利権丸出しじゃん!
「なぜデザイン性のあるベンチにしなければいけないのか」「31本の木が伐採された理由」「緑道再整備計画のデザインを、なぜ田根剛氏に打診したのか」について、渋谷区緑道・道路構造物計画課調整係に問い合わせたが、残念ながら期日までに返答は得られなかった。
他にも堀切氏が指摘する謎の事業と、そこに関わる「お友だち」は数限りなくある。しかも、いずれにも意味不明の名前が冠してあり、その内容や関わり等の全貌を把握するのは至難の業だ。
現時点で110億円とされている緑道整備計画は、どこまで膨らんでしまうのか。そのうちの何割が本当に必要なものなのか。少なくとも税金を支払う渋谷区民は注視していく必要があるのではないだろうか。
ミヤシタパーク、デザイナーズトイレ…派手な施策が目白押しの渋谷区のプロジェクト
まさに都会のオアシス! 渋谷区内とは思えない緑豊かで落ち着いた雰囲気の「玉川上水旧水路緑道」が…
1953年に児童公園として誕生した渋谷区の宮下公園は、土地が三井不動産に安く貸し付けられ、’20年7月には「公園」とは呼び難い商業施設「MIYASHITA PARK」に生まれ変わった。
また、日本財団と渋谷区が’20年から進めてきたプロジェクト「THE TOKYO TOILET」では、使用時に個室に貼られたガラスが不透明になる「透明トイレ」の仕組みが正しく機能せず、内部が丸見えになっていたことが発覚・騒動となったこともあった。他にも、このプロジェクトでは、隈研吾ら有名デザイナーたちが手掛けた個性的なトイレの数々に防犯上の懸念が指摘されている。
これらは良くも悪くも、元広告マン(元博報堂)の長谷部健渋谷区長らしい、派手でわかりやすい施策だ。
さらに渋谷区では今、笹塚・大山・幡ヶ谷・西原・初台・代々木の6地区を通る「玉川上水旧水路緑道」(2.6キロ)の再整備事業を進めており、それが地元住民たちの批判の的となっている。
その内容は主に、緑道の多数の樹木を伐採し、農園を作ること、1台400万~450万円のベンチを15台設置することなどで、事業には100億円以上かかると説明されている。いったいどこから出てきた話なのか。
「渋谷区玉川上水緑道利用者の会」の高尾典子さんは、こんな驚きと憤りの声をあげる。
「昨年9月7日に行われた住民対象の説明会の中で、緑道再整備の費用について100億円くらいかかるのではないかと聞かれた長谷部区長は『100億で足りるかな』と言ったんです。
さらに今年2月の予算委員会で、今年度の緑道再整備計画の予算14億5000万円が決まり、3月に区議が100億の内訳を聞いたところ、『内訳はわからない』と言うんですね。
令和11年までの5ヵ年計画で、5ブロックに分けて工事する予定ですが、何にどれだけのお金がかかるのか不明で内訳がわからないのに100億円以上なんておかしいじゃないですか(※現時点では110億円以上という説明に変わっている)」
高尾さんらは、これまで議会に行ったこともない、陳情や請願という言葉さえ知らない人ばかり。しかし、身近な緑道の樹木が伐採される計画や、渋谷区のお金の使い方に疑問や危機感を抱き、会を発足。議会に傍聴に行ったり、区議や専門家に相談したり、情報開示請求をしたりという中でいろいろ不自然なことがわかってきたと話す。
その一つは、1台400万円のベンチだ。まるで超高級ブランドの特注ベンチのような金額だが、渋谷区ホームページ内「玉川上水旧水路緑道再整備の概要」(’24年4月12日更新)内「緑道再整備の主な内容」に掲載されているイメージは、コルクやタイルのような継ぎはぎ模様のピンク色のベンチ。そこにはこんな説明がある。
「ベンチの素材は、舗装材と同じテラゾや木製とします。※テラゾとは、石材、レンガ、コンクリート材などを、粉砕して固めた舗装材です」
Amazonなどでテラゾ素材のベンチを探すと、20万円程度で見つかるが、なぜ400万円にも予算がふくれあがるのか。
「通常、東京都の公園などの一般的なベンチは20万~30万円。常時はベンチとして使い、災害時にはかまどとして炊き出しできる災害用の『かまどベンチ』でも34万円程度です。それなのに、1台400万円ですよ?
区議の方が災害用ベンチにするという案はないのかと聞いても、『とにかくデザイン性のあるものしか置かない』という答えでした。ピンク色の“ブロック”がどこから出たものなのかもわかりません」(高尾さん)
機能性よりデザイン性というのは、「THE TOKYO TOILET」と同じ。しかし、トイレと違い、隈研吾のようなわかりやすいビッグネームは概要資料には出てこない。
「『388』と書いてササハタハツと読ませるらしいんですけど……」広告代理店の企画書のようなカタカナだらけの計画名
元広告マン(元博報堂)の長谷部健渋谷区長。緑道再整備イベント「388FARM β」では博報堂と三井物産が共同で開発・運営する「shibuya good pass」なるサービスの実証実験も行われるという
しかも、この緑道再整備計画について、渋谷区民の多くは把握していないと思われるのが現状だ。なぜなら広告的なテクニックがふんだんに使われているためである。
「この緑道再整備計画は『ササハタハツFARM』みたいに呼ばれているんですね。
笹塚・幡ヶ谷・初台の頭文字をとったもののようですが、緑道エリアの西原も大山も代々木も入っていないから、みんな自分たちに関係ない話だと思っていました。
しかも、『388』と書いてササハタハツと読ませるらしいんですけど、地元の人はそんなことを知らないから、私たちも伐採の問題が起こって色々調べて知るまでは『サンハチハチ』と読んでいました。
388の名を冠していろいろやっていますが、みんな何のことかわからないから地元の人たちが参加できない。地元住民を排除して進めているんです」(高尾さん)
この上なく“広告屋臭”が漂うのが、「388FARM」事業関連の「Dear Tree Map」。
「388FOREST いのちのバトンタッチ」では「今回、樹木のお医者さんである『樹木医』による診断の結果、全体の約2割程度の樹木がもうすぐ引退する予定です。今回はそのうち15本が、それぞれの理由から、新しい命へのバトンタッチを行います」と説明。
1本ずつの木についてほのぼのイラストつきで「ソメイヨシノ どっしり構えるコンビ」「ケヤキ いつもキンモクセイと一緒」などというコピーと伐採理由を書き、木へのメッセージを投稿するサイトになっている。
さらに大問題なのは、こうした感傷的イメージにより、重要な事実がごまかされていることだ。
「区の調査では当初189本を不健全などとして、31本を既に伐採してしまいました。 でも、千葉大(環境植栽学)の藤井英二郎名誉教授に現場を視察してもらったところ、ほとんどの木が健康な状態だと言われたんですね」(高尾さん)
そうした指摘と批判を受け、長谷部区長は「残せる木は残したい」と方針を転換。今年4月24日の住民説明会では、区が伐採対象だった樹木のうち134本を残す方針を説明している。
しかし、樹木の伐採計画をはじめ、渋谷区の数々の問題を調べてきた渋谷区議会議員・堀切稔仁(ねんじん)さんは、こんな厳しい意見を述べる。
「そもそもなぜそんなに木を伐りたいのか。
緑道再整備について老朽化のためなどと説明していますが、博報堂や区長のお友だちにお金を分配するための目くらましであり、開発がやりたいわけじゃないんですよ。
緑道再整備プロジェクト全体の総費用110億円のうち、今年度の予算としては14億5000万円が計上されていますが、そのうち設計料全体が3億9900万円、デザイナーには1億7000万円。
そうした予算の中に1台400万円のベンチ15台分もあるわけです」(堀切区議・以下同)
緑地開発の経験もないのに…不明確なキャスティング理由
渋谷区の外郭団体・東京ランドスケープ研究所と田根剛氏個人の会社ATTAとの間で交わされた令和6年度の再委託契約書。再委託金額は2億780万円と記載されている(PHOTO:堀切区議提供)
そうした「お友だち」として堀切区議が目を光らせている一人が、400万円のベンチを含む緑道再整備計画のデザインを手掛ける田根剛氏だ。
「令和2年度に5000万円、令和3年度1000万円、令和3年度末5400万円、令和4年度1億5800万、令和5年度2億9000万円、令和6年度2億780万円の合計7億6980万円と、非常に大きな額が入札も経ずに再委託という迂回をして、田根剛氏個人の会社へ渡っていることが情報開示請求によってわかりました」
田根氏といえば、2020東京オリンピック招致に向けた国立競技場基本構想デザイン競技で「古墳スタジアム」がファイナリストに選ばれた、フランス・パリ在住の建築家。しかし、堀切区議はその「実績」に疑問を呈する。
「田根剛氏は一級建築士の資格はとっていなくて、ライセンスをデンマークでとったという人なんですね(「designstories」Presented by 自分流×帝京大学 辻仁成氏のインタビューより)。
これはラインや構造計算などフルパッケージでできないといけない日本の建築士とは別で、ある種デザイナーみたいなもののようです。
『エストニア国立博物館』のコンペで最優秀賞というのも、コラボチームによるもので、個人の受賞じゃない。
私は学生時代にパリに住んで芸術学部で写真を勉強していた関係から、パリの建築系の知り合いにいろいろ聞いてみましたが、パリでの知名度は全くありませんでした。
また、フランス、エストニア、フィンランドで田根さんの建築物を全部見てまわりましたが、工務店ぐらいの仕事ばかりで、おまけに緑地開発などは全く手掛けていないんですよね」(堀切区議)
ではなぜ田根氏に白羽の矢が立ったのか。堀切区議は裁判を起こして取り寄せた300頁もの情報開示資料をもとに、こんな推論を立てる。
「チームで受賞したエストニア国立博物館の実績によって、’17年に芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞し、小池百合子都知事の東京都未来ヴィジョン懇談会のメンバーに選ばれているんです。
同じメンバーに長谷部渋谷区長もいました。そこから長谷部区長は’19年に代々木公園内にサッカースタジアムを作る計画を始めたのですが、その設計を外郭団体を使って依頼されたのが田根さんでした。
しかし、コロナ禍で計画はとん挫し、小池都知事が芝にしてしまい、工事が止まってしまったんですね。
しかし、田根さんにはある程度お金を払う約束をしていたのではないか。実際、このプロジェクトはとん挫した一方、まだ何も始まっていない頃から田根氏にお金が支払われ続けています」(堀切区議)
では、渋谷区はどのように田根氏に依頼したのか。
「令和3年4月に、渋谷区は東京ランドスケープデザインという会社に入札を通さず、プロポーザル契約という形式で設計委託契約費として合計1億1846万6000円を支出しています。
しかし、なぜか再委託を受けたのは渋谷区外郭団体の東京ランドスケープデザインでコンサルタントをしている2人の人物。
田根氏もまた、東京ランドスケープからの委託を受けた形になっています」(堀切区議)
さらに、緑道再整備イベント「388FARM β」として博報堂と三井物産が共同で開発・運営する「shibuya good pass」なるサービスの実証実験も行われている。
「これは渋谷の中で畑を作り、みんなでそれを耕し、それを近隣のレストランで食べるという計画で、そこに緑道が使われる予定のようなのです」(堀切区議)
そこで、「なぜデザイン性のあるベンチにしなければいけないのか」「31本の木が伐採された理由」「緑道再整備計画のデザインを、なぜ田根剛氏に打診したのか」について、渋谷区緑道・道路構造物計画課調整係に問い合わせたが、残念ながら期日までに返答は得られなかった。
他にも堀切氏が指摘する謎の事業と、そこに関わる「お友だち」は数限りなくある。しかも、いずれにも意味不明の名前が冠してあり、その内容や関わり等の全貌を把握するのは至難の業だ。
現時点で110億円とされている緑道整備計画は、どこまで膨らんでしまうのか。そのうちの何割が本当に必要なものなのか。少なくとも税金を支払う渋谷区民は注視していく必要があるのではないだろうか。
取材・文:田幸和歌子