2021年秋に新型コロナウイルス感染者の療養施設で起きた鹿児島県医師会の男性職員(2022年10月に退職)が起こした強制性交の疑いが持たれる“わいせつ事件”を巡る問題で、「合意の上での性行為」と強弁してきた県医師会の幹部二人が27日、顧問弁護士同席でわざわざ会見を開き、これまで以上に過激な主張を繰り広げた。

その中で立元千帆常任理事は、ハンターが報じた男性職員の“セクハラ・パワハラ”について、「そのような件で処罰された事実はない」「(訴え自体もなかった)と理解している」などと事実上否定。終始、男性元職員を庇う姿勢をみせた。男性元職員のセクハラ、パワハラについては22年11月に本サイトで詳しく報じており、医師会側の言い分に反論するため、加筆・修正して再掲する。(*県医師会の池田琢哉会長は6月15日に退任。本稿では当時の役職名のままとする)

■内部調査で明らかになっていた男性職員のハラスメント
事件を受けて県医師会が設置した「調査委員会」は、2022年3月3日に第一回の会議を開催。その中で、新型コロナ療養施設でのわいせつ事案とは別に、当該男性職員のセクハラ、パワハラが議題に加えられていた。下は、ハンターが独自に入手した調査委員会議事録の1ページ目である。

 

 

わいせつ事件を受けて県医師会が設置した調査委員会には、男性職員のハラスメントに関する証拠が提出され、事実関係が認定されていた。

しかし医師会は、鹿児島県に提出した調査報告書や報告書提出後の記者会見で、ハラスメントの事実には一切触れず、性被害を訴えている女性と男性職員の間に「合意があった」とする見解だけを強調していた。ハラスメントの隠蔽だが、調査委員会のメンバーや医師会の理事は、実態を知っていたはずだ。

下は調査委議事録の一部だが、男性職員のセクハラやパワハラが明確になっていたことが分かる(*赤いアンダーラインはハンター編集部)。

 

 

医師会上層部は、調査委設置以前から「合意があった」と公言していた池田会長の立場を守るため、男性職員によるハラスメントの実態を隠蔽し調査結果を歪めた可能性が高い。

問題の男性職員が起こしたわいせつ事件を巡っては、9月27日に医師会から塩田康一鹿児島県知事に提出された調査報告書や同日に開かれた医師会の記者会見で、同会顧問の新倉哲朗弁護士(和田久法律事務所)が、刑事事件として捜査中の事案であることを無視して「合意に基づく性行為だった」と断定。その上で、「一定の社会的な制裁を受けた」などとして「情状酌量の上、停職3か月」(報告書の記述)という極めて軽い処分で済ませていた。

医師会が、本来なら内規にある「諭旨退職・懲戒解雇事由」にあたるはずの事案を「停職3か月」という極めて軽い処分にした最大の理由は、調査委が、問題となった性交渉を「合意に基づくもの」と断定したからだ。だが、男性職員がセクハラ、パワハラの常習者だとすれば、当該職員の主張には重大な疑義が生じるだけでなく、療養施設などでの性交渉が、じつは日頃のハラスメントの延長だったとする見立てさえ成り立つことになる。そのため池田会長や顧問弁護士を含む医師会上層部は、別件のハラスメント被害をすべて隠し、ことさら「合意に基づく性行為だった」と喧伝していた。「情状酌量」など聞いて呆れる

では、男性職員は、具体的にどのようなハラスメントを行っていたのだろう。当時、男性職員が退職するという情報を得て取材を続けていたハンターに寄せられたのは、ハラスメントに関する数々の証言と、それを裏付ける証拠だった。

 


鹿児島県医師会男性職員「セクハラ・パワハラ」の証明|会見説明に疑義
2024/7/2社会セクハラ, パワハラ, 大西浩之, 強制性交事件, 池田琢哉, 立元千帆, 鹿児島県医師会
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2021年秋に新型コロナウイルス感染者の療養施設で起きた鹿児島県医師会の男性職員(2022年10月に退職)が起こした強制性交の疑いが持たれる“わいせつ事件”を巡る問題で、「合意の上での性行為」と強弁してきた県医師会の幹部二人が27日、顧問弁護士同席でわざわざ会見を開き、これまで以上に過激な主張を繰り広げた。

その中で立元千帆常任理事は、ハンターが報じた男性職員の“セクハラ・パワハラ”について、「そのような件で処罰された事実はない」「(訴え自体もなかった)と理解している」などと事実上否定。終始、男性元職員を庇う姿勢をみせた。男性元職員のセクハラ、パワハラについては22年11月に本サイトで詳しく報じており、医師会側の言い分に反論するため、加筆・修正して再掲する。(*県医師会の池田琢哉会長は6月15日に退任。本稿では当時の役職名のままとする)

■内部調査で明らかになっていた男性職員のハラスメント
事件を受けて県医師会が設置した「調査委員会」は、2022年3月3日に第一回の会議を開催。その中で、新型コロナ療養施設でのわいせつ事案とは別に、当該男性職員のセクハラ、パワハラが議題に加えられていた。下は、ハンターが独自に入手した調査委員会議事録の1ページ目である。

わいせつ事件を受けて県医師会が設置した調査委員会には、男性職員のハラスメントに関する証拠が提出され、事実関係が認定されていた。

しかし医師会は、鹿児島県に提出した調査報告書や報告書提出後の記者会見で、ハラスメントの事実には一切触れず、性被害を訴えている女性と男性職員の間に「合意があった」とする見解だけを強調していた。ハラスメントの隠蔽だが、調査委員会のメンバーや医師会の理事は、実態を知っていたはずだ。

下は調査委議事録の一部だが、男性職員のセクハラやパワハラが明確になっていたことが分かる(*赤いアンダーラインはハンター編集部)。

医師会上層部は、調査委設置以前から「合意があった」と公言していた池田会長の立場を守るため、男性職員によるハラスメントの実態を隠蔽し調査結果を歪めた可能性が高い。

問題の男性職員が起こしたわいせつ事件を巡っては、9月27日に医師会から塩田康一鹿児島県知事に提出された調査報告書や同日に開かれた医師会の記者会見で、同会顧問の新倉哲朗弁護士(和田久法律事務所)が、刑事事件として捜査中の事案であることを無視して「合意に基づく性行為だった」と断定。その上で、「一定の社会的な制裁を受けた」などとして「情状酌量の上、停職3か月」(報告書の記述)という極めて軽い処分で済ませていた。

医師会が、本来なら内規にある「諭旨退職・懲戒解雇事由」にあたるはずの事案を「停職3か月」という極めて軽い処分にした最大の理由は、調査委が、問題となった性交渉を「合意に基づくもの」と断定したからだ。だが、男性職員がセクハラ、パワハラの常習者だとすれば、当該職員の主張には重大な疑義が生じるだけでなく、療養施設などでの性交渉が、じつは日頃のハラスメントの延長だったとする見立てさえ成り立つことになる。そのため池田会長や顧問弁護士を含む医師会上層部は、別件のハラスメント被害をすべて隠し、ことさら「合意に基づく性行為だった」と喧伝していた。「情状酌量」など聞いて呆れる

では、男性職員は、具体的にどのようなハラスメントを行っていたのだろう。当時、男性職員が退職するという情報を得て取材を続けていたハンターに寄せられたのは、ハラスメントに関する数々の証言と、それを裏付ける証拠だった。
 

セクハラの証明

 

女性

女性

セクハラがひどい。このまま続くなら上に相談する。気持ち悪い。


 医師会職員とみられる女性から、SNS上でこのように厳しく追及されていたのは、新型コロナウイルス感染者の療養施設でわいせつ事件を起こした男性職員。男性職員は次のように返信していた。

 

 

すみません。やめます。失礼しました。きちんと謝ります。次は絶対ありません。すみません。やって良いことではないと理解しておりましたが。本当に申し訳ありません


 セクハラ行為は別の女性にも行っていたようで、被害が広がっていたことを示す記述もある。

 

 

女性

女性

派遣さんに抱きつくな。

女性

女性

みんな迷惑している。


 これに対して男性職員は――。

 

 

あなたが言う通り。間違いはありません。明日から心を入れ替えます


 殊勝な姿勢をみせる男性職員だが、被害を受けた女性の怒りは収まらず、強い言葉での非難が続いていた。

 

 

女性

女性

病気だと思うので治してください。

女性

女性

派遣さんにしたこととか、私が知らないと思ったら大間違いです。絶対許しません。

 

女性の怒りの前に、男性職員は“完落ち”。自分のセクハラが病的なものであることを認め、謝罪を繰り返していた。

 

全て私が悪い

診断と治療を受ける

 

この後に被害を受けた女性が放った一言は、男性職員のハラスメントが広範囲に、しかも常習的に行われていたことを示している。

女性

女性

みんな我慢してた。何度すみませんと言われても許さない。一生許さない。

 

■パワハラの証明
男性職員によるパワハラの証拠もみつかっていた。

被害者とみられるのは、新型コロナの療養施設に勤務していた女性の看護師。医師会の関係者らしき人物に、男性職員から“奴隷扱い”されたと告白し、話をするたびに動悸がすることや、メールを送信するだけでも「手が震える」と訴えていた。原因は、男性職員によるパワハラである。

興味深いのは、この被害者が男性職員同様に怖がっていた別の女性看護師(以下、A看護師)がいたことだ。被害にあった女性は、そのA看護師についても、話をするたび「動悸がする」ほど嫌な思いをしていることを打ち明けていたという。実は、怖がられていたそのA看護師こそ、調査委の聞き取りに対し、強制性交の被害を訴えている女性スタッフや、かつて女性スタッフとともに働いていた医療機関を悪しざまに語った人物。A看護師の証言が都合よく使われた結果、被害を訴えている女性スタッフについてのでっち上げられた悪評が、医師会関係者の間に広まっていることが分かっている。最近ハンターが追及した、いわしげ仁子県議会議員(鹿児島市・鹿児島郡区。当選3回)による「ハニトラ発言」も、その延長線上にある。

パワハラ被害を受けた女性はA看護師と一緒に仕事することを拒んだというが、相談された問題の男性職員は「あまりわがままが過ぎると、勤務できなくなる」「勤務から外す」などと脅しともとれる言葉で勤務を強要していた。パワハラにあった女性看護師は、他にもいたとされる。

会見を開いて男性元職員を過剰なまでに擁護し、被害を訴えてきた女性をこれでもかと誹謗中傷した医師会の大西浩之副会長と立元千帆常任理事。なぜ元職員のセクハラ、パワハラを隠したのか、説明すべきだろう。

 

「ウォッチドッグ」ー鹿児島県警問題の背景ー

 
行われ、情報漏洩を行ったとして元巡査長が逮捕・起訴された。不当なガサ入れで別の「内部告発」を見つけ出した県警は、元県警生活安全部長を同じように逮捕し、検察が起訴した。
 
 いずれの事案も、内部告発された先がネットメディアの記者であり、フリーのジャーナリストという大組織に属さない存在だったからこそ、躊躇なく強制捜査の対象にしたとしか思えない。現に、今回以上に問題だった過去のケースでは、逮捕者どころかガサ入れさえも行われていない。本稿は、警察組織と「ウォッチドッグ」であることを放棄した大手メディアへの警鐘である。
 
■自殺未遂者まで出した「読売新聞」の誤送信問題
 2012年7月20日、福岡県警や裁判所を担当する報道各社の記者に、読売新聞の記者からメールが配信された。当時、報道関係者の間で噂になっていた現職警官の収賄事件に関する捜査情報で、取材相手が福岡県警の監察官であることが分かる内容だった。いわゆる「取材メモ」である。
 
 社内向けに送信したつもりが他社の記者に送ってしまったというお粗末な「誤送信」だったが、事実関係を掴んだハンターが報じたことで、大変な問題に発展する。詳しい顛末については、旧サイトの配信記事をご覧いただきたい。

 絶対に守らなければならない「情報源」を明かしたことは記者失格=解雇で済むかもしれないが、捜査情報を漏らした警察官は「守秘義務違反」、情報を聞き出してスクープを狙った記者は情報漏洩の「そそのかし」にあたる。責任を感じたのか、捜査情報を漏らした監察官は、ハンターの報道後、自殺未遂を図っていたことが分かっている。では、監察官が漏らした情報とはいかなるものだったのか――。以下に再掲する。
 
12・7・20 監察
・おれが聞いているのは、福博会にガサ情報を流した見返りに金を受け取ったことは 聞いている。時期や額については聞いていない。
・福博会のことも、主席から一応知らせておくと言われた程度で、細かい話までは聞いていない。ただ福博会というのは間違いないよ。
・工藤会の件については、おれは聞いていない。ただ担当者が違うからすべてを聞けるわけではない。
・難しいのは、相手が暴力団で裏がとれていないこと。あくまで本人が言っているだけで、現金でやり取りしているから裏がとれていないこと。
・主席に聞いているのは着手は8月初め。異動の関係もあって、その時期になると聞いた。それでダメだったら、事件として挙げるのはあきらめると言っていた。
・個人的にはいつ書いてもいい話しだと思う。
・あなたが判断するのか知らないけど、けしからん話であることは間違いない。
・主席は各社知っていると言っていた。会社かどうかはわからない。ただ、主席によると最初にあたってきたのは朝日で、7月10日ぐらいらしい。何で朝日がとれるのかわからないと言っていた。
 
 読売の記者の取材日は7月20日。話を聞き出した相手は「監察」となっている。メモの内容を見ると、事案が指定暴力団「福博会」側に捜査情報を漏らして見返りの現金を受け取ったという贈収賄であることが分かる。「主席」とあるのは警務部監察官室トップの首席監察官のことで、その人物が言った「8月初め」という着手時期まで明記してあった。取材した記者は、事件化近しと判断し、この日のうちにメモの全文をメールで送信していた。ただし、送信した先が読売新聞の同僚ではなく、他社の記者たちだったというわけだ。
 
 ハンターの報道を受けた読売新聞西部本社の動きは早かった。8月14日朝刊で当事者の社会部記者を諭旨退職処分にしたことや事案の顛末を記事の中で公表。さらに、誤送信と県警がらみの「誤報」に関係した社会部長と編集局長、社会部デスクと法務室長らに対する処分に加え、コンプライアンス担当の常務取締役総務局長が役員報酬の一部を返上することを明らかにする。
 

 
 報道機関としての適格性を著しく欠く事態に免職や更迭という厳しい処分を選択した同紙だったが、ハンターの報道がなかったとすれば、メール誤送信の事実は闇に葬られていた可能性が高い。誤送信に気付いた読売側は、送信先の他社の記者たちに「なかったことにしてほしい」と虫のいい話をしていたからだ。しかも、誤送信した内容を、翌朝の朝刊1面でスクープ記事にしたのだから面の皮が厚いと言うしかない。これは、誤送信があった当日、同紙が「話は漏れない」と甘く考えていた証拠でもある。
 
 他紙は、やむなく同日夕刊で読売の報道を追いかけたが、結果的に福岡県警は十分に堀を埋めるだけの時間を奪われ、中途半端な形で逮捕に踏み切らざるを得なくなったという。報道合戦が始まった当初、贈賄側の行方は不明のままだったとされ、先走った報道が捜査妨害となり、犯人の逃亡を助ける形となっていた可能性さえある。読売への情報漏洩は、重大な違法行為だった。
 
■守られる癒着構造― 捜査機関と大手メディア 
 問題は、明らかな情報漏洩=守秘義務違反事件だったにもかかわらず、実行者は逮捕されず、読売新聞には家宅捜索さえ行われなかった、という点だ。現在問題になっている鹿児島県警の「内部告発」は、組織が行った不当捜査を世に知らせるためのもの。一方、読売誤送信で明らかになった警察官の行為は明らかな公務員法違反だ。三大紙の一角を占める読売への捜査情報漏洩は事件化せず、警察を批判する弱小メディアにはガサ入れまでして内部告発者を逮捕する――。この違いを容認することは到底できない。
 
 大手メディアにガサ入れが入ったという事例を、記者は寡聞にして知らない。あったら大問題になっていたはずで、三大紙をはじめとする大手メディアは黙っていなかったろう。だが、今回の鹿児島県警の暴走については、朝日がせいぜい社説で批判した程度。三大紙が大きなニュースとして扱っているのは、県警本部長による不当捜査の指示があったと告発した県警幹部の逮捕と、おそらくシナリオを用意した上での警察庁の特別監査に関することだけだ。再審請求や国賠訴訟で捜査機関側が不利になる証拠書類の廃棄を促した「刑事企画課だより」についても、西日本新聞が朝刊1面に大見出しを付けて追及し、南日本新聞が追随したに過ぎない。毎日もその件を扱ったが、扱いとしては小さかった。
 
 一連の三大紙の姿勢は、ネットメディアへのガサ入れを「対岸の火事」としか見ていない証拠だ。多くのジャーナリストが「アリの一穴になりかねない」と警鐘を鳴らしているが、これも無視する構えである。根底にあるのが、「記者クラブ制度」によって保たれてきた捜査機関と三大紙を中心とする大手メディアの癒着構造であることは疑う余地がない。いずれの組織も、予定調和の世界を乱されたくないだけなのだ。
 
 前述の読売新聞の誤送信問題と今回の公益通報を巡る大手メディアの報道姿勢はその象徴的な出来事なのだが、依然として「夜討ち朝駆け」という美名のもと、記者クラブメディアへの情報漏洩が繰り返されている。先月6日に本サイトで配信した《鹿児島県警、情報漏洩の捜査中に情報漏洩》で報じた通り、「警察関係者によると」と情報源を警察であることを示す守秘義務違反の証拠記事は、毎日のようにたれ流されている。(*下は読売新聞6月7日朝刊の紙面)
 

 
 余談ながら、先日、極めて珍しいことに読売の記者がハンターへの「挨拶」を申し入れてきた。来るだけましだと思って迎え入れたが、やってきたのは二人。しかも、着座するなり取材用とみられるノートを取り出した。“挨拶ではなく取材であるなら、最初からそう言え”と叱責した上で、「夜討ち朝駆け」が単なるネタもらいになっている現状を批判して、その後の取材にはきちんと答えた。しかし、翌朝になって紙面に掲載された彼らの記事に出てきたのは、相変わらずの「捜査関係者」。反省という言葉を知らないであれば、猿以下である。
 
 そうした意味で、南日本新聞6月29日朝刊の記事も酷かった。(*下が同日付南日本新聞の誌面。赤い囲みはハンター編集部)
 

 
 問題の箇所は、《情報を受け取ったとされるのはウェブメディアを運営する福岡市の60代男性記者。県警などによると、男性記者が犯罪経歴を受け取る前に、1人の氏名、生年月日、住所、本籍を被告にメッセージで送信した記録が残っていた。被告は警察の聴取で「求められたから送った」という趣旨の話をしている》という一文。この内容について、同紙はハンターに確認もしていない。つまり、裁判前に県警がたれ流した情報を、裏付けも取らずに記事にしたということ。前述の読売の件同様、新聞が警察の広報としての役目を果たしている証左だろう。これでは、ウォッチドッグどころか警察の飼い犬だ。公平・公正を装って権力側の提供する情報を無批判に流す報道は、読者や視聴者に対する背信行為に他ならない。
 
 「夜討ち朝駆け」だの、夜回りだのと格好いいことを言っているが、しょせんはただの“ネタもらい”に過ぎない。厳密にいえば、捜査情報が洩れれば捜査機関側の「守秘義務違反」であり、それをねだったのであれば記者は共犯か幇助に問われる。記者クラブメディアが絡んだ違法行為だけ許されるというのであれば、法治国家の名が廃るというものだ。
 
 「夜討ち朝駆け」を全否定するつもりはない。そもそも、それが許されてきたのは、捜査機関をはじめとする権力側が、不当な捜査や不正を行っていないかを監視し、間違った方向に行くのを止める一つの手段として認められていたからだ。しかし、繰り返しになるが昨今の「夜討ち朝駆け」は、スクープをものにするためだけの歪んだ取材活動になっており、そこに付け込む捜査機関が、情報統制や印象操作の道具として逆利用しているのが現状だろう。そのいずれにも「正義」はない。
 
■強制性交事件と鹿児島メディア
 鹿児島県警を舞台にした2件の「内部通報」の発端となったのは、2021年秋に起きた強制性交事件である。当時、県が設置した新型コロナウイルスの療養施設で、県医師会の男性職員(2022年10月に退職)に性被害を受けたとして、療養施設に勤務していた女性スタッフが告訴した件だ。
 
 この件では、警部補として中央署に勤務していた男性職員の父親と男性職員が先手を打って同署に出向き、「刑事事件にはならない」という結論を引き出したあとだったため、警察は組織ぐるみで被害女性を門前払いにするという、理不尽な「警察一家」擁護が行われたことが明らかになっている。
 
 ようやく告訴状を受理した後も、事件を矮小化しようとする警察幹部の思惑によって捜査は停滞。送検さえされていなかった2022年、県医師会の池田琢哉会長(先月15日に退任)と顧問弁護士の新倉哲朗氏(和田久法律事務所)が、記者会見を開いて
 
「合意に基づく性行為だった」と断言し、性犯罪被害を訴えている女性に、さらに大きな精神的ダメージを与えるという暴挙に出る。ここまでも、その後も、女性の人権を無視した県医師会や、不当な捜査指揮を行っていた鹿児島県警を追及したのはハンターだけ。鹿児島に、「ウォッチドッグ」はいなかった。
 
 ネットメディアは玉石混交だ。それは認める。大手メディアがネットメディアを見下すのも当然と思うしかないケースがあることも知っている。しかし、報じる内容が「事実」であれば、それを掘り起こせなかった多くの記者たちは、提起された問題から目を背けてはなるまい。特に弱者が被害を訴えている事例や、警察や自治体の不正については、後追いであれ何であれ、きちんと検証して報じるべきではないのだろうか?少なくともハンターは、警察の圧力に屈することはないし、弱い立場の人たちに寄り添う報道は絶対にやめない。ドン・キホーテで結構だ。