相手が警察であれ医師会であれ、腐敗した権力に立ち向かうのが報道の使命だろう。2年間、それをやり通した結果が、鹿児島県警によるハンターへの家宅捜索であり、被疑者調べだったとしても、私は歩みを止めるわけにはいかない。
 

 

 「県民の信頼を取り戻す」「抜本的な対策を進める」――警察官による違法行為が明るみに出るたび繰り返されている鹿児島県警のこうしたコメントが、実現することは絶対にない。県警が、表面化した事件の背景や真相を隠し続けているからだ。それだけではなく、まだ隠蔽されたままになっている事件さえ複数ある。本稿は、報道の自由を否定した鹿児島県警に対する抗議であり、この問題の「原点」(強制性交事件)が何かを問い直す、ハンターからの最後通告である。

 

■「情報漏洩」で県警の思惑に乗る地元メディア
 昨年来、鹿児島県警の警察官による不祥事発覚が相次いだ。公表された主なものを列挙する。

・未成年者に対する淫行があったとする強制性交事件(2023年10月)

・20代女性へのつきまとい行為によるストーカー規制法違反事件(同月)

・地方公務員法違反(守秘義務違反)事件(今年3月)

・不同意わいせつ事件(今年4月)

・性的姿態撮影処罰法違反(盗撮)事件(今年5月)

・国家公務員法違反(守秘義務違反)事件(今年5月)

 はじめに、2件の守秘義務違反に関する事案については、公務員法に触れるものではなく、「公益通報」あるいは「内部通報」であるということをハッキリさせておきたい。さらに、2件の守秘義務違反事案の発端となったのが、鹿児島県医師会の元男性職員が訴えられた強制性交事件における不当捜査であることも明確にしておかなければならない。原点を知らずして、公益通報の経緯を語ることはできないということだ。

 その上で述べる。2件の公益通報は、いずれも県警内部の不正・腐敗を正すための告発であり、その発端となったのが県医師会の元職員による強制性交事件だ。わいせつ事案と公益通報を同列に扱い、「警察官の犯罪」「とんでもない警察官」などと批判する地元メディアの報道を見てきたが、底の浅さに呆れるばかりである。残念なことに、守秘義務違反事案の動機に疑問を持ち、事案の経緯を丹念に迫った調査報道を、筆者は寡聞にして知らない。

 公益通報の背景にあるのは、鹿児島県警という組織の悪しき体質だ。これまでの地元メディアの報道は、それを隠したい県警の思惑に乗る形になっている。報道の使命は、権力の監視であると同時に、歪んだ力によって隠された真実を暴くことではないのだろうか。警察や医師会といった権力側の発表を何の疑いもなく記事にすることで、本当に裁かれなければならない人物が笑い、悪質な犯罪が闇に葬られることを、鹿児島メディアは自覚すべきだ。

■公益通報の発端は強制性交事件
 ハンターは、2022年3月に強制性交事件の第一報となる『コロナ療養施設で職員が性行為|鹿児島県医師会に問われる規範意識(1)』を配信。その後、県医師会の人権を無視した被害女性への仕打ちに加え、告訴事案となった本件の捜査を担当した鹿児島県警中央警察署が“もみけし”を図ったり(参照記事→『鹿児島県警が性被害を訴えた女性を門前払い|医師会・わいせつ行為者の父は元警官』)、不当な捜査指揮が行われたことなどを報じてきた。

 

 その過程で入手したのが、強制性交事件で不当な捜査指揮があったことを裏付ける「告訴・告発事件処理簿一覧表」であったことは、一連の配信記事で明らかにしてきたとおりだ(参考記事⇒『鹿児島県警、腐敗の証明|背景に「警察一家」擁護と特定団体との癒着』)。従って、本サイトが入手した処理簿は「公益通報」によるものだったと確信している。

 入手した処理簿によって明らかになったのは、中央署長から県警刑事部長に出世していた井上昌一氏によるものとみられる不当な捜査指揮の実態。流出の原因を知られたくなかった県警は当初、処理簿に記された一部の民間人にのみ情報が漏れたことを謝罪し、幕引きを図る構えだった。形を変えた隠蔽だ。しかし、強制性交事件の真相を埋もらせるわけにはいかない。意を決した筆者は、2024年2月21日に鹿児島県警本部を訪問した。

 この時の県警の対応は異常としか言いようがなく、処理簿一覧表を確認させた上で公表・謝罪を条件に保有していた一覧表を渡そうとしたが、県警側は拒否。処理簿に触れようともしなかった。他の都道府県の警察本部なら、正式な受け取りは避けても、その場で処理簿のコピーだけはとっていたはずだ。それさえできなかったのは、処理簿一覧表を受け取って公表した時点で事が大きくなり、蒸し返されたくない「強制性交事件」に再度光が当たることになると考えたからだろう。

 そもそも鹿児島県警は、強制性交事件に関する本サイトの数回のアプローチに、一度も向き合おうとせず、徹底的に黙殺することで組織防衛を図ってきた。改めて、これまでの県警とのやり取りを振り返っておきたい。

【2023年1月10日】
 性被害を訴えて助けを求めた女性を門前払いにしたことや、女性の言い分を聞く前に「刑事事件にはならない」などと結論付けたのは事実かどうかを確認するため、鹿児島中央署に出向き取材申し入れ。中央署側は、「こちらでは対応できない」として取材拒否。やむなく受付に署長宛ての質問書(*下の画像)を預けたところ、同署は「受け取れない」(同署警務課)として、翌日に配達証明付きでハンターの記者に返送してきた。

 

【2023年6月5日】
 強制性交事件で被疑者となった鹿児島県医師会男性職員の父親で、鹿児島中央署に勤務していた元警部補が息子の事件に不当介入したこと、さらには県警がこうした事実を知りながら組織ぐるみで事件送致を遅らせた形になっていることについて申し立てるため監察官への面会を求めたが、「総務部総務課」の警部と警部補が対応。監察官は対応せず、その後の連絡もなかった。

 こうして沈黙を決め込んでいた県警は今年3月、処理簿の相次ぐ流出を重くみた警察庁や国家公安員会から厳しい指摘を受け、50人体制で調査することを表明。ようやく情報漏洩の事実を認めて公式に謝罪したが、発端が強制性交事件の不当捜査にあることには一切言及していない。都合の悪いことを隠すため、「情報漏洩」だけに焦点を当てさせようとする思惑が透けて見える展開だ。以後、地元メディアは何の疑いももたず、その誘導に乗って県警発表をたれ流した。「官」を妄信するのは、この国のメディアを蝕む病である。

■報道弾圧 — ハンターへの家宅捜索
 4月8日朝、突然ハンターの事務所に来た鹿児島県警の捜査員が、地公法違反の関係先だとして令状を振りかざしながら家宅捜索。翌日、いったん押収して持ち去ったハンター所有のパソコンに残されていた処理簿などのデータを、返却時に削除するという暴挙に及んだ。

 さらに県警は同月18日、筆者に対して被疑者告知。21日と23日、情報漏洩に関わった疑いがあるとして筆者を取り調べた。筆者は、報道に携わる者としては当然の「情報源及び取材過程の秘匿」を貫いたが、強制性交事件のもみ消しを図ったとみられる県警と鹿児島県医師会の闇を追及してきたハンターに対する、あからさまな報道弾圧だった。本サイトが強制捜査をうける謂れはなく、怒りを込めて抗議しておきたい。

 前述の通り、ハンターはこれまで、県警幹部による不当な捜査指揮を厳しく批判する一方、県警本部を訪問して流出資料の提供という形での協力を申し出たほか、3月になって県警側が求めてきた面会要請にも応じる約束をしていた。

 これに対し県警は、同県警本部を訪れた本サイト記者の申し出を拒否。さらに自分たちの方から頼んできた面会要請も、約束前日の夕方になって一方的にキャンセルするという不誠実な姿勢だった。

 あろうことか県警は、強制性交事件の真相を歪めた県医師会と県警を追及してきたハンターへの強制捜査着手と同時に、同事件で被害を訴えてきた女性の雇用主にまで捜査の手をのばした。“これ以上騒ぐな!医師会と県警に逆らうな!”という、腐敗権力側の脅し――。ハンターは県警と医師会の癒着を疑ってきたが、間違いではないと考えている。(以下、次稿)

ニュースサイト「ハンター」 中願寺純則

 

 

鹿児島県警の報道弾圧に抗議する(下)|2件の公益通報と強制性交事件

 
 
 鹿児島県警の警察官による「公益通報」が、2件立て続けに表面化した。1件目は井上昌一前刑事部長の不当な捜査指揮の証拠となる「告訴・告発事件処理簿一覧表」、2件目は野川県警本部長による警察官の犯罪行為隠蔽を告発する内容だった。一連の公益通報が行われるきっかけとなったのは、2021年9月に起きた鹿児島県医師会の男性職員(22年10月に退職)による強制性交が疑われた事件。この事件における不当捜査の実態を、ハンターに家宅捜索までして隠そうとしてきた鹿児島県警に、問題の「原点」が何かを問い直す。
 
■「闇をあばいてください。」
 4月8日の家宅捜索の際、ハンターの業務用パソコンにあったのが、本サイトに寄稿している北海道のジャーナリスト・小笠原淳氏に郵送されていた差出人不明の郵便物の画像だった。郵便物の内容は現職の警察官が犯した3件の違法行為が隠蔽されていることを示すもので、「闇をあばいてください。」とあった。ただ、県警は処理簿のデータにこだわりを見せただけで、3件の告発については訊ねようともしなかった。記事化が先行することを恐れ、意図的にそうしたということだ。
 
 
 3件の告発事案の“裏付け”がいずれも取れない状態だったが、ハンターへの家宅捜索の際に偶然内部通報の内容を知った県警は、5月30日に告発文に記載されていたうちの1件を立件。それが、現職警官による盗撮事件だった。この件についても県警は、立件はしたものの「捜査車両」を使っていたことなど、不都合な事実は隠して公表している。他の2件――現職警官によるストーカー事件と公金詐取については、6月6日から8日にかけて配信した小笠原氏の3本の記事に詳述しており、ぜひご一読願いたい。
 
 5月31日、県警はこの件に絡んで情報漏洩を行った疑いがあるとして、県警の前生活安全部長を国家公務員法違反で逮捕。6月2日に送検した。逮捕容疑となったのは、小笠原淳氏に、捜査情報を記した文書を封入した郵便物を送ったことだった。しかし、鹿児島簡易裁判所で開かれた勾留理由開示手続きでは、逮捕された前生活安全部長が、県警本部長による2件の事件隠蔽があったことを知らせるための「内部通報」――つまり公益通報だったことを暴露。県警トップによる事件の隠蔽が疑われるという異例の展開となっている。

 当初、送られてきた告発文について小笠原氏と検討したが、事件隠蔽を指示したのが刑事部長だという指摘には疑問を持っていた。隠蔽指示が出されたという盗撮事件も、立件されなかったというストーカー事件も、生活安全部マター。「本部長指揮」になっているのなら、刑事部が口を出す話ではない。刑事部長は、「静観しろ」(文書の記述)と指示する立場にない。「静観しろ」と言えるのは、生活安全部長か本部長の二人。そうなると捜査全体を止める権限を持つのは本部長だけだ。強制性交事件の不当捜査を追及してきたハンターがターゲットにしてきたのが前刑事部長だったことから、あえて前刑事部長に取材をかけさせ、本部長指揮の実態を聞き出させようと考えたとすれば、告発の記述にも合点がいく。ただ、いずれの事案も裏取りが困難。どうしたものかと迷っていた状況を一変させたのが、盗撮犯と元生安部長の逮捕だった。こうして県警自らが“裏取り”してくれた形になったことが、6月6日から8日にかけての配信記事につながっている。

■「公益通報」
 公益通報の壁は厚い。しかし、「情報漏洩」という単なる犯罪として片付けられようとしている2件の事件で問題になった文書が、本サイトでこれまで配信してきた記事の裏付けとなったのは事実。いずれの文書も県警幹部による不当捜査、犯罪の隠蔽を裏付ける貴重な証拠だった。それらの文書がなければ、県警の闇に光をあてることはできなかったはずだ。いずれも「公益通報」であると確信している。2件の公益通報の1件目は、告訴・告発事件処理簿一覧表(*下の画像)の提供によって、次が「闇をあばいてください。」で始まる告発文によってなされた県警の不当な捜査指揮に対する抵抗だったとみることもできる。

 
 重ねて述べるが、一連の事案の発端となったのは、新型コロナ療養施設内において起きた県医師会の元職員による強制性交事件だ。この件を追い続ける過程で、告訴・告発事件処理簿一覧表が不当捜査の証拠として登場し、配信記事を読んでいた元生活安全部長が本サイトと北海道のジャーナリストに信頼を寄せ、内部通報に及んだものと考える。

 鹿児島県警によるハンターへの強制捜査は報道弾圧である。本稿をもって正式な抗議とするが、筆者がそれ以上に声を大にして訴えたいのは、強制性交事件の事実上のもみ消しがいかに不当なものであるかということ。たしかに報道弾圧は大問題だが、筆者はガサ入れを受けようが逮捕されようが、一向にかまわない。一人でも多くのジャーナリストや政治家が、卑劣な人間たちに踏みにじられてきた女性に救いの手を差し伸べてくれることをお願いしたい。筆者も小笠原氏も、そのために戦ってきたのだから。

■強制性交事件の経緯
 最後に、問題の強制性交事件について経緯を振り返っておきたい。
 
 
 すべては、鹿児島県警中央警察署が性被害の訴えを門前払いにしたことから始まった。それに続く不当捜査。次いで、県医師会の池田琢哉会長が、強制性交を否定するためわざわざ会見まで開いて喧伝した「合意に基づく性行為」という主張――。医師会は男性職員を庇うことで池田体制を維持することを企図し、県警は男性職員の父親が警察官だったことから「警察一家」の体面を保つため事件のもみ消し、さらには不当捜査に走った。そうした経緯は、今回明るみに出た前生活安全部長によるものとされる郵便物に記されていた3件の警察職員による事件隠蔽の構図に重なる。

 相手が警察であれ医師会であれ、腐敗した権力に立ち向かうのが報道の使命だろう。2年間、それをやり通した結果が、鹿児島県警によるハンターへの家宅捜索であり、被疑者調べだったとしても、私は歩みを止めるわけにはいかない。

ニュースサイト「ハンター」中願寺純則