基地建設予算の75%が本土のゼネコンに。「利権の問題なので止められない」元防衛相も認めた“辺野古移設利権”の現実

 
海兵隊からは「普天間の代替基地は普天間である」との発言も
 
 
沖縄慰霊の日、県議選の低投票率、辺野古の基地問題。私たちが知るべき「沖縄の今」
今週の「前口上」は、6月16日(日)に投開票が行なわれた沖縄県議選について書くと予告しましたが、すでに報道され尽くしている沖縄県議会でのパワーバランスの変化や、玉城デニー知事による今後の県政運営について、あたしが今さら書いたところで、この問題に興味のない人には読んでもらえないだろうし、興味がある人も食傷気味になると思いました。

それで、どんな切り口で書けば多くの人に興味を持ってもらえるかと考えていたら、6月21日(金)の文化放送『長野智子 アップデート』の「ニュース アップデート」のコーナーに、沖縄国際大学の前泊博盛(まえどまり ひろもり)教授が電話出演したのです。

沖縄県の宮古島に生まれ、琉球新報の記者として27年間を勤め上げた前泊教授は、外務省の機密文書をスクープして「日米地位協定」の不平等の源流を明らかにした記事で、早稲田ジャーナリズム大賞、日本ジャーナリスト会議大賞、日本新聞労働組合連合ジャーナリズム大賞特別賞を受賞するなど、他にも複数の受賞歴があります。

常にジャーナリストの目で「沖縄の今」を見つめて来た前泊教授は、今回「23日の沖縄慰霊の日について」「16日の沖縄県議選について」、そして「辺野古の基地問題について」と、今、あたしたちが知るべきことをとても分かりやすく、とても的確に解説してくださいました。長野智子さんと「びんさん」こと鈴木敏夫解説委員の質問も的を射ており、全編にわたって素晴らしい内容でした。

そこで今回は、前泊教授の発言をすべて文字起こししました。明日27日まではラジコのタイムフリーで聴くこともできますが、この素晴らしい内容はテキストとして残すべきだと思ったからです。それでは、あたしたちが知るべき「沖縄の今」を、どうぞ最後までお読みください。
 
亡くなった県民の正確な数さえ分からず放置されてきた沖縄戦
長野智子さん 「慰霊の日を前にした沖縄の様子はいかがですか?」

前泊博盛教授 「こちらは例年になく厳しい情勢です。台湾有事は沖縄有事、沖縄有事は日本有事だという言葉が、この1年ずっと言われて来て、自衛隊の配備がものすごく急速に進み、辺野古の新基地についてもどんどん進んでいる。そういう意味では基地の負担がどんどん増えて来て、まるで沖縄戦の前の旧日本軍の第32軍が配備された時と同じような感じがすると戦争体験者たちが語るような、そんな時代になって来ました」

長野さん 「私も報道を見ていて、台湾有事だとか沖縄有事だとか、有事に備えることは大切ですが、まるで有事ありきでいろんなものが進み過ぎだなというのは本当に感じます」

前泊教授 「そうなんですよね。台湾の人たちに聞くと『何で日本は急に台湾有事と言い出したのか?』と言われたり、中国の政治関係者からも『台湾の総統就任の時に30人もの国会議員が参加したのは日本だけだ。台湾有事の際には日本全体が火ダルマになりますよ』という発言があったりですね、非常にギクシャクした感じがしますね」

長野さん 「そうですか。そこで今、慰霊の日を迎えるということで、沖縄の皆さんは、なるべく平和を願うメッセージを強く出して行きたいという思いなんでしょうか?」

前泊教授 「はいそうですね。ちょうど今、追加刻銘も終わったところですが、沖縄戦で一体何人が犠牲になったかということが、未だに明確にでない部分がありますよね。いわゆる全戦没者が20万人を越したと言ってますけど、沖縄県出身の軍属、これは2万8,228人とかですね、他の都道府県の出身の軍属が6万5,908人。こんな形で兵隊たちの犠牲者数は分かるんですが、一般県民はザッと9万4,000人という、百の位も出て来ないアバウトな数字なんですね。

これは『平和の礎(いしじ)』という戦没者の刻銘がされている碑をご覧になった人は気づくと思いますが、「比嘉さんの子」とか「宮城さんの娘」とかですね、名前すら分からない、一家が全滅してしまって記録がない、戸籍も住民票も戦争でなくなってしまった人が数多くいるんです。沖縄戦が終わって、まずは戸籍を作り直すことから始まったんです。戦争によって本当に多くのものが失われましたが、またもう一度、沖縄戦が来そうな、その新たな戦前が始まっているんじゃないかと、そんな声が聞こえて来るのは残念です」

長野さん 「本当にそうですね。今、前泊さんがおっしゃった刻銘板の追記ということですが、おととい19日ですね、糸満の平和祈念公園で新たに申告があった戦没者、今回181人の方の名前が刻まれた刻銘板が設置されたということですね。でも『ザッと9万4,000人』という一般の方ですか、この碑のことが日本人全体で共有されていないというもどかしさはありますか?」

前泊教授 「ありますね。まあ『9万4,000人』を『9万4,444人』とかですね、最後の1人までしっかりと、犠牲になったのが誰かということを記録することが、この国の政府の義務ではないかと思いますね。国民を大事にしないで、軍人の数は最後の1人まで分かるけれども、国民は犠牲になっても何人か分からない。そんな状況が放置されたまま、78年、79年が過ぎようとしています」
 
「沖縄戦が終わったのは本当はいつなのか」という問題
前泊教授 「それからもう1つですね、今は6月23日を『慰霊の日』と言ってますけど、何故この日に沖縄戦が終わったとされているのか、それは第32軍の司令官の牛島満(うしじま みつる)中将と参謀長が自害をして果てた日、だから組織的戦闘が終わった日とされていますけども、アメリカの記録では6月21日説もあります。それから牛島家が命日としているのは6月22日です。記録によると1960年代までは沖縄県も6月22日を『慰霊の日』としていたんですよ。どうも調べると22日説が有力で23日は違うんじゃないかと」

鈴木敏夫さん 「(終戦後の沖縄県知事だった)大田昌秀知事もそのようなことをおっしゃってましたよね?」

前泊教授 「はい。これ、アメリカ側の記録でも22日に自害したとされてるんですね。そうすると日本軍の組織的戦闘が終わった日はその日とされるんですが、アメリカの掃討作戦が終了したのは7月2日、それから『終戦記念日』というと8月15日と今はなってますけど、日本が対戦していた連合軍側の『対日戦争勝利の日』は9月2日なんですね。東京湾の戦艦ミズーリの甲板で終戦協定を結んだ9月2日、これが世界的な『終戦記念日』ですが、日本だけ8月15日。沖縄戦で言えば、9月7日に終戦協定が結ばれているんですよ。

そうすると、どの日が本当に沖縄戦が終わった日なのか、14日15日まで特攻隊が沖縄に飛んで来てるんですよね。そうなると、沖縄戦が終わったのは本当はいつなのか、それすらも79年間、放置されて来たような気がします」

鈴木さん 「アメリカ軍が沖縄戦の終了を宣言したのが7月2日ですよね」

前泊教授 「はい、7月2日が『掃討作戦終了日』です。こういう節目の日に、こうしたことにも少し思いを馳せていただければと思います」

鈴木さん 「先生、先ほど大田昌秀知事が『戦争が終わったのは分かっていたが、出て来たのは10月23日だった』とおっしゃったインタビューの音声を放送したんですが、そのように沖縄戦が終わってからも、負けたか勝ったか分からなくて出て来られなかった方もたくさんいらしたわけですよね?」

前泊教授 「そうですね。南米でも移住した沖縄の移民の皆さんが『日本が負けるわけがない』『いや負けたんだ』という、いわゆる『白黒(しろくろ)論争』が続いたという記録もあります。それからルバング島やグアム島では横井さんとか小野田少尉がやっと出て来るということもありましたね。72年頃、ちょうど沖縄復帰の頃です」
 
県民から強く感じる「日本の政治に対する失望」
長野さん 「そして、一方なんですけど、16日に投票が行なわれた沖縄県議会議員選挙の話も伺いたいのですが?」

前泊教授 「はい」

長野さん 「普天間基地の辺野古移設に反対する勢力と容認する勢力、24議席ずつで同数となって、反対と容認の民意が二分された形、ということなんですが、県政野党が地域振興や経済を前面に出したことによって議席が伸びたという…」

前泊教授 「私にとっては45%という過去最低の投票率が衝撃でした。沖縄にとっては、米軍統治下で選挙権のない時代を27年間も過ごして、ようやく投票権を手に入れた。そういう意味から沖縄では、70年以降は80%以上の投票率を維持して来た。この選挙に対する強い思いが沖縄復帰にもつながって来たのですが、(今回の県議選では)県政が見捨てられたのかというくらい関心を持たれなかった。

私も事務所に『投票に行った人いるか?』と聞いたら20人中ゼロ。若い人たちから『県議って何してるのか分からない』『彼らの利権のためにバイトを休んで投票に行くなんてバカらしいよね』、そんな発言が飛び出したりすると『ちょっと待てよ』と。県議ってちゃんと仕事をしてたのか?それがちゃんとアピールできてるのか?で、今回は基地問題で『どんなにがんばっても、もう無理だろう』と。反対をしてた年配の人たちからも『もう投票に行くのはやめた』という声を聞きました」

長野さん 「これはやっぱり『諦め』ですか?『怒り』あるいは『失望』、いろんな感情だと思うんですけど」

前泊教授 「日本の政治に対する失望のようなものを(県民から)強く感じますね。何を言っても(政府には)もう通じない。そうであれば(投票に)行ってもしょうがないんじゃないか。私は、沖縄って日本の政治のカナリアだと思うんですね。この炭鉱のカナリアが、最初に息の根が止まる。あるいは鳴いて訴える。それで全体に危険を知らせるというのがありますが、沖縄の今の状況というのは、この日本全体の低投票率、選挙民主主義の危機を示してるような気がしますね」

長野さん 「私が米軍ヘリの事故で沖縄を訪れた2004年より、むしろ状況が悪くなっているというのは、人々の失望もあるし、普天間基地の危険除去という部分で、あの時代はまだ皆さん前向きに政治に対して考えていましたよね」
 
利権の問題ゆえ止められない普天間飛行場の辺野古移設工事
前泊教授 「そうなんですよ。今は普天間の移設問題についても、もう裁判闘争で司法も行政に立てつくようなことはしない、判決は最初から分かっていると。しかし実際に埋め立てている基地が役に立つのかと。海兵隊の司令官たちに聞くと『30年前にできた計画なんて今どき通用するわけないだろ?俺たちはドローンで戦争してるのに、あの基地、何のために造ってるんだ?』と言われるんですね」

長野さん 「え~!」

前泊教授 「しかも、その造っている基地が軟弱地盤で沈むかもしれないと。しかも、当初は3,600億円で造る予定だったのが、9,300億円にまで膨れ上がってるんです。家を建てるのに3,600万円でお願していたら9,300万円に上がった。その段階で普通は見直しますよね。でもこれが、軟弱地盤が見つかって増やした予算を4,300億円も使ったのに工事の進捗は15%。こうなって来ると、おそらく沖縄県が試算した通り2兆円を越して来るんですね。

実はこれ、石破さんが総理になりそうだというので先日議論をして、それから先週は中谷元さんも研究室に来られましたけど、その議論の中で(私が)『あの役に立たない基地に2兆円も掛けるなら、同じ予算で空母打撃群が4チーム造れますよ』と言ったら『おおっ!』と驚いたんですね。そして『そちらのほうが確かに良いかもしれない。しかしこれは利権の問題なので止められないんですよ』と、そんな話になったんですね」

長野さん 「辺野古の基地建設の利権というのは、もともとありましたもんね」

前泊教授 「今も基地建設に落ちた予算の75%は本土のゼネコンに流れてるんですね。ですから、この小さな基地に2兆円も掛けてどれほどの効果があるのかということを、もう一度、原点に帰って議論したほうが良いのではないかと思いますね」

長野さん 「でも今回の選挙で、玉城デニー知事はかなりやりずらくなって来るんですかね?」
 
海兵隊からは「普天間の代替基地は普天間である」との発言も
前泊教授 「私はむしろ、これまで裁判に引っ張られていたものが、これで本質的な議論に入って来るような気がしますね。この基地ってそもそも必要だったの?っていう。そして、それをアメリカの海兵隊の司令官たちまでもが大っぴらに言うようになって来た。こうなって来ると、埋め立ての是非を巡るよりも、むしろこの基地の建設の必要性を見直す時期に来ているのです。海兵隊からは『我々にとって普天間の代替基地は普天間である』という発言まで昨年11月に出て来ています」

長野さん 「そうなんですか?ありえないですね」

前泊教授 「オスプレイの配備も、昨年11月に種子島の沖で墜落した時に、これは危ないということで、アメリカ側は飛行停止処分を出して、全世界で止めたんですね。それで今年3月の飛行再開では『まだ事故の原因が分かっていないので、30分以内に基地に戻れるところまで飛行を再開しても良い』ということでした。しかし日本では自由に飛行させたんですね。

日本政府は『安全だ』とおっしゃいますが、そうであれば、災害救助や現場にすぐに駆けつけられるオスプレイの素晴らしさを発揮してもらうためにも、17機買った自衛隊のオスプレイのうち2機を首相専用機として使ってみてはどうか、そういう提案もしています」

長野さん 「あっと言う間にお時間となってしまいましたが、先生のおっしゃった問題点は本当に日本全体で共有しなければいけないと強く思います。日米地位協定の問題なども聞きたかったのですが、お時間となってしまいました。またよろしくお願いします」

前泊教授 「はい。どうもありがとうございました」

長野さん 「『ニュース アップデート』、沖縄国際大学の前泊博盛教授でした」

…というわけで、4月から始まった文化放送の新番組『長野智子 アップデート』は、平日の15時30分から17時までの帯番組ですが、この「1時間半」という枠は、日々のニュースを取り上げながら、その日の特集も掘り下げるには、やはり時間が足りません。そのため、手探りでスタートした当初は、せっかく取り上げた独自の視点での特集が、消化不良で終わってしまうこともありました。

しかし、スタートから3カ月目を迎えた現在では、月曜は文化放送の鈴木純子アナ、火曜から金曜までは鈴木敏夫解説委員という素晴らしいパートナーとの二人三脚で、短時間の枠でも省略できる部分は省略し、要点をコンパクトにまとめて全体像としてきちんと着地させるという構成力が構築されました。

その上、長野智子さんの美声は耳に心地よく、どんなに厳しい表現を使ってもトゲトゲしく感じません。これはラジオ・パーソナリティーとして大きな武器だと思います。最近の風潮に流されず、おかしいことを「おかしい」と言ってくれる長野智子さんに、これからも今回のような良質の放送を期待しています。