徹底的な調査が必要。警察内部の隠匿対体質、それを告発した報道機関への不当な介入。まさしく民主主義が冒涜され権力によって崩壊されようとしている。

 

 

元生活安全部長による情報漏洩など、鹿児島県警で逮捕者が相次いでいることを受け、警察庁は、来週にも県警に監察官を派遣し、不祥事にいたった経緯などを検証をした上で、再発防止策についても検討する方針です。

 

 

 

鹿児島公安委「本部長が隠蔽指示、事実認められず」 情報漏えい問題

 
 鹿児島県警の内部文書を漏えいしたとして国家公務員法(守秘義務)違反で起訴された県警の前生活安全部長、本田尚志(たかし)被告が、漏えいの理由を県警トップの本部長が不祥事を隠蔽(いんぺい)しようとしたためと主張している問題で、県公安委員会は21日、「本部長が隠蔽を指示したと判断する事実は認められない」などとする文書を発表した。文書の全文は以下の通り。【取違剛】

令和6年6月21日

鹿児島県公安委員会

 1 前生活安全部長の被告事件について、県警察から調査状況の報告を随時受けてきた。その中で、本部長が隠蔽を指示したと判断する事実は認められない。
 ただ、当該被告事件によって、県警察の組織運営の適正に対する懸念が広まっていることは事実であり、県警察においては、これを早急に払拭(ふっしょく)されるよう要望する。

 2 県公安委員会としては、一刻も早く、県警察が非違事案の原因の分析を行い、その結果を踏まえた実効性のある再発防止対策及び組織の健全性を高めるための具体的かつ抜本的な対策を実施することを求め、その推進状況を管理していく。

 3 また、各級幹部に対し平素から部下職員との意思疎通を十分に図るなど、県警察が組織として報告や相談がしやすい環境の醸成と、必要な監督指揮により、職員の規律の保持及び業務の適正な遂行に遺漏なきことも併せて強く要望する。

以上

 

鹿児島県警の報道弾圧に抗議する(上)

 
 
「県民の信頼を取り戻す」「抜本的な対策を進める」――警察官による違法行為が明るみに出るたび繰り返されている鹿児島県警のこうしたコメントが、実現することは絶対にない。県警が、表面化した事件の背景や真相を隠し続けているからだ。それだけではなく、まだ隠蔽されたままになっている事件さえ複数ある。本稿は、報道の自由を否定した鹿児島県警に対する抗議であり、この問題の「原点」(強制性交事件)が何かを問い直す、ハンターからの最後通告である。

■「情報漏洩」で県警の思惑に乗る地元メディア
 昨年来、鹿児島県警の警察官による不祥事発覚が相次いだ。公表された主なものを列挙する。

・未成年者に対する淫行があったとする強制性交事件(2023年10月)

・20代女性へのつきまとい行為によるストーカー規制法違反事件(同月)

・地方公務員法違反(守秘義務違反)事件(今年3月)

・不同意わいせつ事件(今年4月)

・性的姿態撮影処罰法違反(盗撮)事件(今年5月)

・国家公務員法違反(守秘義務違反)事件(今年5月)

 はじめに、2件の守秘義務違反に関する事案については、公務員法に触れるものではなく、「公益通報」あるいは「内部通報」であるということをハッキリさせておきたい。さらに、2件の守秘義務違反事案の発端となったのが、鹿児島県医師会の元男性職員が訴えられた強制性交事件における不当捜査であることも明確にしておかなければならない。原点を知らずして、公益通報の経緯を語ることはできないということだ。

 その上で述べる。2件の公益通報は、いずれも県警内部の不正・腐敗を正すための告発であり、その発端となったのが県医師会の元職員による強制性交事件だ。わいせつ事案と公益通報を同列に扱い、「警察官の犯罪」「とんでもない警察官」などと批判する地元メディアの報道を見てきたが、底の浅さに呆れるばかりである。残念なことに、守秘義務違反事案の動機に疑問を持ち、事案の経緯を丹念に迫った調査報道を、筆者は寡聞にして知らない。

 公益通報の背景にあるのは、鹿児島県警という組織の悪しき体質だ。これまでの地元メディアの報道は、それを隠したい県警の思惑に乗る形になっている。報道の使命は、権力の監視であると同時に、歪んだ力によって隠された真実を暴くことではないのだろうか。警察や医師会といった権力側の発表を何の疑いもなく記事にすることで、本当に裁かれなければならない人物が笑い、悪質な犯罪が闇に葬られることを、鹿児島メディアは自覚すべきだ。

■公益通報の発端は強制性交事件
 ハンターは、2022年3月に強制性交事件の第一報となる『コロナ療養施設で職員が性行為|鹿児島県医師会に問われる規範意識(1)』を配信。その後、県医師会の人権を無視した被害女性への仕打ちに加え、告訴事案となった本件の捜査を担当した鹿児島県警中央警察署が“もみけし”を図ったり(参照記事→『鹿児島県警が性被害を訴えた女性を門前払い|医師会・わいせつ行為者の父は元警官』)、不当な捜査指揮が行われたことなどを報じてきた。

 その過程で入手したのが、強制性交事件で不当な捜査指揮があったことを裏付ける「告訴・告発事件処理簿一覧表」であったことは、一連の配信記事で明らかにしてきたとおりだ(参考記事⇒『鹿児島県警、腐敗の証明|背景に「警察一家」擁護と特定団体との癒着』)。従って、本サイトが入手した処理簿は「公益通報」によるものだったと確信している。

 入手した処理簿によって明らかになったのは、中央署長から県警刑事部長に出世していた井上昌一氏によるものとみられる不当な捜査指揮の実態。流出の原因を知られたくなかった県警は当初、処理簿に記された一部の民間人にのみ情報が漏れたことを謝罪し、幕引きを図る構えだった。形を変えた隠蔽だ。しかし、強制性交事件の真相を埋もらせるわけにはいかない。意を決した筆者は、2024年2月21日に鹿児島県警本部を訪問した。

 この時の県警の対応は異常としか言いようがなく、処理簿一覧表を確認させた上で公表・謝罪を条件に保有していた一覧表を渡そうとしたが、県警側は拒否。処理簿に触れようともしなかった。他の都道府県の警察本部なら、正式な受け取りは避けても、その場で処理簿のコピーだけはとっていたはずだ。それさえできなかったのは、処理簿一覧表を受け取って公表した時点で事が大きくなり、蒸し返されたくない「強制性交事件」に再度光が当たることになると考えたからだろう。

 そもそも鹿児島県警は、強制性交事件に関する本サイトの数回のアプローチに、一度も向き合おうとせず、徹底的に黙殺することで組織防衛を図ってきた。改めて、これまでの県警とのやり取りを振り返っておきたい。

【2023年1月10日】
 性被害を訴えて助けを求めた女性を門前払いにしたことや、女性の言い分を聞く前に「刑事事件にはならない」などと結論付けたのは事実かどうかを確認するため、鹿児島中央署に出向き取材申し入れ。中央署側は、「こちらでは対応できない」として取材拒否。やむなく受付に署長宛ての質問書(*下の画像)を預けたところ、同署は「受け取れない」(同署警務課)として、翌日に配達証明付きでハンターの記者に返送してきた。
 
 
【2023年6月5日】
 強制性交事件で被疑者となった鹿児島県医師会男性職員の父親で、鹿児島中央署に勤務していた元警部補が息子の事件に不当介入したこと、さらには県警がこうした事実を知りながら組織ぐるみで事件送致を遅らせた形になっていることについて申し立てるため監察官への面会を求めたが、「総務部総務課」の警部と警部補が対応。監察官は対応せず、その後の連絡もなかった。

 こうして沈黙を決め込んでいた県警は今年3月、処理簿の相次ぐ流出を重くみた警察庁や国家公安員会から厳しい指摘を受け、50人体制で調査することを表明。ようやく情報漏洩の事実を認めて公式に謝罪したが、発端が強制性交事件の不当捜査にあることには一切言及していない。都合の悪いことを隠すため、「情報漏洩」だけに焦点を当てさせようとする思惑が透けて見える展開だ。以後、地元メディアは何の疑いももたず、その誘導に乗って県警発表をたれ流した。「官」を妄信するのは、この国のメディアを蝕む病である。

■報道弾圧 — ハンターへの家宅捜索
 4月8日朝、突然ハンターの事務所に来た鹿児島県警の捜査員が、地公法違反の関係先だとして令状を振りかざしながら家宅捜索。翌日、いったん押収して持ち去ったハンター所有のパソコンに残されていた処理簿などのデータを、返却時に削除するという暴挙に及んだ。

 さらに県警は同月18日、筆者に対して被疑者告知。21日と23日、情報漏洩に関わった疑いがあるとして筆者を取り調べた。筆者は、報道に携わる者としては当然の「情報源及び取材過程の秘匿」を貫いたが、強制性交事件のもみ消しを図ったとみられる県警と鹿児島県医師会の闇を追及してきたハンターに対する、あからさまな報道弾圧だった。本サイトが強制捜査をうける謂れはなく、怒りを込めて抗議しておきたい。

 前述の通り、ハンターはこれまで、県警幹部による不当な捜査指揮を厳しく批判する一方、県警本部を訪問して流出資料の提供という形での協力を申し出たほか、3月になって県警側が求めてきた面会要請にも応じる約束をしていた。

 これに対し県警は、同県警本部を訪れた本サイト記者の申し出を拒否。さらに自分たちの方から頼んできた面会要請も、約束前日の夕方になって一方的にキャンセルするという不誠実な姿勢だった。

 あろうことか県警は、強制性交事件の真相を歪めた県医師会と県警を追及してきたハンターへの強制捜査着手と同時に、同事件で被害を訴えてきた女性の雇用主にまで捜査の手をのばした。“これ以上騒ぐな!医師会と県警に逆らうな!”という、腐敗権力側の脅し――。ハンターは県警と医師会の癒着を疑ってきたが、間違いではないと考えている。(以下、次稿)

ニュースサイト「ハンター」 中願寺純則


鹿児島県警の報道弾圧に抗議する(下)|2件の公益通報と強制性交事件
 
鹿児島県警の警察官による「公益通報」が、2件立て続けに表面化した。1件目は井上昌一前刑事部長の不当な捜査指揮の証拠となる「告訴・告発事件処理簿一覧表」、2件目は野川県警本部長による警察官の犯罪行為隠蔽を告発する内容だった。一連の公益通報が行われるきっかけとなったのは、2021年9月に起きた鹿児島県医師会の男性職員(22年10月に退職)による強制性交が疑われた事件。この事件における不当捜査の実態を、ハンターに家宅捜索までして隠そうとしてきた鹿児島県警に、問題の「原点」が何かを問い直す。
 
■「闇をあばいてください。」
 4月8日の家宅捜索の際、ハンターの業務用パソコンにあったのが、本サイトに寄稿している北海道のジャーナリスト・小笠原淳氏に郵送されていた差出人不明の郵便物の画像だった。郵便物の内容は現職の警察官が犯した3件の違法行為が隠蔽されていることを示すもので、「闇をあばいてください。」とあった。ただ、県警は処理簿のデータにこだわりを見せただけで、3件の告発については訊ねようともしなかった。記事化が先行することを恐れ、意図的にそうしたということだ。

 3件の告発事案の“裏付け”がいずれも取れない状態だったが、ハンターへの家宅捜索の際に偶然内部通報の内容を知った県警は、5月30日に告発文に記載されていたうちの1件を立件。それが、現職警官による盗撮事件だった。この件についても県警は、立件はしたものの「捜査車両」を使っていたことなど、不都合な事実は隠して公表している。他の2件――現職警官によるストーカー事件と公金詐取については、6月6日から8日にかけて配信した小笠原氏の3本の記事に詳述しており、ぜひご一読願いたい。
 
 5月31日、県警はこの件に絡んで情報漏洩を行った疑いがあるとして、県警の前生活安全部長を国家公務員法違反で逮捕。6月2日に送検した。逮捕容疑となったのは、小笠原淳氏に、捜査情報を記した文書を封入した郵便物を送ったことだった。しかし、鹿児島簡易裁判所で開かれた勾留理由開示手続きでは、逮捕された前生活安全部長が、県警本部長による2件の事件隠蔽があったことを知らせるための「内部通報」――つまり公益通報だったことを暴露。県警トップによる事件の隠蔽が疑われるという異例の展開となっている。

 当初、送られてきた告発文について小笠原氏と検討したが、事件隠蔽を指示したのが刑事部長だという指摘には疑問を持っていた。隠蔽指示が出されたという盗撮事件も、立件されなかったというストーカー事件も、生活安全部マター。「本部長指揮」になっているのなら、刑事部が口を出す話ではない。刑事部長は、「静観しろ」(文書の記述)と指示する立場にない。「静観しろ」と言えるのは、生活安全部長か本部長の二人。そうなると捜査全体を止める権限を持つのは本部長だけだ。強制性交事件の不当捜査を追及してきたハンターがターゲットにしてきたのが前刑事部長だったことから、あえて前刑事部長に取材をかけさせ、本部長指揮の実態を聞き出させようと考えたとすれば、告発の記述にも合点がいく。ただ、いずれの事案も裏取りが困難。どうしたものかと迷っていた状況を一変させたのが、盗撮犯と元生安部長の逮捕だった。こうして県警自らが“裏取り”してくれた形になったことが、6月6日から8日にかけての配信記事につながっている。

■「公益通報」
 公益通報の壁は厚い。しかし、「情報漏洩」という単なる犯罪として片付けられようとしている2件の事件で問題になった文書が、本サイトでこれまで配信してきた記事の裏付けとなったのは事実。いずれの文書も県警幹部による不当捜査、犯罪の隠蔽を裏付ける貴重な証拠だった。それらの文書がなければ、県警の闇に光をあてることはできなかったはずだ。いずれも「公益通報」であると確信している。2件の公益通報の1件目は、告訴・告発事件処理簿一覧表(*下の画像)の提供によって、次が「闇をあばいてください。」で始まる告発文によってなされた県警の不当な捜査指揮に対する抵抗だったとみることもできる。

 
 重ねて述べるが、一連の事案の発端となったのは、新型コロナ療養施設内において起きた県医師会の元職員による強制性交事件だ。この件を追い続ける過程で、告訴・告発事件処理簿一覧表が不当捜査の証拠として登場し、配信記事を読んでいた元生活安全部長が本サイトと北海道のジャーナリストに信頼を寄せ、内部通報に及んだものと考える。

 鹿児島県警によるハンターへの強制捜査は報道弾圧である。本稿をもって正式な抗議とするが、筆者がそれ以上に声を大にして訴えたいのは、強制性交事件の事実上のもみ消しがいかに不当なものであるかということ。たしかに報道弾圧は大問題だが、筆者はガサ入れを受けようが逮捕されようが、一向にかまわない。一人でも多くのジャーナリストや政治家が、卑劣な人間たちに踏みにじられてきた女性に救いの手を差し伸べてくれることをお願いしたい。筆者も小笠原氏も、そのために戦ってきたのだから。

■強制性交事件の経緯
 最後に、問題の強制性交事件について経緯を振り返っておきたい。
 
 
 すべては、鹿児島県警中央警察署が性被害の訴えを門前払いにしたことから始まった。それに続く不当捜査。次いで、県医師会の池田琢哉会長が、強制性交を否定するためわざわざ会見まで開いて喧伝した「合意に基づく性行為」という主張――。医師会は男性職員を庇うことで池田体制を維持することを企図し、県警は男性職員の父親が警察官だったことから「警察一家」の体面を保つため事件のもみ消し、さらには不当捜査に走った。そうした経緯は、今回明るみに出た前生活安全部長によるものとされる郵便物に記されていた3件の警察職員による事件隠蔽の構図に重なる。

 相手が警察であれ医師会であれ、腐敗した権力に立ち向かうのが報道の使命だろう。2年間、それをやり通した結果が、鹿児島県警によるハンターへの家宅捜索であり、被疑者調べだったとしても、私は歩みを止めるわけにはいかない。

ニュースサイト「ハンター」中願寺純則
 
 

【速報】暴走する鹿児島県警、県医師会側に捜査情報を漏らした疑いが浮上

 
鹿児島県警の警察官による“公益通報”の捜査が進んでいた今年4月、事件に関連して家宅捜索が行わることや具体的な押収物などの捜査情報が、鹿児島県医師会側に漏れていた疑いがあることが分かった。同会関係者周辺の証言による。

これまでハンターは、「情報漏洩」だとされる一連の問題について、発端となったのは2021年9月に起きた医師会の元職員による、新型コロナウイルス療養施設内における強制性交事件だと指摘。その裏で、県警と医師会が共謀する形で不当な捜査が行われた疑いがあるとして追及してきた(参考記事⇒“強制性交事件「もみ消し」の代償(2)|疑われる鹿児島県警と県医師会の「共謀」”)。外部が知り得ない捜査情報を医師会側が知っていたとすれば、強制性交事件における県警と医師会の共謀関係が証明される格好となる。

◆   ◆   ◆

県内に在住する男性A氏の証言によれば、今年4月中頃、ある県医師会の関係者が、“いまごろ、○○先生は、県警のガサ入れで、携帯とかを押収されてるはずだ”と捜査情報を披露したという。A氏は、「(医師会関係者は)『県医師会の中枢にいる人間から聞いた』と言っていたが、いろんなことが表になる前のことで、その時は何のことかわからなかった。今考えると、たぶんその頃には捜査が始まっていて、という時期と一致する」と話している。

県警は4月8日、「地方公務員法違反事件の関係先」だとしてハンターの事務所を家宅捜索。その日県警は、ほぼ同時刻に、強制性交事件の被害者の雇用主である病院長を待ち伏せし、携帯電話を押収していた。

2件の「ガサ入れ」があったことが表面化したのは、今月に入りハンターが事実関係を認めて公表してから。それまでは、一切明かされていなかった。医師会側が具体的な押収品=携帯電話のことを知っていたとすれば、教えたのは県警以外になく、違法な「情報漏洩」があったことになる。今月中とされる池田氏の県医師会長退任を機に、医師会関係者から何件もの情報提供が寄せられる状況となっている。

これまで報じてきた通り、医師会の池田琢哉会長は強制性交事件が表面化する数日前の時点で、鹿児島県に対し「強姦といえるのか、疑問」と話して事件を矮小化。その理由の一つとして、警察が事件性を否定していることを挙げていた。

県警と医師会側の共謀を証明するかのように、2022年1月には、被害を訴えている女性の告訴状提出を鹿児島県警中央警察署がいったん拒否し、事実上の門前払いにしていたことが明らかとなっている。医師会元職員の父親が、中央署に勤務していた警部補だったことも分かっており、同事件を巡る不当捜査は、「警察一家」を擁護したい県警側と、強制性交事件を否定したい医師会側の思惑が一致した結果だったともとれる。

新たに浮上した情報漏洩疑惑。事実だとすれば、県警は守秘義務違反を犯した警察官を特定し、逮捕すべきだろう。

 

鹿児島県警「情報漏洩」の真相(1)|盗撮事件、幹部が「静観」指示か

 
「闇をあばいてください。」――送られてきた差出人不明の郵便物の1枚目には、そう大きく印字されていた。筆者は「内部告発」=「公益通報」を確信した。

■「捜査車輛」から犯人特定
職員の不祥事が相継いで報じられている鹿児島県警察で、事件化された複数の事案が現場の責任者の判断で隠蔽されていた疑いが浮上した。一部の事案では本年5月中旬に県警が盗撮の容疑者の警察官を逮捕、報道発表するに到ったが、すでに3月下旬の時点で同事案を含む未発表不祥事少なくとも3件の概要を記した文書が、筆者に送られてきていた。

別の情報漏洩事件を調べる過程で隠蔽事案3件が筆者とハンターに知られていることを察知した県警が、記事化に先手を打つ形で立件したとみられる。

地元報道などによると鹿児島県警は5月13日、枕崎警察署の男性巡査部長(32)を建造物侵入などの容疑で逮捕した。巡査部長は昨年12月、県内の女性トイレに侵入して個室内の女性を盗撮した疑いがあるという。

取材結果や関係者の証言などによれば、この件は一度内部で握り潰されていた。当事者逮捕により事態が明るみに出る結果となったが、それまで少なくとも半年間は一切が伏せられていたわけだ。筆者とハンターは3月下旬までに事件の経緯をある程度把握できており、その概要は今回の発表とおおむね一致している。具体的には、以下の如くだ。

事件が発覚したのは、発表通り昨年12月のこと。現場は枕崎市内にある公園の公衆トイレで、その個室を利用した被害者女性がドア上方にスマートフォンのような物があるのを目撃する。驚いた女性が声を上げてドアを開けたところ、その場にいた盗撮犯とみられる男が走り去り、近くにとめていた白い車に乗って逃走した。被害女性は最寄りの枕崎署にパトロールを要請。同署が付近の防犯カメラを調べたところ、先の「白い車」が同署の捜査車輌であることがわかり、事件のあった日時に当該車輌を使っていた職員も特定されたという。「捜査中」の犯行だった可能性が高い。

■保身のため「静観しろ」
現職警察官による盗撮疑いを把握した枕崎署は、当然ながら容疑者である警察官のスマートフォンを差し押さえるなどの捜査を検討。告発文によれば、これに県警幹部が待ったをかけたという。具体的には「静観しろ」との指示があったとされる。

目的は、おそらく県警幹部の保身。おりしも鹿児島県警では職員の非違事案が相継いでおり、そこで現職警察官が逮捕されるとなれば幹部の責任問題に発展しかねない。隠蔽指示に異を唱える声が上がることはなく、捜査は頓挫。署ではこれを機に全署員へ「盗撮行為の防止」と題する教養(指導)を実施するとともに、容疑をかけられた職員の行動を監視し始めた――。

一度お蔵入りとなった事件が本年5月になって容疑者逮捕に到った理由は、前述したとおりハンターの報道で未発表不祥事が明るみに出る事態を回避する目的があったと考えられる。実際、県警は遅くとも4月上旬までに、同事件の情報が筆者とハンターに漏れたことを把握していた。

本稿冒頭で述べたように、鹿児島県警ではこの盗撮事案を含めて少なくとも3件の不祥事が握り潰されていたが、残る2件の概要については次稿で報告したい。

■問われる報道の在り方
ここで参考までに述べておく。「夜討ち朝駆け」などと格好をつけているが、警察関係者が報道機関の記者に捜査情報(容疑者の供述内容など)を漏らす行為は、情報漏洩であり公務員法違反だ。全国津々浦々で24時間365日、公然と行なわれている違法行為であるためか、これまで一度も問題とされたことがない。

その一方、当局の意に沿わない方法で情報を漏洩した職員が公務員法違反で逮捕され、極悪人のような扱いで大きく実名報道されることになるのは、まさに鹿児島県警を舞台とするここ1カ月ほどの異常な報道で読者諸氏もよくご存じの通りだ。県警の思惑に乗った報道が、隠蔽の事実を闇に葬ることになることを、地元メディアは肝に銘じるべきだろう。

なお、同県警をめぐっては職員の不祥事に係る情報開示請求への不適切な対応(存否応答拒否)を本サイトで指摘してきたところだが(既報1 )、筆者の審査請求(不服申し立て)から8カ月が過ぎた本年3月下旬時点で県情報公開・個人情報保護審査会(野田健太郎会長、委員5人)の結論はまとまっておらず、同27日の審査会でなお継続審議となったことがわかっている(参考⇒)。県警は、まだ何か隠しているということだ。(以下、次稿)

(小笠原淳)
 
 
鹿児島県警「情報漏洩」の真相(2)|ストーカー事件「巡回連絡簿悪用」も隠蔽か
 
前稿で報告した鹿児島県警の警察官による盗撮事案に続き、筆者とハンター編集部が把握する未発表不祥事の概要を伝えておきたい。こちらは盗撮事案と異なり未だに報道発表される兆しがなく、このまま握り潰される可能性が高い。

■「巡回連絡簿」を悪用
不祥事の舞台は、県内の警察署。同署地域課に所属し、ある駐在所に勤務していた30歳代の男性巡査長(当時)が、業務を通じて不正に取得した個人情報をもとに悪質なストーカー行為を行なっていたという。

同巡査長は一昨年4月、パトロール中に立ち寄った事業所で一般の20歳代女性と知り合う。当初は月に一回程度の巡回の際に世間話をする程度の関係だったが、およそ1年を経た昨年4月ごろから、2人は個人的にLINEのやり取りをする間柄となった。巡査長が駐在所の巡回連絡簿から女性の個人情報を不正入手し、携帯電話番号にメッセージを送信したのがきっかけだったとされる。

同女性に頻繁にLINEを送るようになった巡査長は、仕事の休みを聞き出したり「抱いていい?」などと不適切なメールを送信する言動に及び始めた。女性は努めて当たり障りのないメッセージを返していたが、その後も食事の誘いやラブホテルなどについて尋ねるメールが送られてくるようになったため、昨年暮れになって交際相手に被害を相談することにした。この「交際相手」が加害者の同業者、つまり警察官だったことで、事件は県警の知るところとなる。本部人身安全少年課の調べに対し、巡査長は「若くて好みのタイプだったので男女の関係になりたかった」などと供述、不適切な言動があったことを認めるに到った。

被害女性の自宅や勤務先が駐在所の近くにあることから、所轄署は巡査長を駐在所勤務から外し、署内で勤務させる措置をとる。事件の調べにあたった本部は、上の供述やメッセージの記録などから、巡査長の行為がストーカー規制法に抵触する可能性を確認、年が明けて本年1月に捜査員3人が被害女性宅を訪ね、女性と両親に謝罪した上で捜査状況などを説明していた。

この訪問からさほど時間を経ていない2月上旬、捜査は唐突に終了する。被害女性が事件化を望まない意向を示したためだ。女性の本意は定かでないが、県警にとっては好都合な結論だったと言ってよい。立件されない以上は報道発表の必要がなく、事実関係を隠蔽し続けることができるためだ。実際、今に到るまで一切の経緯が公表されていない。ただし、巡回連絡簿が犯罪に使われたという事実は極めて重く、県警はその点だけでも公表して謝罪するべきだろう。

巡査長の処分などは、ハンターが情報を掴んだ3月下旬の時点で不明。筆者に送られてきた告発文書には、ストーカー行為の端緒をつくった巡回連絡簿の不正利用について、県警監察課が調査に入ったとの情報も記されている。

■県警本部長のブラックジョーク
ところで、地元紙「南日本新聞」は、5月30日朝刊に野川明輝鹿児島県警本部長の定例会見での発言を掲載。記事では、県下の県警地域課長会議で野川氏が、次のように訓示したことも紹介している。(*下の画像。5月30日南日本新聞の紙面より。赤いラインはハンター編集部)

「巡回連絡などの活動により、統計だけではわからない治安課題を把握することができる。その解消が安心感や体感治安向上につながる」
 
 
ここ数日の報道によれば、筆者に件の内部告発文を送ったのは県警の前生活安全部長で、一連の犯罪隠ぺいを指示したのは野川本部長だったという。述べてきた通り、現職警官のストーカー事件で利用されたのは「巡回連絡簿」。その事件を握りつぶした張本人が、巡回連絡の強化を指示していたことになる。ブラックジョークとしか言いようがないのだが、事実なら、巡回連絡に協力する県民はいなくなるだろう。
 
(小笠原淳)
 
鹿児島県警「情報漏洩」の真相(3)|隠蔽された警視の公金詐取と改変された「刑事企画課だより」
 
鹿児島県警の未発表不祥事報告、3回目となる本稿では県警が2年ほど前に把握していたとされる幹部警察官の不正請求疑いを採り上げる。
 
■現職警視が超過勤務手当を詐取
筆者に送られてきた告発文とハンターの確認取材によれば、事件の主役は鹿児島中央署に勤務する50歳代の男性警視。同警視は2021年3月に現在の階級に昇任後、きっかり1年おきに鹿児島南署→中央署→西署→中央署と異動を重ねてきていた。22年の中央署所属時、実際の退庁時刻よりも遅い時間に退庁したように装う申告をし、超過勤務手当を不正に取得していたという。

不正が発覚したきっかけは不明だが、現時点で発覚から2年が過ぎており、事実ならば県警ぐるみで幹部の不正請求を隠し続けていることになる。内部では「立派な詐欺罪」と批判する声があり、事件化を見送った県警上層部の判断は悪質な隠蔽行為にあたるとの指摘もある。

さらに、上述した1年おきの異動が事件の隠蔽と無関係ではないとする見方もあり、組織はいわばそのような頻繁な異動をもって当人への制裁としている――、そんな可能性が囁かれているようだ。

本件に関するこれ以上の詳細はわかっていないが、筆者とハンターが情報を把握した時点で「しかるべき制裁」を求める告発の声が伝わっていることをつけ加えておく。

■「刑事企画課だより」
結びに、今回の不正請求の情報とほぼ同時に入ってきた県警の奇妙な動きを報告しておきたい。ハンターは昨年11月、鹿児島県警が職員向けの文書で事件記録の「積極的な廃棄」を指示していた事実を報じた(既報)。文書は昨年10月2日付の『刑事企画課だより NO.20』(*下の画像)で、「適正捜査の更なる推進について」と題した特集で捜査資料などの扱いについて呼びかけたもの。詳しい内容については先行記事に譲るとして、全体として資料の積極的な廃棄などを推奨する不適切な文言が並んでいた。

 
これを紹介したハンター記事の配信直後――具体的には昨年11月21日、県警はなぜか再び「適正捜査の更なる推進について」と題した『刑事企画課だより NO.23』を作成、10月の『NO.20』に見られた不適切な表現を事実上訂正し、あるいは慎重な言い回しに改めていたことが分かる文書が、今回送られてきた郵便物に封入されていた。たとえば、以下のごとし。

・《被害者が秘匿録音していることもありますので、対応等の言動には十分注意してください》→ 全文削除

・《「警察にとって都合の悪い書類だったので送致しなかったのではないか」と疑われかねないため、未送致書類であっても、不要な書類は適宜廃棄する必要があります》→《必要なものは検察庁に確実に送致するほか、その写し等については、犯罪捜査規範施行細則等に基づき、適切に保管管理し、保管管理が不要と判断したものは、関係者のプライバシー保護の観点等からも、確実に廃棄する必要があります》

・《再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!》→《国賠請求や再審請求等が提起された場合には、その対応に必要なものは引き続き廃棄せずに保管管理する必要があります》

ハンターの指摘がなければ、県警はこれらの修正を行わなかったはずだ。一連の対応の適正性は、鹿児島県民を含む読者の評価に任せたい。

最後に重ねて述べておく。筆者に郵送されてきたのは、紛れもなく「内部告発」。公益通報であることを明確にしておきたい。
 
(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。