京大教授が激しく落胆。“売国政治屋”の岸田首相「骨太の方針2024」が日本の“三流国転落”を決定づけた

藤井聡
 
岸田政権が不適切な振る舞いを見せる限りにおいて、徹底的に批判し続けねばならないのです。
 
 
食い止められない国力衰退。岸田首相が行った日本を地獄に突き落とす政治決定
ついに待ちに待った、今年の「骨太の方針」の中身が、この度公表されました。当方がその中でも特に注目していたのは、

【PB規律】2025年度プライマリーバランス黒字化目標
【333億円規律】3カ年で、非社会保障費の増加は1,000億円以下にする
の二つでした。

そもそもこの規律の内、一つでも生き残れば、政府は積極的な財政支出が難しくなってしまうからです。しかもそんな中で少子化対策だ、防衛力増強だ、国土強靱化だと言い出せば、「増税」やら「社会保障費増」をやらざるを得なくなります。何と言っても、プライマリーバランス(要するに政府支出と政府の収入との収支)を黒字化したり、3年間の予算増分を1,000億円以下にしようという厳しい「制約」下で、支出を増やそうとすれば、増税や社会保障費増を行うことが「必須」(マスト)になるからです。
 
つまり、今の岸田総理は誰もが認める「増税メガネ」ですが、彼がそうならざるを得ないのは、「PB規律」なり「333億円規律」なりを生真面目に守っている(というより、財務省による各種の“脅し”に屈する形で守らされている)からなのです。

で、岸田氏が増税メガネを続ける限り、25ヶ月下落し続けている実質賃金が持続的に上昇していったり、四半世紀以上継続している「デフレ状態」(ないしはスタグフレーション状態)から脱却し、日本の衰退が食い止められ、再生されることなど「万が一」にも起こらないのです。

したがって、今回の骨太の方針にPB規律なり333億円規律なりが明記されるか否かは、日本が再生されるか、このまま二流国、三流国へと転落し続けるかを占う上で、極めて重大な意味を持つものだったのです。

だから例えば、自民党の政務調査会の積極財政議連は、この二つの規律の「撤廃」を継続的に主張し続けきたわけですし、当方は、「平成版」と「令和版」の二冊にわたって『プライマリーバランス亡国論』(コチラは、2年前に出版した令和版のプライマリーバランス亡国論です)を出版して参ったのですが…今回の骨太の方針の中身を見て、実にガックリと激しく落胆いたしました…。

当方が懸念していた通り、PB規律も333億円規律も共に、完全なる形で「残存」することになったのです…!
 
最悪の判断で日本の「地獄行き」を確定させた岸田首相
具体的な記述は、以下の二カ所。
 
2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化を目指す
(P36)

予算編成においては、集中的に改革を講ずる2025年度から2027年度までの3年間について、上記の基本的考え方の下、これまでの歳出改革努力を継続(139)する。
(P37)

● 経済財政運営と改革の基本方針 2024(原案)

前者は明確な文章ですが、後者は少々解説が必要かと思います。かなりややこしいのですが、厳密にかくと、次のような話しになっています(ハッキリ言って、以下の話しはややこし過ぎるので、理解しようとされなくても結構です 苦笑)。

まず、「これまでの歳出改革努力を継続(139)」のこの(139)というのは注意書きですが、その中身は「139:『経済財政運営と改革の基本方針2021』(令和3年6月18日閣議決定)に定められた2022年度から2024年度までの3年間の歳出改革努力を継続」となっていて、この「経済財政運営と改革の基本方針2021」には、「2022年度から2024年度までの3年間の歳出改革努力」というのは「2019年度から2021年度までの3年間の基盤強化期間」の取り組みであると記載されていて、そして、これがまた、「経済財政運営と改革の基本方針2018」に「2016年度~2018年度の集中改革期間」の取り組みであると記載されていると同時に、これが「集中改革期間の3年間で一般歳出1.6兆円程度、社会保障関係費1.5兆円程度の増加。同期間の高齢化による増加分は1.5兆円程度」という中身であると記載されているのです。
 
そして、この最後の文章は、要するに、社会保障費の増分は3カ年で1.5兆円以下、非社会保障費の増分は3カ年で1,000億円以下とする、という意味となっているのです!

…ということで、今年の骨太の脚注139に、「2022年度から2024年度までの3年間の歳出改革努力」と記載されたといいうことは、要するに、「非社会保障費の予算の増分を3年間で1,000億円以下にする」という財政規律が嵌められたということがハッキリと示しているのです。

要するに、この文書を作成した内閣府、というか「財務省」は、「3年間で非社会保障費の増分を1,000億円以下にする」という規律を、こうした「超超絶にわかりにい」かたちで記述することを通して、総理をはじめとした政治家、そして国民を欺き、そういう規律など存在していないように見せかけようとしているわけです。

実に姑息な話しですが、このあたりは、財務省の手口を毎年毎年見てきた我々にはもう、バレバレになっているわけです。

が、岸田文雄総理がそれをどこまで理解しているのかは分かりませんが…仮に分かっていなかったとしても、彼はこの「骨太方針」を閣議決定することを通して、来年にPB赤字を無くすために「増税メガネ」方針を継続し続け無ければいけなくなったわけです。そしてそれと同時に、社会保障費以外の予算の増分を年間で333億円以下に収めるために、彼が進める防衛費増強等のために、何らかの予算を「激しく削減」することになることもまた、決定付けられたわけです。

ハッキリ申し上げて、これで日本の「地獄行き」はほぼほぼ確定したわけであり、したがって、岸田フミオ氏は恐るべき最悪の判断を総理として下してしまったと言わざるを得ないのです。
 
申し訳程度に記載された積極財政派を黙らせるための文章
ただし…一応、骨太の方針には、以上の財政規律についての記述の直後に、申し訳程度に次のような文言もまた、記載されています。
 
重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない。機動的なマクロ経済運営を行いつつ潜在成長率の引上げに取り組む。

すなわち、PB規律は年間333億円キャップ規律があるが、そういう規律のため「重要な政策」ができなくなってはいけない、潜在成長率を引き上げるための財政支出は行わなければならない、と一応は書いてあるのです。

しかし…当方が常々主張している

食料・資源・エネルギーの輸入補助金を通した「物価上昇抑制」
消費減税を通した「持続的な実質賃金引き上げ」と「デフレ脱却」
公共投資の拡大を通した「持続的な名目賃金引き上げ」と「デフレ脱却」
十分な当初予算拡充を通した「食糧自給率引き上げ」「エネルギー自給率引き上げ」「国土強靱化」
 
等はいずれも超絶に重要ですが、岸田フミオ氏が「そんなの重要だと僕思わないもん!」と言ってしまえば、全て実施できなくなるわけです。そして、岸田氏はこれまで「増税メガネ」的振る舞いを繰り返してきてはいますが、上に述べたいずれの政策についても本格的実施は一切行っていません。
 
つまり、少なくとも岸田フミオ内閣では「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」という文言は,単なる、積極財政派を黙らせるための「お飾り」の文章として、言い訳程度に記載されているに過ぎないのです。誠にもって遺憾この上ない話しですが、この骨太方針が確定されれば、後はもう、日本を救うには、「重要な選択肢を狭めてはならないと骨太の方針に書かれてるじゃないか!!!」と叫びながら,重要な選択肢の具体的内容を主張し続ける他ありません。

そしてもちろん、岸田氏の「聞く耳」にそれが入って、それら政策が実施されるのならそれで全く構わないのですが、それを彼が全くやらないというのなら、それを実行される方に、総理の座を譲り渡して戴く他、日本が救われる道が無くなってしまいます。

何にしても、岸田さんは、最悪の骨太の方針をまとめてしまったわけですが…なんとか、重要な政策が実施されるべく、国民は岸田氏、そして政府の動きを監視すると共に、彼らが不適切な振る舞いを見せる限りにおいて、徹底的に批判し続けねばならないのです。
 
 

骨太方針では労働市場改革が注目点の一つ:労働生産性向上を通じた持続的な実質賃金の上昇が重要

 
大企業に遅れる中小企業の賃上げ支援
政府が6月下旬に閣議決定をする「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)2024」の原案が明らかになった。

今年の春闘では、予想外に高い賃上げ率が実現したが、骨太の方針2024ではさらなる賃上げを目指す政府の姿勢が示される。骨太の方針での政府の賃上げについての方針は、成長戦略として掲げられている「新しい資本主義実行計画」の改定案と同時並行的に議論が進められている。6月21日には、骨太の方針と新しい資本主義実行計画の改定が、同時に閣議決定される見通しだ。

6月7日に政府が示した新しい資本主義実行計画改定案では、中小企業の賃上げ支援に焦点が当てられた。今年の春闘では、全体として高い賃上げが実現されたものの、大企業と中小企業の格差が依然として目立ったためだ。

そこで今年の改定案には、下請法の運用厳格化が盛り込まれ、中小企業がコストの上昇分を価格に転嫁しやすくし、賃上げの原資を確保しやすい環境を作ることが重視された。

岸田首相は新しい資本主義実現会議で、「来年以降に物価上昇を上回る賃上げを定着させるべく、政府を挙げて取り組みを強化する」と強調した。しかし、企業に賃上げを求めるだけでは、国民生活の向上や経済成長率の向上につながる持続的な実質賃金上昇は実現できない。

持続的な実質賃金の上昇には労働生産性の向上が必要
海外市場での食料・エネルギー価格高騰、円安進行を受けて、2021年以降、輸入物価は大幅に上昇した。日本は歴史的な「輸入インフレ・ショック」に見舞われたのである。

これは、国内物価を大きく押し上げたが、一方で賃金の上昇は遅れたため、実質賃金は大きく低下し、労働者の所得の取り分、つまり労働分配率は大幅に低下してしまった。これが、足下で続く異例な個人消費の弱さの背景だ。

今年の春闘での高い賃上げは、「輸入インフレ・ショック」を受けて企業に偏ってしまった分配を労働者に戻す正常化の第一歩と理解できるだろう。しかし、実質賃金の水準及び労働分配率が「輸入インフレ・ショック」前の水準に戻ってもなお、物価上昇率を上回る高い賃上げを続ければ、今度は、分配が企業から労働者に過度に偏るようになり、実質賃金の上昇が企業収益を圧迫してしまう。その結果、企業は設備投資や雇用を抑制するようになり、経済活動は悪化してしまうだろう。

国民生活の改善と経済成長を支える持続的な実質賃金の上昇を実現するためには、労働生産性の向上は必要であり、そのための努力を企業、労働者ともに実施することが求められる。
 
「三位一体の労働市場改革」に期待
新しい資本主義実行計画の改定案によると、労働生産性を向上させるために、省力化に役立つAIやロボットなど自動化技術の導入を促進し、特に人手不足が深刻な運輸業、宿泊・飲食業を中心に利用を働きかける。

さらに労働生産性の向上を持続的な実質賃金の上昇と成長力強化につなげるためには、労働市場改革が重要だ。この労働市場改革は、骨太方針にも盛り込まれる。

若い労働者やデジタル化で仕事を失う恐れがあるホワイトカラーには、専門知識の習得やリスキリング(学び直し)を政府が支援する。産学が連携して最先端知識を身につける新プログラムを立ち上げ、25年度中に3千人の参加をめざすという。

また従来型の年功序列型の賃金体系である「職能給」から、企業内で職務を明確にして成果重視で処遇する「職務給」、つまり「ジョブ型」の拡大を促す。政府は、先行導入した約20社の取り組みを紹介する事例集をつくり、今夏にも公表するという。

そして、リスキリングで技能を高めた労働者が、それを生かすために他企業、他業種に転職することも政府は支援する。それによって、高成長産業に労働者が移動し、産業構造の高度化と成長率の向上が図られる。労働生産性上昇、実質賃金の上昇につながるリスキリング、ジョブ型の導入、労働市場の流動化は、岸田政権が従来掲げてきた「三位一体の労働市場改革」である。政府は、労働市場改革を進めるため国民会議を開催するという。

「三位一体の労働市場改革」が成果を十分に発揮できれば、労働生産性の向上、実質賃金の上昇が実現され、将来の生活見通しが改善するだろう。それは、少子化対策の一環にもなるのではないか。さらに成長力が強化されれば、財政環境の改善、社会保障制度の持続性、安定性にもプラスとなる。

「新しい資本主義」のいわば総仕上げとして、岸田政権にはこの「三位一体の労働市場改革」に全力で取り組んで欲しい。

(参考資料)
「政府の「骨太の方針」原案が判明 賃上げとリスキリングを後押し」、2024年6月10日、朝日新聞ニュース
「新資本主義 中小賃上げ 柱 政府 実行計画を再改定」、2024年6月8日、静岡新聞
「中小の賃上げ定着へ 政府、「新資本主事実行計画」改定案」、2024年6月11日、日刊工業新聞Newsウェーブ


木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト)