」はずの調査委の議論をわずかに示しながらBさんに問題があったとする話法は続き、ついには「私もその、調査委員会のなかで『これは女性の側の強制性交じゃないか』と言いました。弁護士さんたちに。でも弁護士さんは、ごめんなさいねこれ、言ったらいけないんでしょうけど、『それは、そこまでは言えない』と。そういうふうに言われたような経過もありますけど、具体的には言えません」との発言まで飛び出した。

会見ではチャットのやりとりなどを医師会が資料として配ったことに対し、記事の冒頭のように「医師会はなぜそこまでするのか」という疑問の声が出た。これに常務理事の立元氏は「さらしすぎではない」と反論している。公表した情報だけでは“強姦がなかったとの証明にならない”と別の記者が指摘したことが理由だと立元氏は述べた。

その反論の後に、大西氏の発言は踏み込んだ表現になっていった印象だ。性被害を受けたという女性の申し立ては虚偽だとの説明を、会見に出席したメディアが素直に受け入れないと見て、“説得”を強めようとしたのか。

A氏とBさんの間に合意があったかなかったかは、警察が疑念を持たれない形で捜査をしていれば、結論への疑問も少なかったはずだ。

だが、鹿児島県警は前記事(#3)のとおり、捜査を始める前からA氏に「事件性はない」と伝え、警察の捜査よりも先に捜査権も専門性もない医師会が身内のA氏を「シロ」だと決めつけた。これでどうやって疑念がぬぐえるのか。
 
 

〈鹿児島県警・情報漏えい〉不祥事の発端となった医師会職員の“強制性交疑惑”。県警は捜査前から「事件にならない」と告訴された職員と元警官の父に伝えていた! 医師会幹部は「捜査は途中から一生懸命」と会見で口を滑らし…

 
 
鹿児島県警の一連の不祥事の「発端」と指摘される、鹿児島県医師会職員(当時)の男性A氏による強制性交疑惑。被害を訴えた女性は2022年1月にA氏を刑事告訴したが、その前後に県警がA氏に「事件性はない」と伝えていたことがわかった。警察はなぜ、捜査を行う前から捜査対象である人物にこのようなことを伝えたのか。一連の事件の源流は、このときだった可能性がある。
 
鹿児島県医師会による“不自然な経緯”
まずは、鹿児島県警による一連の問題を振り返っておこう。

「鹿児島県警に全国の目が向いたのは、今年3月に退職した県警元警視正で前生活安全部長の本田尚志被告(60)=国家公務員法違反罪で起訴=が、内部資料をフリージャーナリストに漏えいしたとして5月30日に逮捕されたことがきっかけです。

本田被告はその動機について、盗撮容疑がある現職警察官への捜査を県警トップの野川明輝本部長が止めたとし、『県警警察官の犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとし、いち警察官としてどうしても許せなかった』と主張しました。これが本当なら、本田被告の行為は秘密漏えいではなく、公益通報にあたる可能性があります。

しかも、県警が別事件の捜査名目で福岡のニュースサイト『ハンター』に行なった家宅捜索で押収した資料から、本田被告の“容疑”が浮上したことがわかりました。その後、多くのメディアが取材機関への強制捜査を批判し、問題はさらに拡大しました」(社会部記者)

「ハンター」へのガサの名目になった事件こそが、医師会職員A氏による強制性交疑惑から生まれたものだった。

「始まりは、民間病院に務める看護師の女性Bさんが、2021年8~9月に新型コロナウイルス感染者の宿泊療養所でA氏から計5回、強制わいせつと強制性交の被害を受けたと2022年1月に刑事告訴をしたことでした。

ところが県警の捜査が遅々として進まないうちに、A氏を雇用していた県医師会は2022年9月、調査委員会がA氏の主張に沿う形で、性行為は『合意の上である蓋然性が高いと思慮される』と結論づけたと発表しました。

肝心の県警の捜査はさらに遅れ、告訴から1年半も経った2023年6月になってA氏を書類送検しました。

これを受けた鹿児島地検は、2023年末に嫌疑不十分でA氏を不起訴としましたが、Bさんは検察審査会に審査を求め、民事でも損害賠償を求める訴訟をA氏相手に起こしています。

捜査機関が結論を出していないのに、捜査権限もなく性犯罪被害者の支援に長けているわけでもない医師会が、身内のA氏の犯罪を否定する結論を先に出し、結局A氏の刑事処分は見送られました。この不自然な経緯は、当時から注目されていました」(地元紙記者)

そして、A氏の立件回避を図る動きがあったと県警の内部資料を引用して報じていた「ハンター」を、鹿児島県警は4月8日に家宅捜索したというわけだ。ハンターが指摘する疑惑には、実体があったのだろうか。
 
県が「調査の進め方に問題があった」と糾弾
今回わかったのは、2022年1月にBさんが警察への告訴に踏み切った時期に、県警がA氏に「事件性がない」と伝えていたとみられることだ。

話したのは、県医師会の顧問弁護士を務める新倉哲朗氏。6月27日に県医師会の大西浩之副会長と立元千帆常任理事が開いた会見に同席し、明らかにした。

「Aさんから(自分が事情を)聞いたときに、Aさんが『県警にも相談に行きました』と。で、そのときに(A氏が)お父さんと一緒に行ったかまではわかりませんけども、『県警から事件性がないと言われたんです』という話をされていますから」(新倉弁護士)

実は、A氏の父は2021年3月に退職した元警察官だ。A氏と父は、Bさんが鹿児島中央署に告訴状を出したか出す準備をしていた時期に同署を訪ねており、署員から“事件にならないから安心しろ”と言わんばかりの言葉を聞いていたというのだ。鹿児島中央署はBさんの告訴状受理を一度は拒んでおり、当時は本格的な捜査は行われていなかった。

新倉弁護士はさらに、A氏から聞いた内容を医師会の当時の池田琢哉会長に伝えたとも話した。池田氏は新倉弁護士からこの報告を受け、Bさんの告訴から1カ月も経っていない2022年2月10日に、所管の県くらし保健福祉部を訪問している。

「このとき池田氏は、A氏と父親が警察に相談して『刑事事件には該当しないと言われている』と発言しながら、『強姦と言えるのか疑問』と主張しています。また、その12日後の2月22日には、当時常任理事だった大西氏も、医師会内の集まりで同主旨の発言をしています。

つまり、医師会最高幹部は調査委員会が動き出す前から、性行為は合意だったという方向性を外部にも口にしていたわけです。この経緯を、県は最後まで問題視しました」(鹿児島県関係者)

そもそも、いい大人であるはずのA氏が、なぜ父親を伴って警察に出向くのか。これについて立元氏は、会見で「告訴される、もしくは告訴されていると考えて中央警察署に行ったというふうにお聞きしています」と話した。

告訴されると考えて警察に出向いたのなら、自分に非はないと訴えに行ったのではないのか。そう問うと、立元氏は「そこの詳細については、私はさすがに当事者ではないので、わかりかねます」と言うだけだ。

その後、県医師会は2022年3月から7月までに、6回の調査委の会議を開催。前述のとおり、2022年9月に性行為は「合意の上」だったとする報告書を県に提出している。

「県への報告で医師会は、コロナ療養所での性行為は不適切だが、A氏は一定の社会的な制裁を受けたとして情状を酌量し、停職3カ月にすると伝えました」(鹿児島県関係者)

ところが、県はこの報告に強い不快感を示した。同じ関係者が続ける。

「性行為については、知事名の書面で池田会長に厳重注意が言い渡されました。しかし、それは表の話です。実は県は、調査自体に問題があったと口頭で厳しく注意しています。

関係者の聞き取り前から『行為が複数あった』『強制であったかどうか』との問題発言をした理事が調査委員会に入ったことを挙げ、『調査の進め方に問題があった』と断言しました。

さらに県は『実名が報じられたわけでもないA氏が、何をもって社会的制裁を受けたのか』と追い打ちをかけています」(県関係者)
 
県警の捜査は「途中から一生懸命になった」
県に糾弾された医師会調査のあと、県警はさらに9カ月の時間をかけ、2023年6月にA氏を書類送検した。そこで起きたのが、元県警巡査長・藤井光樹被告(49)=懲戒免職、地方公務委員法違反罪で起訴=による捜査情報の持ち出しだ。

「書類送検の3日後から、藤井被告は『告訴・告発事件処理簿一覧表』など、この事件の捜査書類を複数回持ち出しました。本田被告に先立つ“第1の情報漏洩”と言えます。

これを入手した『ハンター』は、当時の鹿児島中央署長X氏が主導し、A氏の立件回避を図るかのような捜査指揮が行われたと、追及報道を本格化させたのです」(地元記者)

書類送検が行われたのにもかかわらず、藤井被告が書類をハンターに渡したのは、「不審な捜査指揮を明るみに出し、地検にまともな処分を促す狙いがあったのかもしれない」との指摘が出ている。

これは、A氏が書類送検される直前の2023年5月に、藤井被告がBさんを支援する雇用主・C氏を突然訪ね、「自分は警察を代表する立場はないが、被害に遭われた女性に関しては、本当にうちの警察はよろしくない対応を取って、誠に申し訳ありません」と謝罪していたためだ(#2)。

この謝罪後に捜査情報を外部に持ち出した藤井被告は、ハンターへのガサ入れと同じ4月8日に逮捕されている。

県警はBさんの告訴を受け、きちんと捜査をしたのか。これについて県医師会・大西副会長は6月27日の記者会見の終了直後、県警の動きを問われ、次のような言葉を口にした。

「それは途中で方針が変わったんですよ。やっぱり、それは僕らもよくわかりませんけれども、僕らからしてみれば、警察はとりあえず調査を一生懸命して、途中から。そして判断を仰ごうと。上の方に。そういう形で書類を出したわけですよね」(大西氏)

警察が“途中から”一生懸命になったとは、何を意味するのか。真意を問おうとすると、医師会関係者が「軽々に言わんでいいですよ」と割って入り、大西氏の言葉は止まった。

鹿児島県警本部は、警察官がA氏に「事件性がない」と発言をした事実があるのかという質問に「個別事件に関することであり、回答を差し控えさせていただきます」と答え、否定も肯定もしていない。

一連の不祥事を受け警察庁は6月下旬から同県警に対し特別監察を始めているが、県警によると、強制性交疑惑の捜査は対象に含まれていない。膿を出し切るには、この問題にメスを入れるべきではないのか。

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取材・文 集英社オンラインニュース班