50際になった小泉今日子。『小泉 私も「黙れ」って、よく言われるけれど、「黙るもんか」だよね(笑)』素敵な年月を重ねています。スッキリするお二人。

 

小泉さん「声を上げる人をしょんぼりさせて、小さくさせようとする意地悪な空気がいまの日本にはあるんじゃない? でも、私たちはもう50代だし、言い続けるしかない。命をかけてちゃんと立っていたいな、と思うんです」かっこいい!

 

声を上げる人をしょんぼりさせて、小さくさせようとする意地悪な空気がいまの日本にはあるんじゃない? 
でも、私たちはもう50代だし、言い続けるしかない。命をかけてちゃんと立っていたいな、と思うんです

同感👏

 

 

「左? 私、まっすぐ立ってますけど!」
──昨年は芸能界だけでも、ジャニーズ、宝塚、年末には吉本、もういろいろな問題が出てきました。

松尾 もちろん、それぞれに個別の事情があるので個別に検証すべきなのは大前提ですが、俯瞰したら「どれも形が似てない?」とは思いますよね。組織の上から下へ、逃れようがないところで起きたハラスメントであるわけです。そこには共通する構造的な問題があり、同根の理由があると考えるのが自然。もっともっとズームバックしたら、この国のカタチが見えてくるんじゃないかな。

小泉 こことここがつながって と、絡まりあっていますよね。

松尾 また、物事を絡めていくことに余念がない、それに特化した仕事の人たちもいますからね。

小泉 そう思います。

松尾 正しい声の上げかた、もっと言うと「正しい怒りかた」が必要。僕たちは自分の気持に蓋をすることを教えられてきた世代なのかも知れない。同時に、正しい言葉の選びかたも必要だと思う。

 

──松尾さんの本を読んでいると、先ほども言ったように言葉の選びかたが秀逸で美しい。私はどうしても直情的に怒って、「ふざけんな!」って荒っぽくツイートとかしてしまうので。

松尾 いろんな声の上げかたがあっていいんですよ。

小泉 怒りもそうですが、思っていることを言ったり、声を上げることに対して、すごく否定的に取られることが多いですよね。でもこんなおかしい世の中になって、怒らないほうがおかしいと私は思うんですよ。なのに怒っていると、「売れなくなったから左に寄るんだろう」とか書かれたりして、「私、まっすぐ立ってますけど!」と思う(笑)。

声を上げる人をしょんぼりさせて、小さくさせようとする意地悪な空気がいまの日本にはあるんじゃない? でも、私たちはもう50代だし、言い続けるしかない。命をかけてちゃんと立っていたいな、と思うんです。

50代は20代や30代よりは経験があるし、立てるだけのメンタルの強さや心の体力もあるでしょう? 大人は思っていることを言い続けて、そういう姿勢をあとから歩いてくる人に見せないと。松尾さんもそう思って『おれの歌を止めるな』を書いたんじゃない?

松尾 ええ。願わくば声のトーンをいくつか持っていたいですね。ここではちゃんと腹式呼吸で届ける声、あるときにはささやくような声、場合によってはファルセット(裏声)のような声がいいかもしれない。しなやかに、絵筆を選ぶように自分の声を選びたいと思います。どれもが自分の声であるということを示すことも大切だけど。

誰かの感情を嘲笑的に見てしまう人
──トーンを使い分けるというのは、いろいろな種類の声を持っていなくてはできませんよね。私は一つしか持っていなくて。

小泉 和田さんの文章は、大きい声で怒っているところと、それをユーモアで回避するところとか、ちゃんといろんな表情があると思うよ。

他にも新聞が取材に来てくれた時はこんな言いかたがいいだろうとか、自分のラジオ番組ならば聴いてくれる一人ひとりに届くから囁くように言うほうが伝わるだろうとか、そういう感覚はありますよね。

松尾 そういう姿勢について、「あの人は媒体によって言いかたを変えてるよね」と言われるかもしれないけれど、それでも遠くまで伝わることのほうが大切な気がします。若い頃は、とにかくエッジが鋭いことを言ってやれという気持ちが勝っていた時期もありましたが、いまは正確に遠くまで届けたいと思うようになりました。

──声を上げることを私たちはしたいわけだけど、そもそも怒りがない人もいませんか。

小泉 誰かの感情を嘲笑的に見てしまう人って多いんだなと、SNSを見るたびに思いますね。あとは組織のなかで自分の生活や日常が回っているから、社会の問題には触らないほうがいいと、怒りの芽をあらかじめ摘んでいる人もいるんだろうな。

松尾 怒ったうえで、その怒りのエネルギーをベストな方向へ転換していくのが正しいやりかただと思うんです。裏金問題が噴出しているいまの国会を観てくださいよ。「こんな茶番ってひどいな」と怒るほうがヘルシーでしょう。

小泉 確かに複雑な問題もあるけれど、裏金問題などはすごくわかりやすいですからね。私たちは確定申告を細かくやらなきゃいけないのに、政治家はいったいなんなの?って思う。

松尾 そう思った時に外へ出て、誰かと話せばいいんじゃないかな。そのときに一番ふさわしい声のトーンで、一番ふさわしい言葉選びをしたいなあ。

──『おれの歌を止めるな』というタイトルは、「みんなで一緒に歌おうぜ」という意味なんですか?

松尾 一緒にという意味ではなくて、誰しもが持っているその人だけの歌を歌おう、ってことなんです。タイトルの英訳では「おれの歌」を「My Groove」としています。自分のノリっていうのかな。これが自分だというグルーヴを止めたり変えたりせずに、通していこうよというメッセージです。ネットで僕を中傷してきた人たちの言い分を読むと、内容らしい内容はなくて、とにかく黙らせたいというものが多いんですよ。自分が気に入らないと思った人間が、発言をしていることが気にくわない。

小泉 私も「黙れ」って、よく言われるけれど、「黙るもんか」だよね(笑)。

 

過去の私も未来の私も一歩前に出られる
松尾 正義は人の数だけあるし、視座の据えかたでも変わってくる。でもこれからの子どもたちのためにも、僕らの世代が声を上げないといけないと思う。

小泉 マスコミが変わらないとね。いまはデモがあってもTVに流れないでしょ。でも、いろいろな声で、深夜ラジオや歌の力、文章を書いたりして、コンサートで全国を回ると、いっぱい人が来てくれる。「この人たちは怒ってくれる人なのかな」って思います。

松尾 リーダーというと大げさかもしれないけど、いまここにいる人たちや気付いた人がそれぞれの場所に戻った時に、そこで誰かに話すことから変化が始まるんじゃないかな。

小泉 私、自分の時間は縦に流れるだけじゃなく、横にもあると思っているんです。いまの私が勇気を出して前に一歩出ると、過去の私も未来の私も一歩前に出るんじゃないかな。だから自分の時間や過去は変えられるけれど、他人に関わること、歴史は改竄してはだめ。だけどいま、やろうとしているじゃない。

松尾 歴史を改竄するのは本当にいけないことですよね。森友問題で自死された赤木さんの問題にも関わります。

──小泉さんのお話、いまの自分と一緒に、過去と未来の自分も前に行けるという感覚、いいですねえ。人生のとらえ方が変わる気がします。

小泉 そう感じると、「16歳の私ががんばったから、いまの私はここに立っていられるんだな、ありがとう」みたいな気になるし、「面倒くさいことは先にやっておくからね」という気になって、自分と仲良くできる感じがします。

松尾 今日は小泉さんと久しぶりにお会いしましたが、そのあいだ違うルートで歩いてきたけれど、登ってきたのは同じ山だったんだな、と思うことができました。つないでくださった和田さんにも感謝です。

小泉 今日は松尾さんと音楽じゃない話ができて、「私の歌をうたうための仲間ができた」という気がしました。

松尾 こんな未来が待っているなんて、20代の僕は思ってなかった!

(2024年3月15日、東京・下北沢「本屋B&B」にて収録)

こいずみ・きょうこ
歌手。俳優。1982年「私の16才」で芸能界デビュー。以降、テレビ、映画、舞台などで活躍。2015年から代表を務める「株式会社明後日」では舞台制作も手がける。また文筆家としても、著書に『黄色いマンション  黒い猫』(スイッチ・パブリッシング、第33回講談社エッセイ賞)『小泉今日子書評集』(中央公論新社)など多数ある。

わだ・しずか
音楽・相撲ライター。音楽評論家の湯川れい子氏のアシスタントを経てフリーに。政治・社会ジャンルでの作品も話題を呼んでいる。著書に『スー女のみかた~相撲ってなんて面白い!』(シンコ―ミュー ジック)、『音楽に恋をして♪ 評伝・湯川れい子』(朝日新聞出版)、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)など多数。

やない・ゆうこ
ライター。編集者。出版社で書籍編集、文庫の立ち上げに携わり、独立。作家、アーティストへのインタビュー記事のほか、古典芸能、文化、美術、工芸をテーマに執筆する。著書に『落語家と楽しむ男着物』(河出書房新社)、萩尾望都氏との共著『私の少女マンガ講義』(新潮文庫)などがある。
Instagram:yanaiyuko
twitter:@yanaiyuko