マイナカード利用ゴリ押しのえげつなさ…医療機関への一時金倍増、携帯契約まで“人質”に
もはやゴリ押しの上を行く強権ぶりだ。厚労省は20日、12月2日に予定している現行の健康保険証廃止に向け、マイナカードの利用促進の一環として利用率を増やした医療機関に支給する一時金を倍増する方針を固めた。さらに当初5~7月末だった「利用促進強化月間」を8月末まで延長するという。
現時点の一時金は最大で病院が20万円、診療所や薬局が10万円。それが倍になるのだから、先月時点で利用率7%台にとどまるマイナ保険証を何としてでも使わせたい厚労省のやり口たるや、えげつないにも程がある。
現行の保険証の存続を訴える全国保険医団体連合会(保団連)事務局次長の本並省吾氏がこう言う。
「病院や薬局でマイナ保険証への切り替えを呼びかけるために厚労省がつくった『台本』が原因で、患者が『マイナ保険証しか使えない』と誤解する事例が発生しています。厚労省は窓口説明の不備のせいにしていますが、一時金を倍増したら、『早くマイナ保険証をつくらないと大変ですよ』といった詐術が一層はびこるのではないか」
携帯電話を人質にマイナ利用は義務だと思わせる詐術
若年層よりも医療機関を受診する機会が多い高齢者はなおのこと勘違いする可能性が高い。お年寄りを狙い撃ちにした利用促進策は他にもある。
河野デジタル相は18日の会見で、携帯電話を「対面」で契約する際に「マイナカードなど」に搭載されているICチップの読み取りを本人確認の方法として事業者に義務付ける方針を説明。「など」には一体何が含まれるのか。デジタル庁に聞くと、「現段階では運転免許証や在留カードであり、これからさらに具体化していく」(広報担当)との回答だった。
運転免許証の保有率は、原付免許を取得できる16歳以上の適齢人口(1億936万人)あたり74.8%。高齢者は65~69歳が82.8%、70~74歳が70.2%、75~79歳が54.8%、80歳以上が22.8%と、当然ながら年を重ねるにつれて激減していく。
「高齢者ほど携帯契約は対面を望むと考えられる。そもそも免許を持っていなかったり、返納したりした方は、ほぼマイナカードでの本人確認を強いられることになるでしょう。これも生活に欠かせない携帯電話を人質に取ってマイナ利用は義務だと思わせる詐術です。医療機関にかかる蓋然性の高い高齢者にマイナカードを持たせれば、マイナ保険証の利用促進につながるという政府側の魂胆も透けて見えます」(本並省吾氏)
情報に疎い高齢者をターゲットにするとは、とことん意地が悪い。
「マイナ」ゴリ押しが止まらない 今度はケータイ契約の本人確認、非対面なら「原則必須」 「ない人」どうすれば
「民間のオンラインサイトでは普通、ID番号やパスワードで本人確認し、問題はない。それを政府は官製のデジタルIDに置きかえようとしている。民間商取引まで国家管理したいのではないか」
政府は携帯電話の契約時の本人確認について、マイナンバーカードなどに搭載されるICチップを読み取る方法にすると決めた。ICチップが付く運転免許証や在留カードも含むというが、インターネットを通じた非対面の契約では「マイナカードに原則一本化」とも。紙の健康保険証の廃止と同様、なりふり構わぬ利用促進の一環ではないか。(森本智之)
◆「国民を詐欺から守るため」の一環
一連の方針は18日の関係閣僚会議で決定した「国民を詐欺から守るための総合対策」に入った。従来は運転免許証の顔写真を目視するなどで、本人確認する方法も取られていたが、偽造を見破れず、不正取得された携帯電話が特殊詐欺などで使われる例が多発したという。
総合対策では、窓口で行う対面契約は「マイナンバーカード等のICチップの情報の読み取りを(中略)義務付ける」と記された。
目を引く記述は、これだけではない。
携帯大手では、インターネットのみで契約を受け付ける格安プランへのシフトが進んでいる。こうした非対面契約での本人確認は「マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化」と打ち出した。
所管する総務省利用環境課は「電子的な本人確認を義務化するという趣旨。対面、非対面を問わず、マイナカードでなければダメということではない」と説明するのだが、文面はマイナカード中心の書きぶりだ。実施時期は未定という。
◆ICチップの活用は「自然な話」だが…
ICチップ付きの各種カードを使った本人確認はどう捉えるべきか。
ITジャーナリストの三上洋氏は「ICチップを使わない本人確認は犯罪集団に使われ放題。携帯電話の犯罪利用を撲滅するために利用するのは自然な話」と一定の評価をする。
今年4月には東京都議が偽造マイナカードで携帯を乗っ取られる被害が報じられた。店側の本人確認はカードの目視で行われた。
三上氏は「マイナカードでいえば、ICチップの中身を不正に読み取ったり、偽造したりすることは現在の技術ではほぼ不可能」と指摘。ICチップで本人確認するのは「確実かつ安全な方法だ」と述べ、携帯電話会社側も「業界の流れになっている」という。
◆取り残される人について「何らかの検討」
その一方、「取り残される人」への対応の必要性を指摘する。「マイナカードや運転免許証など、ICチップ付きの身分証を持っていない人は、若者をはじめ一定数いるだろう。今までなら、オンラインで身分証の写真を撮って送信すれば契約できていたのができなくなる。そういう人は確実に不便になる」
この点、総務省の担当者は「非電子的な方法をどう確保するかは決まっていない。何らかの検討をすることにはなると思うが…」と不備を認める。
不透明さが残る中、マイナカードの利用促進に傾く政府の姿勢には、厳しいまなざしが向く。
◆民間の商取引まで国が管理を狙う?
白鷗大の石村耕治名誉教授(情報法)は「マイナカードを持つ、持たないは任意の話なのに、持つことを前提のようにして制度設計するのは問題がある。健康保険証の廃止と同じではないか」と批判する。
危惧するのは今後の展開だ。「政府はあらゆるオンライン上の本人確認に、マイナカードに格納されているデジタルIDを使わせようとしている。今回もその一環だろう」とみる。
実際、政府はマイナカードについて「デジタル社会のパスポート」をうたい文句に普及を進めてきた。
「民間のオンラインサイトでは普通、ID番号やパスワードで本人確認し、問題はない。それを政府は官製のデジタルIDに置きかえようとしている。民間商取引まで国家管理したいのではないか」と懸念する。
マイナ保険証ごり押し「中止を」 医療団体の要請に厚労省ゼロ回答 「台本もチラシも修正しない」
厚労省は5~7月、利用促進の集中取り組み月間として、利用者が増えた病院や薬局に最大20万円の支援金を出すキャンペーンを展開中だ。
保団連側はキャンペーンでは、一部の医療機関や薬局側が患者に対し、マイナ保険証利用を強く誘導するような声かけが行われているのは問題と指摘した。
また、現在、病院や薬局で配布されている「チラシ」の文言が「保険証が廃止されることしか書いてない」と指摘された点については「(書いてあることに)誤りはない。修正、回収する必要はない」とした。