鹿児島県警の元生活安全部長が内部情報を外部に漏らしたとして国家公務員法(守秘義務)違反の罪で逮捕、起訴された事件をめぐって、元部長から情報提供を受けた北海道のライターや内部告発に詳しい大学教授らが6月24日夜、県警の捜査手法やマスメディアの問題について議論した。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

 

 

●渋谷で緊急イベント
事件は、以前から鹿児島県警の不祥事を報じていた福岡のニュースサイト「HUNTER(ハンター)」の事務所を鹿児島県警が別の情報漏えい事件の捜査として家宅捜索した際に、元生活安全部長の告発資料を発見したことがきっかけとなったとされる。

これに対し、メディアに家宅捜索をして取材源である内部告発者を割り出すという鹿児島県警の捜査には重大な問題があるとして、調査報道やノンフィクションを配信している「SlowNews(スローニュース)」が緊急的にこの日のイベントを開いた。

北海道のライター、小笠原淳さんはオンラインで参加。今年4月に送り主不明の郵便物を受け取り、中には「闇を暴いてください。」と書かれた文書とともに警察の不祥事について書かれた資料が入っていたことを紹介した。

ただ現場が鹿児島であったことから「まともに裏付けを取るとかなり時間がかかると思った」といい、それまで記事を書いたことがあったHUNTERの編集部に資料を共有したと説明した。

 

●「取材資料を対象に捜索差押えが行われたのは今回が初めて」
鹿児島県警の家宅捜索を受けたHUNTERの中願寺純則代表も電話で参加。家宅捜索を受けた際、捜査員から令状をちゃんと見せてもらえなかったことや、弁護士に電話しようとしたら携帯を取り上げられたことなど捜査の問題に言及した。

また、小笠原さんから送られてきた内部文書のデータにはパスワードをかけておらず、パソコンを起動すれば見れる状態になっていたとも明かした。

内部告発に詳しい上智大学の奥山俊宏教授は「私が知る限り、これまで報道機関の物を特定して差押えしたケースはいくつかあるが、報道機関や記者の取材資料を対象に捜索差押えがおこなわれたケースはこの事件が初めて」と指摘。

そのうえで「今回のような事態が前例としてまかり通ると、権力機関中枢にいる人物から報道機関への情報提供は萎縮しておこなわれなくなり、やがて公式発表ばかりが報道されるようになり、国民の知る権利は阻害され民主制のプロセスが害される。そうさせないためには、鹿児島県警によるHUNTER事務所への捜索は過ちだったと公の場で言わせる必要がある」と強調した。

 

●「大手メディアの記者は何のために警察に四六時中張り付いているのか」
元北海道新聞記者で北海道警の裏金問題を報じた経験がある東京都市大学の高田昌幸教授は、広島県警で問題となっている不正経理事件でも大手メディアが告発を知りながら報じなかったことに触れ、「大手メディアの記者は何のために警察に四六時中張り付いているのかを考えないといけない。警察の問題とは別にメディアも問われている。ずっと報道を続ければきっと変わる」と話した。

小笠原さんは「HUNTERへの家宅捜索がおかしいという声がもっと大手メディアからあがってほしい」と語った。

中願寺さんは「メディアの姿勢、メディアの力が問われている。特に大手の新聞は鈍いと感じています」と述べ、報道機関に奮起を促した。

 

 

鹿児島県警不祥事相次ぎ臨時対策会合…県公安委員長「あしき風習は自ら正すべきだ」

 
 鹿児島県警で不祥事が相次いだことを受け、県警は26日、警察庁職員らも参加して臨時の「非違事案防止対策会合」を開いた。今後も週1回程度のペースで開催する。県警は、同庁が実施中の特別監察の結果も踏まえて7月中をめどに再発防止策をまとめる。
 
 会合には、県公安委員、県警の西畑知明・警務部長をトップとするプロジェクトチームのメンバー、警察庁職員ら約30人が参加した。冒頭、県公安委の増田吉彦委員長が「あしき風習や組織文化があれば、幹部職員が自ら気づき、正すべきだ」と述べ、組織風土に踏み込んだ原因の分析と再発防止策の策定を求めた。野川明輝本部長は会合に出席していない。

 同県警では今年、内部文書を漏えいしたとして前生活安全部長・本田尚志被告(60)が国家公務員法(守秘義務)違反で起訴されたほか、別の情報漏えい事件や盗撮事件などで現職警察官が3人逮捕、起訴された。
 
 

元検事正逮捕「外圧では」若狭勝氏が指摘 鹿児島県警不祥事と比較「5年たっての逮捕あり得ず」

 
 
衆院議員や東京地検特捜部副部長を務めた弁護士の若狭勝氏は27日、TBS系「ひるおび」(月~金曜午前10時25分)に出演し、大阪高検が25日に、準強制性交の疑いで元大阪地検検事正の弁護士北川健太郎容疑者(64)を逮捕した問題の深刻さについて「大スキャンダルだ」と指摘した。

北川容疑者は2018年2月から2019年11月まで、大阪地検トップの検事正を務めた。逮捕容疑について大阪高検は「被害者のプライバシー保護」を理由に明かしていないが、検事正当時、自身の官舎で部下の女性に性的暴行をした疑いを指摘する報道もある。高検は容疑内容や認否など、具体的なことについて公にしていない。

若狭氏は、全国に50ある地方検察庁のトップでもある検事正経験者の今回の逮捕劇について「大スキャンダルだ。主要閣僚が現職中の罪で逮捕されたというくらい重い」と指摘。一方、この問題が表面化した際に、大阪高検が会見を開かなかったことについて「なかなか言えないところがあるのだろう。ちょっとでも何か言うと、記者に質問されていろんな問題が噴き出てしまう恐れを感じて、今の時点では何も言わない選択を決めたと思う」と述べた。「逆に言うと、これは断言するが、(退官から)5年前後がたってこの事件で逮捕するというのは、まずあり得ない。そこに何からに事情があることを考えるべきだ」と指摘。「事情を言うといろんな問題が噴き出るので、具体的なことが言及しないという決定ではないか」と、推測した。

その上で、時間を経ての逮捕となった背景について「この間、事件が放置されていた印象。私は『外圧』だと思う」と分析した。「鹿児島県警本部長がストーカー事件を捜査をせずにもみ消そうとしたということを当時の鹿児島県警の生活安全部長が訴え、逮捕された」と最近、鹿児島県警で明らかになった一連の不祥事に触れた。そして「恐らく今回の事件も、水面下では被害者の訴えなどがあり、ずるずる来ていたのだと思う。そこにきて、鹿児島県警のような話が出てきた。これで何もしないと逆に、同じように事件をもみ消そうとしたのではないか、というような見方が出てしまう。それで勢い、逮捕ということになった可能性はあると思う」と述べ、鹿児島県警のスキャンダルが影響したのではないかとの見方を示した。

「(検察)経験者として、5年たって逮捕するというのはあり得ない」と繰り返し、今回の逮捕劇の異例さをあらためて強調した。