朝日新聞福島総局長の捏造疑惑炎上ではっきりした「不安な空気」を創っては拡散する「風評加害者」の正体

 
 
捏造を疑われる記事内容
 朝日新聞の4月21日付記事、アナザーノート『「総代で卒業の被災者」その注目がつらい 茶番に苦しんだ子どもたち』において、捏造を疑われるなど多数の問題が指摘される報道があった(記事は現在、公開当初の内容から一部が修正されている)。
 
 主な問題点をまとめると、次の5点に集約される

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・論点の大前提・根幹となる情報が事実に反する嘘だった(誤報の原因追及と再発防止に対する説明責任)
・「」付で書かれた発言の裏取りが不明(取材の欠如と手法の正当性に対する疑念)
・実態と乖離した、不自然な当事者の論調(取材対象の偏向や恣意的な結論への誘導や印象操作に対する疑念)
・「注目がつらい」と訴える当事者を矢面に立たせ注目させたことの是非(報道被害への無配慮)
・問題解決に向けた、社会における理解と合意形成に逆行する(マッチポンプ・クレイム、利益相反行為に対する疑念)
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 以下、具体的に指摘していこう。

 当該記事は大熊町出身の若者の視点と共に、5年前に行われた福島高専学生と大熊町住民による復興住宅のイベントを取り上げた。『イベントは町内の復興住宅の花壇に、放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催しだった』『除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた』と書いていた。

 ここで書かれた「除染土」とは何か。簡単な解説を加えておく。

 東京電力福島第一原子力発電所事故からの復興に伴う除染作業により、大量の土壌が中間貯蔵施設に運ばれた。これらは中間貯蔵・環境安全事業株式会社法により、「30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」ことが国の責務として明記されている。

 ただし、「一刻も早い安全と住民の安心確保」すなわち迅速な復興を第一に各地で集められた土壌には、汚染の度合いが極めて低い土も大量に混ざっている。半減期の影響もあり、今や貯蔵全体の7割以上は一般土壌とリスクがほぼ変わらないと言えるのが実情である。

 最終処分工程では減容化が必須となる上、まとまった土壌は本来的には土木工事などにおいて有用な資材にもなる。仮にこれらまで一絡げに全て放射性廃棄物扱いで最終処分しようとすれば、「福島県外」に広大な最終処分場及び国民一人ひとりに跳ね返ってくる莫大な費用負担が追加で必要となる。

 そのため、明らかに汚染が少ないフレコンバッグ(大型土のう)については一度解体し分別した上で化学処理や熱処理を施し、更に安全な状態に整えて再利用する。既に鉢植えの土として首相官邸や自民党本部、公明党本部、各省庁などに利用実績があり、当然ながら何ら問題も生じていない(詳しくは環境省の中間貯蔵施設情報サイトにあるので、参照して頂きたい)。

 朝日新聞が書いた「除染土」とは文脈上、この土を指すのだろう。ただし、朝日新聞の表記では未処理あるいは不十分な処理の土壌がそのまま使われるかのように誤読される恐れも否定できない。

 事実、朝日新聞はALPS処理水の報道の際、処理途上にある水がそのまま海洋放出されるかのような記事を書いた前科もある。同社には差別的な「汚染水」呼ばわりを執拗に繰り返す記者も沢山いた。これらが多くの人を誤解させ、社会問題をより解決困難に導いてきた。

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参照)
・『原発処理水を「汚染水」と呼ぶのは誰のためか…? 「風評加害」を繰り返す日本の「異常なジャーナリズム」に抗議する』(現代ビジネス 2022.12.12)
・『野放しの「風評加害」、ポピュリズムが招いた犠牲と失費』(IEEI 福島レポート)
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 もし朝日新聞に処理水報道への反省があるのなら、「処理土」あるいは「再生土」などの表記がより適切かつ誠実な報道姿勢だったと言えるだろう。それとも、ALPS処理水の二番煎じで処理土の社会問題化を図りたかったのだろうか。

 話を戻そう。記事に書かれた『町内の復興住宅の花壇に、放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催し』では、福島高専の先生が若者に『除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしい』と依頼した上で、『大熊町の出身として、町の人が再利用に合意するようにがんばってほしい』とまで言ったという。

 それに対し、『結局、地元が合意するという結論があって、それに自分達が利用されていた。気持ち悪かった』『「茶番」に気付いた。それ以来、除染土の再利用にまつわる催しは、出演依頼があっても断っている』という若者の想いの記述が続いた。
 
記事の大前提・根幹そのものが嘘だった
 ところが、このイベントに「処理土」は使われていなかった。

 福島県、大熊町、環境省、福島高専などの関係者に確認したところ、いずれからも同様の回答が得られている。大仰に「茶番に苦しんだ子どもたち」とまで題した記事における最大の根幹であったはずの、「除染土の再利用にまつわる催し」という前提が嘘だった。これこそ「茶番」そのものだろう。

 なぜ、どのような原因でこのような虚報が生じたのか。朝日新聞には当然、説明責任がある。

 ちなみに、2024/1/1~2024/5/22の期間に全国の新聞社説を対象に「説明責任」の語で検索した調査結果を見ると、朝日新聞は他者に対し日本一説明責任を求めてきた新聞であることが判る。

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参照)新聞は他人にどれだけ「説明責任」を求めてきたか(晴川雨読 2024年05月22日)
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 そもそも処理土が使われていないイベントにもかかわらず、福島高専の先生から『除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしい』と依頼された事実、そして『大熊町の出身として、町の人が再利用に合意するようにがんばってほしい』との言葉も本当にあったのか。

 こちらも事実確認したところ、該当する可能性が高い人物は既に退職しており、依頼や発言の有無に対する確認が取れなかった。一方で、「」付の台詞まで掲載した朝日新聞は、いかなる取材方法で退職者に連絡を取り、事実関係の裏付けをとったのか。これも同様に虚偽、あるいは捏造ではなかったのか。

 実在する関係者の名誉にも関わる問題である。当然ながら、事実であるかのように書き報じた責任は朝日新聞及び執筆者の大月規義福島総局長にある。「取材源の秘匿」「一般女性の主観や記憶違いを伝聞しただけ」などといったおためごかしや他責では済まされない。ここにも説明責任が強く求められる。

 また、記事に書かれた「処理土再利用の理解と合意を強引に求められる地元」のような対立構図も極めて不自然である。なぜならば、中間貯蔵施設の地元首長及び議会は一刻も早い最終処分、すなわち除染土の減容化と県外持ち出しを繰り返し要望してきた側だからだ。

 多くの福島県民、双葉郡の住民も同様の意向であることが複数の調査から判っている。つまり、処理土再利用に対する理解と合意が求められているのは「持ち出される側」の地元ではない。

 ところが、朝日新聞は『除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた』などと敢えて一部少数派にばかりスポットを当て、地元の主流世論や現状との整合性が取れない「高専の先生」の台詞と共に、地元出身の学生に(実在しない)除染土の再利用を進めるためのイベントに参加・協力依頼をする陰謀があったかのように書いた。

 吉田調書問題などは象徴的だが、東電原発事故には虚偽であるのみならず、復興に尽力した関係者や専門家の名誉が不当に貶められた言説や報道も少なからずあった。今回の記事も被災地及び福島高専などの関係者、本来の地元世論や求められる課題に対する全国からの誤解を招き、復興を阻害する結果にさえ繋がりかねない。「誰のため」「何が目的」か。偏向報道ではなかったか。「説明責任」が求められる。
 
捏造記事が当事者にもたらす3つのリスク
 この記事の問題は、「極めて基礎的な事実確認を怠り、報道が守るべき最低限の公平性・公益性を無視した」のみに留まらない。「被災者として注目されることを避けたいと願う」と訴える、当時子どもだった一般女性を敢えて矢面に立たせ「被災者として注目させた」のは何故か。

 これは当事者にとって主に3つのリスクや不利益をもたらす。

 まず1つ目は、若年者・被災当事者のトラウマをさらに深める報道被害及び人権侵害の恐れが否定できないこと。記事中で強調された、「止まらない涙」という本人の状況を鑑みれば猶更のことである。

 2つ目は、当事者性が何らかの政治的主張や社会運動から盾や錦の御旗、あるいは人質や尖兵のように利用されてしまうリスク。批判や反論の矢面に立たされたり、学者公職者マスメディアなどが内心言いたいが自らは立場上言えない過激あるいはデマなどの事実に基づかない主張を、腹話術のように代弁させられてしまうケースもある。

 たとえばALPS処理水問題報道では、毎日新聞が過去に水俣で発生した公害病被害者団体の口を借りることで、「当事者の言葉を紹介しただけ」とばかりに非科学的な思い込みに注釈すら付けず、そのまま紙面に書き広めていた。誤解や偏見を広める「情報汚染」の垂れ流しこそ、報道災害・情報災害と呼ぶべき現代の公害をもたらすにもかかわらずだ。

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参照)『水俣病患者9団体、処理水放出に反対 「同じ過ち繰り返す」声明』(毎日新聞 2021/4/19)
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 3つ目は、中立的な第三者を装いつつ世論や関係者の理解と合意形成を自ら困難に導き問題を深刻にさせておきながら、それら理解と合意形成の困難そのものを新たな記事や社会問題にすることで更なる利益を得ようとするマスメディア・学者・活動家などによるマッチポンプ・クレイム、いわゆる「利益相反行為」に自覚・無自覚にかかわらず協力させられてしまうリスクだ。

 たとえ本人が善意の動機であっても問題解決の遅延や妨害に加担する結果をもたらし、当事者同士の分断や対立の一因ともなる。いずれのケースも、場合によっては当事者の人生を長期かつ不可逆的に縛り付けたり、生涯付き纏うデジタルタトゥーにさえなりかねない。

 朝日新聞記事の記述には、

 『「子どもたちのため」「社会のため」にと、大人が子どもの語りを誘導することもある、と指摘する。それは、報道機関にも当てはまる』
『震災をテーマにする限り、視聴者が理解しやすい「子どもたちの像」が必要なのかもしれない』
『子どもの側も、報道機関の発信に協力したり、発信を見聞きしたりしながら、「像」をつくっていった』
『結論があって、それに自分達が利用されていた。気持ち悪かった』
『茶番に苦しんだ子どもたち』

 などとあったが、これらの言葉は朝日新聞の記事にこそ当てはまるのではないか。報道倫理上の問題について、朝日新聞は自社のコンプライアンスとの整合性の中でいかに捉えているのか。
 
誰が「不安な空気」を作ってきたのか
 この記事を書いた朝日新聞大月規義福島総局長は、実は2021年にも処理土の再利用に関する記事を書いていた。

 ・『除染には3兆円もかかり、やっと中間貯蔵施設で集中管理できるようになった。それをなぜ外に広げるのか? 』
・『安全だとしても身近な道路や堤防などに使われると、その地域が「風評被害」にさらされる恐れがある。』
・『環境省は再生利用する土砂を安全と説明するが、原子炉規制法で決められた再利用の基準(1キロ当たり100ベクレル以下)を用いているのではなく、福島の事故で特別につくられた緩い基準(同8千ベクレル以下)を当てはめている』

 などの主張が書かれた記事内容からは、『「風評加害者」って誰? 汚染土利用に漂う不安な空気』という記事タイトルも含め、処理土再利用を阻害しようとする強い意図が伝わってくる。今回の記事は、こうした記者の主張を代弁・正当化し共感を広めるために当事者が利用されたケースではないのか。

 大月総局長が書いた「それをなぜ外に広げるのか?」は前述した法的根拠に基づいているに過ぎないし、「風評被害にさらされる恐れ」の原因は、まさに「汚染土利用に漂う不安な空気」などと報じてきたマスメディア自身にある。

 現にこの記事がSNS(X)で公開された2021年には、「風評加害者って誰?」と問うタイトルに対し、「お前だ」「鏡を見ろ」などの多くの反応(返信が624件、引用コメントも含めたリポストが1532件)が殺到し大炎上していた。ところが朝日新聞はこれまで、それら批判を無視し続けている。

 処理土の基準値(8000Bq/kg以下)についても、たとえ上限で見積もったところで作業者が年1000時間扱う想定で年間追加被曝線量が1mSv以下になるよう逆算して設定されている。実際に使われる土は基準値上限より遥かに低いものばかりである上に、追加で覆土処置まで行う。環境や健康への影響など起こり得るはずもない。

 「不安な空気」を創り広めている「風評加害者」は、多くの人が指摘したように朝日新聞自身ではないのか。
 
 
日本で一番「説明責任」を求め続ける朝日新聞から「回答期限4分前」に届いた「捏造疑惑記事への説明」の中身
 
前編記事『朝日新聞福島総局長の捏造疑惑炎上ではっきりした「不安な空気」を創っては拡散する「風評加害者」の正体』では、朝日新聞の4月21日付記事アナザーノートに見られた、捏造を疑われるなど多数の問題について指摘した。後編では、筆者が5月4日に朝日新聞に送った質問状の内容と得られた対応について具体的に記していく。
 
不当な印象操作への「説明責任」
 筆者が朝日新聞に送った質問書は、以下の通りである。

 〈 4月21日付の朝日新聞福島総局長大槻規義記者による記事、アナザーノート『「総代で卒業の被災者」その注目がつらい 茶番に苦しんだ子どもたち』において、捏造を疑われる報道がありました。

 この報道を巡りSNSでは「炎上」しており、避難や風評を経験しいまも苦しむ福島の被災者などからは重大な事実誤認がある、被災地を傷つける報道被害だという旨の声が殺到しています。事実関係を独自に調査した投稿の一つ、福島県議会の渡辺康平県議の投稿だけでも5月2日時点で53.5万以上のPVとなっており、すでに朝日新聞様の福島県内購読数3.7万部の実に14倍以上も読まれている状況です。

 そこで、本件について朝日新聞社としての見解を伺いたく質問書をお送りさせて頂きます。お忙しいところ恐縮ですが、以下11の質問に対して、ご担当者様の部署とご芳名を明らかにした上で、5月10日(金)17時までにメールでの回答をお願い申し上げます。

 また、返答の有無や回答内容も含めた貴紙のご対応は、記事や書籍、SNS、学術論文などに記録・掲載させて頂きますので予めご了承をお願い申し上げます。

 1.記事には「イベントは町内の復興住宅の花壇に、放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催しだった」と書かれていますが、渡辺県議が福島県と大熊町、さらに環境省と福島高専などの当事者それぞれに事実を確認したところ、その全てから「花壇に花植えはあったが除染土を用いた事実はない」との回答が得られています。なぜ事実に基づかない捏造報道をしたのでしょうか。その理由をお答えください。

 先日は読売新聞記者が紅糀サプリを巡る談話を捏造して諭旨退職、幹部も更迭する事件が起こったばかりです。仮にこれが事実誤認であったとするならば、朝日新聞社では、今回の捏造に対しどのように責任を取るかも具体的にお答えください。

 2.これまでSNSで当該記事に対し無数に寄せられている抗議を無視している理由をお答えください。また、この対応は大月総局長個人の判断であるか、朝日新聞としての判断であるかも合わせてお答えください。

 3.処理土の最終処分・再生利用の課題解決と合意形成はこれまで当事者である大熊・双葉両町長と議会が繰り返し要望し、これは中間貯蔵施設敷地内にかつて暮らしていた住民2000人を抱える最も深刻な被災経験をした多くの住民たちの悲願でもあります。

 事実、複数の調査によって、多くの福島県民、双葉郡の住民も県外最終処分や再生利用の推進を望んでいます。そうした状況を伝えるどころか、地元が反対ばかりであるかのような見解のみを一方的に書いた根拠と理由をそれぞれご教示ください。

 4.この記事では、あたかも中立的な第三者であるかのような立場から合意形成がなされていないといいつつ、一方では前述のような一部個人の見解のみにスポットを当てることで、また事実誤認の可能性がある記載を含めることで、民意を誤解させ、事実上合意形成を自ら妨害するスタンスの構成となっています。

 問題が残っているからダメだといいつつ、問題を深刻化させる側に加担する。これで読者の耳目を引いてメディアとしての収益をあげる。これは利益相反ではないでしょうか。利益相反という認識があるか否か、イエスかノーかのどちらかで明確にお答えください。

 5.この記事には、陰謀論的なナラティブもほのめかされています。新宿・所沢等での再生利用についてネガティブに触れ、「被災者でもある地元の子どもと住民が環境省と組み政策への合意形成を進めようとしている」かのような論調の上、福島高専の先生が「町の人が再利用に合意するように頑張ってほしい」と言ったとまで書かれています。

 ところが現実には、前述のように双葉町大熊町では首長や多くの住民が早期の県外処分を繰り返し要望してきた実態があります。中間貯蔵・環境安全事業株式会社法においては、除染等の措置に伴い生じた土壌等について、「中間貯蔵開始後30 年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」ことが国の責務としても明記されています。そうした状況で、「持ち出される側」の町の人に対して再利用の合意を強く求める行為は極めて不自然と言えます。

 前述したように、すでにこの記事では「使われていない土を使っていた」かのような捏造がありました。福島高専の先生による当該発言も、本当にあったのでしょうか。

 文章からはこの発言の主体がぼかされています。「住民が合意するように」という旨の不自然な発言は具体的に、いつ、どこで、だれが言った発言で、大月記者はどのような方法で事実の裏付けを取ったのでしょうか。お答えください。

 なお、当然ですが、「取材源の秘匿」という理屈は成立しえません。あたかも被災地の誰かが不正なことをしているかのような陰謀論じみた仄めかしをすること自体が、被災地に、貴紙がしばしば懸念を表明してきた「分断」を招く故です。この記述は、ただでさえ苦境にあえぐ被災者に対して報道被害を起こす可能性を誘発するものであり、実際にこの記事によって、記事の登場人物や福島高専に疑念をもつ反応も多数でています。

 既にこの記事は公表され、社会的影響が生じてしまっています。誰かが不正をしたかのような認識させる事実を公表した以上、取材源と取材方法を明確にし、説明責任を果たす必要があります。もし違うと言うのであれば、その社としての理由を明確に述べてください。

 6.上記の記述も事実に基づかない捏造であった場合、記事は福島高専や大熊町の住民の方々をはじめとする多数の被災者の方々の民意に対する全国からの誤解を招くと共に、要望されている早期の県外処分と復興を阻害することにも繋がります。記事を訂正・謝罪するか、あるいはこの記事の作成に関わり責任がある者にいかに処遇するか明確にお答えください。

 7.記事内では『「子どもたちのため」「社会のため」にと、大人が子どもの語りを誘導することもある、と指摘する。それは、報道機関にも当てはまる。』『震災をテーマにする限り、視聴者が理解しやすい「子どもたちの像」が必要なのかもしれない。』『子どもの側も、報道機関の発信に協力したり、発信を見聞きしたりしながら、「像」をつくっていった。』との記述がありました。

 これらに対し、<朝日新聞による当事者の口を借りた腹話術報道、マッチポンプ・クレイムである。当事子供であった女性をまるで人質のように矢面に立たせ、更に傷付け、その被害をもってさらに問題を深刻化させて記事にする利益相反であるし、記事中の記述をそのまま返せば、『震災をテーマにする限り、朝日新聞が利用しやすい「当事者たちの像」が必要なのかもしれない。先日、処理水の報道を確認したが、やはり海洋放出を懸念し反対したり、風評への不安を語る姿がほとんどだった』とさえ言える「前科」が朝日新聞には大量にある。>との批判も出ています。この批判が正当でないと考える場合、それを覆す具体的な根拠と共に反論をお願いします。

 8.別の関連記事についても質問致します。大月記者は2021年9月にも、「風評加害者」って誰? 汚染土利用に漂う不安な空気との記事を書き、返信が624件、引用コメントも含めたリポストが1532件と大炎上状態になっています。その中には、「(風評加害者は)お前だ」「鏡を見ろ」などといった意見論評にあたるものもありますが、「処理土を汚染土と書いたこの記事自体が風評加害」などと事実誤認や不当な印象操作への疑念を呈した反応も多数含まれます。

 貴紙はしばしば社会の「分断」に懸念を呈し、政治・行政に「説明責任」を求めます。当然、Xアカウントへのリプライ等は御社側でも見れる状態になっています。しかし、この記事自体が、事実として、火のないところに煙を立てて「分断」を煽り、同時に事実誤認や不当な印象操作への「説明責任」を果たさない大月記者の姿をあらわにしています。これらの批判を無視し続けてきた理由をお答えください。

 9.上記2021年記事では風評加害について「いやな空気」などと書いていますが、風評加害という用語と概念は3.11前、それどころか2004年以前から使用されてきた事実があり、学術的な定義付けもされてきた概念であります。これを無視し、偏った見解のようにとりあげたのは何故でしょうか。その理由をお答えください。

 10.私の取材の中で、これら記事内にて実名で名指しされた個人に対し、この記事をきっかけにSNSや仕事上で誹謗中傷をされ、社会的評価が低下し、日常生活・業務に大きな被害がでたという告発や懸念の声があがっています。現在、SNS誹謗中傷は多数の自殺者やうつ病等を引き起こす深刻な社会問題になっていることは貴紙でも報道されてきた通りです。そして、報道倫理上それは深刻な問題として捉えられています。

 例えば、民放連は2024年4月1日に改正した放送基準「第8章 表現上の配慮」において、「放送内容によっては、SNS等において出演者に対する想定外の誹謗中傷等を誘引することがあり得ることに留意する。また、出演者の精神的な健康状態にも配慮する。」と条文を新設しています。

 このような社会情勢の変化がある中で、あえて社会的評価が下がりえる意見論評が含まれる記事内で、特定個人を実名で記述したのか。その理由、そして、その被害の声に対して謝罪するか述べてください。

 11.外務省は、『国家及び非国家主体が、日本の政策に対する信頼を損なわせる、あるいは、民主的プロセスや国際協力を阻害するといった目的のために、偽情報やナラティブを意図的に流布する』『ALPS処理水を巡っては、事実とは異なる偽情報を拡散する試みが見られた』とまで明言しています。

 これまで挙げた記事の問題点などを根拠に、朝日新聞様は外務省が指摘した勢力と足並みを揃えて復興と問題解決を妨害しようとしている、そのために、ALPS処理水の次には除染土で対立を煽ることを手段にしようとしていると批判する声もあります。

 この批判に対してイエスかノーか、また、その意思を証明するために今後具体的にどのような取り組みをするかと共にお答えください。

 本件の対応に対しては、他社のジャーナリストも含め高い関心が示されています。お忙しいところ恐縮ですが、ぜひ回答のほど宜しくお願い申し上げます。 〉
 
質問事項への具体的回答無き返答
 すると5月10日16時56分、設定した回答期限の4分前に以下のような返答があった。

 この回答をSNSで公開したところ、多くの人々から朝日新聞に対する批判が起こった。

 朝日新聞への質問書に対し、16:56分。〆切の4分前にPDFで返答が来ました。

取り急ぎコメントや感想は後、以下に内容をそのまま転載します。 https://t.co/RSwMW4Ny7N

― HAYASHI Tomohiro (@SonohennoKuma) May 10, 2024 

 批判コメントの主な内容は以下の5つに集約される。

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1・記事の訂正を周知するアナウンスが極度に不足しているとの指摘
2・提出された質問書について、個別の質問に対する具体的な回答を避けたことへの疑問と批判
3・記事の根幹となるはずの当事者の発言も含む多数の箇所が突如改竄された。それらに対する合理的な理由の説明がなかったことで、当事者の存在や発言も含め、記事の多くが捏造ではないかと疑う声
4・誤報の原因究明や再発防止策などの説明責任が全く果たされておらず、吉田証言・吉田調書問題事件の教訓が全く見られないこと
5・紅麴にかかわる捏造報道で関係者を処分した読売新聞との違いと、その理由に対する説明がないこと
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 著者は上記の問題点を伝えた上で、改めて朝日新聞に以下の内容で再質問書を送り、内容をSNS(X)でも公開した。

 〈 1.すでに送った質問書に対し、「まとめて回答」ではなく個別の質問それぞれに対する回答を重ねてお願いします。また前回、個別の回答を避けた理由とこの対応に責任をもつ担当者名と肩書とを明確にお答えください

 2.なぜ前回の回答では、その対応に責任をもつ担当者の名前を出さずに回答したのでしょうか。何か理由があるならば、具体的にお答えください

 3.なぜ記事の写真を女性の顔写真からそうではないものに差し替え、事実誤認があった箇所以外の部分の複数個所の文言を何ら説明無く改ざんしたのか。その理由を具体的にお答え下さい

 4.関連して、新しい記事では、当初の記事から69文字が追加され、72文字が削除されていました。以下、変更箇所の一部について具体的にお伺いします。

 <変更前>
受賞をきっかけに取材や講演依頼が相次いだ。高専の5年になったある日、先生に呼ばれた。除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしいとの依頼だった。
「大熊町の出身として、町の人が再利用に合意するようにがんばってほしい」。除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた。

 <変更後>
受賞をきっかけに取材や講演依頼が相次いだ。高専の5年になったある日、先生に呼ばれた。除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしいとの依頼だった。
除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた。「大熊町の出身」として、再利用への合意が広がるように言われた。 

 <変更前>
「結局、地元が合意するという結論があって、それに自分たちが利用されていた。気持ち悪かった」

 <変更後>
「結局、地元が合意するという結論があって、それに自分たちが利用されているようで気持ち悪かった」

 この改変について、括弧書き内の発言は自然な読み方をすれば当然その言葉を誰が言ったのかは特定可能ですが、この発言者本人に、記事を変更する許可をいつ、どのような手段で取ったのか具体的にお答えください

 5.記事の事実誤認を認めた後も、いまなおこの記事に対してこの変更の経緯等に対して多くの疑念が提示されています。そして、この背景の調査・検証と周知が足りないとの声が多数あります。今後、社内で調査・検証をし、その内容を公表する予定はありますか。しないならば、その理由を具体的にお答え下さい

 6.改変の結果、当該記事は客観的な論拠に乏しい1人の女性の「主観」に過ぎない状況がより強く疑われるようになりました。なぜ、客観的な論拠と多くの住民の悲願、客観的なエビデンスを差し置き、「止まらない涙」「被災者として注目されることを避けたいと願う」女性の主観を敢えて強調し矢面に立たせたのでしょうか。

 大月福島総局長がしたことは、単に、極めて基礎的な事実確認を怠り、報道が守るべき最低限の公平性・公益性を無視したということにとどまらず、若年者・被災当事者のトラウマをさらに深める加害行為にあたる人権侵害ではないでしょうか。本件がもつ報道倫理上の問題について、御社のコンプライアンスとの整合性の中でいかに捉えているのかご説明ください

 7.関連して、既に先の質問書でも触れた点ですが、地元多数派の声を伝えず「地元合意の不確かさ」ばかりを訴えることで合意や理解を妨害して問題を解決困難にさせ、その解決困難を以てさらに記事を書こうとする。それをもって購読者からの収益等を得ている。このマッチポンプ型の報道が利益相反にあたるのではないかとの批判も改めて出てきています。この批判を認めますか。これが正当でないと考える場合、具体的な論拠と共に反論をお願いします

 8.記事で女性は『「子どもたちのため」「社会のため」にと、大人が子どもの語りを誘導することもある、と指摘する。それは、報道機関にも当てはまる』と語ったとされていますが、今回の朝日新聞報道こそがその際たるものではないかとの批判もあります。この批判を認めますか。この批判が正当でないと考える場合、具体的な論拠と共に反論をお願いします

 9.読売新聞で記者が処分された対応との違いを指摘する声も相次いでいます。読売新聞と違い、担当者への処分は行わないのでしょうか。イエスかノーか、さらにその理由もお答えください。

 10.今回の記事を「捏造」と指摘する声が数多くあります。捏造であったか、イエスかノーかでの明言をお願いします

 以上10点へのご回答をお願いいたします。 〉

 朝日新聞社広報部 ご担当者様

先日は質問への回答をありがとうございました。先にお伝えしていた通り、お送りした質問書と合わせて一般公開したところ、非常に大きな反響を呼んでいます。そのほとんどが朝日新聞社様への批判であり、代表的な傾向をまとめると、主に以下の5点に集約されます。…

― HAYASHI Tomohiro (@SonohennoKuma) May 18, 2024 この再質問書は大きな注目を集め、PVは当日夜のうちに朝日新聞発行部数350万を大きく超える442万以上となり、回答期限の22日までには500万PVを超えた。それだけ多くの人が朝日新聞の対応に疑問を持ち、質問書を拡散共有し、事態を注視したということだ。

 すると、今度は回答期限となる5月22日17時の1分前、16時59分にメールが届いた。

 内容は以下の通りである。

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・1度目の質問書に続き今回も文責と担当者名を明らかにするよう求めたにもかかわらず、匿名のまま。
・質問への具体的な返答の一切を避ける。
・捏造を疑われる根拠を具体的に突きつけられているにもかかわらず、何ら有効な反論が出来ていない
・「」で括った当事者の発言が改竄されたことに当事者の許可や裏付けを取ったかの質問に一切答えず、「分かりやすくするため」などとして済まそうとしている
・マッチポンプ・クレイムによる利益相反の疑いについて何の弁明もない
・これらを覆すための根拠を何一つ示さずに「捏造ではない」の一点張り
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 わざわざ回答期限の1分前まで待たせて送ってきたこの対応が、他者に対しては日本一「説明責任」を求め続けてきた新聞社が自ら果たした「説明責任」であった。

 著者は本件を、これで有耶無耶のまま終わりにはさせない。今後は本記事を以て、朝日新聞社が掲げるガバナンスにある「メディアと倫理委員会」「パブリックエディター制度」などに引き続き訴えていく所存である。

林 智裕(フリーランスライター)