きょうの潮流
 

 選挙は、なによりも選挙人の自由に表明する意思を保障するものであって、公明かつ適正に行われなければならない。これらの趣旨に反することになれば、民主政治が健全なものとはならないからである

 

▼1950年に公布された公職選挙法の目的です。差別や弾圧によって国民を政治から遠ざけた戦前の反省から、主権者たる国民が正当な選挙を通して代表者を選ぶ。それは議会制民主主義の最も重要な行為であると

 

▼「べからず法」の悪名高い公選法でさえ、冒頭に自由な選挙活動の大切さを掲げるほど。いまたたかわれている東京都知事選挙でそれが問題になっています

 

▼立候補している蓮舫氏の事務所にFAXで届いたという殺害予告。そこには「ナイフで刺す」「爆破する」といった脅迫が書かれていたといいます。活動の足をとめ、抑えつけようとする卑劣な行為。犯行予告は小池都知事のもとにも。蓮舫氏は「選挙という民主主義の根幹をなすものに対する挑戦であり、決して容認できません」とコメントしています

 

▼表現の自由を逆手にとり悪質な行動を持ち込んでいるのが「NHKから国民を守る党」などのポスター掲示です。女性の裸や風俗店の広告、同じポスターが何枚も張られる無秩序状態に。選挙をいたずらにかく乱し、おとしめる行為を野放しにしては民主主義の土台が崩れてしまいます

 

▼都民のくらしばかりか国政をも左右するこの都知事選。憲法にもとづいた自由で正当な選挙の意義が、あらためて問われています。

 

 



 

東京都知事選がスタートした。現職の小池百合子知事が3期目を目指して立候補。野党側からは、立憲民主党の参議院議員だった蓮舫氏が出馬している。また、広島県安芸高田市の市長だった石丸伸二氏は、連日多くの聴衆を集めダークホースとして存在感を示す。史上最多となる立候補者が56人という異常事態だが、世論調査の数字から争いの主役はこの3人に絞られたようだ。

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7月20日、小池氏の「出発式」は午前10時半から西新宿の選挙事務所で開かれたが、屋内とあって支援者は30人ほどに絞られた。4月末の衆議院補欠選挙でつばさの党から妨害を受けたことを危惧しての措置といい、小池氏は「この選挙は大丈夫なのかと、心配もある」と語った。小池氏支援を打ち出した自民党東京都連の萩生田光一会長の姿はなかった。

 

一方、蓮舫氏はJR中野駅前で第一声。「私はチャレンジャーです。東京は、格差や暮らしにくさが急速に広がっている。私が東京を変えたい」と訴えた。

応援に立った、辻元清美参議院議員は「萩生田さん、なんで小池さんのお隣に並ばないのか」と挑発。対決ムードをあおった。

 

 

午前9時から行われた石丸氏の「事務所開き」には、「スポンサー」と黙されるドトールコーヒーの創業者・鳥羽博道名誉会長が駆け付け、事務所に入れない人が「入れてくれ!」と大声をあげほど熱気に包まれた。

 

 

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自民党が6月15日から16日に実施した情勢調査では、小池43.6%、蓮舫32.1%、石丸8.3%――。現職の小池氏が優勢だ。だがこの調査の実施主体は、候補者を擁立できず小池氏に抱きつく作戦しかなかった自民党のもの。「確認団体」の一勢力として後方支援するしかないと状況となっているだけに、頭から信用するのは早計だ。

萩生田氏の裏金事件をはじめとする“悪らつさ”はこれまで何度も報じてきた(既報)。自民党の裏金事件でも、第3位にランクされる約2,700万円を受け取り、使途もほとんど明かされていない。ある自民党の都議は、その萩生田氏が主導しているという情勢調査の結果に疑問を呈する。
「萩生田さんは、都連会長というポストにしがみつきたい。権勢を発揮できる場所が都連しかないという情けない状況だ。裏金政党となった自民党が候補者を出しても勝てないので、岸田文雄総理も萩生田さんに丸投げ。そこで、自民党は多額の費用をかけ世論調査を実施。なかなか出馬表明しない小池氏の背中を押したという構図です。ようするに、小池氏のご機嫌伺いの数字なのでどこまで信用してよいのか……」

5月の静岡知事選で自民党は、当選した野党系の鈴木康友知事に対して自民党が推薦した大村慎一氏は終盤「1ポイント差まで追い上げた」と情勢調査の数字を流した。だが、地元メディアが行った調査の大半は、5ポイントから8ポイント差で「鈴木氏優勢」との結果だったし、立憲民主党の世論調査も同様だった。

「自民党が外部に出している世論調査の数字の信憑性は選挙によって変わる時もある。記者が『〇〇%の差ですね、競っている』と聞かされ、俺の見た数字と違うじゃないかと何度も思ったことがある。選挙情勢で、選対委員長か幹事長レベルで数字を操作し、フェイクを流していると感じたことはあります。都知事選でも小池氏頼みなのでその可能性はある」と自民党の大臣経験者は語る。

ちなみに、立憲民主党の幹部はこう読んでいる。
「自民党の情勢調査は軒並み小池氏が10%前後、優勢と出ています。しかし、うちはそこまで差が広がっていない。6とか7くらい小池氏がリードという感じです。投票率が上がれば、勝てるチャンスが生まれる」

小池氏が初当選した2016年の都知事選では59%、前回の2020年では55%という投票率。小池氏VS蓮舫氏、そこにSNSで「バズる」石丸氏が加わるとさらにアップする可能性は十分にある。都民ファーストの都議は、「世論調査で40%の支持が続けば、投票率がアップしてもなんとか勝てると思う」と言う。

都知事選の有権者数は1,153万人と発表されている。投票率が55%から60%と仮定すると、総投票数は600万票超。小池氏の40%の支持という目安は、250万票あたりが当確圏だとみられる。

蓮舫氏は前回、2021年の参議院選挙東京選挙区で67万票を獲得。立憲民主党はもう一人候補者を擁立し、37万票あまりで合計100万票超だった。蓮舫氏支援を表明している共産党は、参議院選挙で68万票をとっている。東京選挙区の投票率が56%だったことを見ると、都知事選と同じような傾向となり、立憲民主党と共産党系で170万票あたりが基礎票となる。

自民党は前回の参議院選挙で2人が東京選挙区から当選し、得票の合計が153万票。公明党は74万票だった。そこに、当時は都民ファースト幹部も出馬してお28万票を獲得。それらを足し算すると240万票あたり。この数字に小池氏の個人票を上積みできれば、勝てるという読みだ。

そこに割って入るのが石丸氏。演説を見ていると、どちらかといえば保守系の支援者とみられる聴衆が多い。応援弁士に立った政治評論家の田村重信氏は自民党の政務調査役を長く務めた人物だし、選対を仕切る藤川基之氏は自民党の参議院議員に仕え、大臣にまで押し上げたことで知られる凄腕だ。その後、大阪市議に転身した際も自民党だった。

「自民党は裏金事件でイメージが悪すぎる。保守系、小池さんの票がうちに流れてくる傾向にあるんじゃないか。世論調査でも小池さんは現状維持が精一杯、上がり目が最もあるのは失うものがない石丸で、次に蓮舫さん。小池さんは守りの選挙になるだろう」と田村氏はそう分析し、小池氏「圧勝」はないと読む。

学歴詐称問題で揺れる小池氏。今回も選挙公報には「カイロ大学卒業」と掲載する方針と報じられている。都知事選は3度も土曜日がある長い戦いだ。小池スキャンダルが再燃すれば、さらに混とんとした状況になる。