「蓮舫いじり」あふれ出す東京都知事選…アンチの“罵詈雑言”にみる、辟易するほど劣化しきった日本政治の現在地

失笑ものの「#蓮舫パニックおじさん」、そろそろ価値観をアップデートしては?
 
 
 東京都知事選への立候補を表明している蓮舫氏に対し、怒涛のような攻撃が向けられている。「蓮舫いじり」が沸きに沸く状況で、SNS上では「#蓮舫パニックおじさん」というハッシュタグまで登場した。告示を目前にあふれる蓮舫批判に対し、元毎日新聞編集委員でジャーナリストの尾中香尚里氏は「日本政治の劣化が見て取れる」という。蓮舫氏に向けられている3つの攻撃をもとに、尾中氏が解説する。(JBpress)

(尾中 香尚里:ジャーナリスト、元毎日新聞編集委員)

蓮舫氏への“罵詈雑言”から見えるもの
「七夕決戦」となる東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)は、まれに見る「与野党ガチンコ勝負」の構図となった。

 3選を目指す現職の小池百合子知事を自民、公明両党が支援し、新人の蓮舫参院議員を、出身母体の立憲民主党、共産党、社民党が、それぞれ支援する。ここまで明確な「与野党ガチンコ対決」の様相を呈する都知事選は、過去にほとんど例がない。

 知名度を誇る現職が圧倒的に有利とされる都知事選。ほとんどの選挙が事実上現職の信任投票と化し、選挙が「死んでいた」と言ってもいい。この状況を打破して選挙を「生き返らせる」のは第一義的には野党第1党の務めだが、過去の野党は力不足もあり、こうした構図を作れずにいた。
 
 だから今回、大きなリスクを取って、ともかくも都知事選を「生き返らせる」ことに成功した蓮舫氏と立憲民主党には、素直に敬意を表したい。

 しかし、蓮舫氏が出馬表明した途端、ネットなどで湯水のごとくあふれ出した蓮舫氏への誹謗中傷にはあ然とした。蓮舫氏はファンもアンチも多い政治家だが、それにしても特定候補に対する過剰なまでの攻撃には辟易している。

 ただ、蓮舫氏に向けられた罵詈雑言には、むしろ「日本政治の現在地」を考えるヒントもあるように思う。価値観をアップデートできずに劣化する日本政治の現状が、これらの罵詈雑言によって可視化されているように思えるのだ。
 
 
橋下徹氏が投稿「無所属出馬批判」の的外れ
 代表的なものを三つ挙げる。

 まず、蓮舫氏が立憲を離党し、無所属で出馬することへの批判だ。

 蓮舫氏が出馬を表明した5月27日、元大阪市長の橋下氏は自らのX(旧ツイッター)で「立憲民主の看板に自信がないのか無所属で出馬」「安易に無所属に逃げるべきではない」などと投稿。ここからネット上には、同種の「蓮舫批判」が次々とあふれ出した。

 言うまでもないが、国政は議院内閣制で政府・与党と野党が対峙するのに対し、地方政治は二元代表制で首長と議会が対峙する。強い権限を持ち、多様な意見を持つ議会に1人で対峙する首長は、候補者が幅広い民意を代表するため、選挙の際に所属政党を離れ無所属になることは、むしろ当然だった。


 今回の蓮舫氏のケースだけ批判の対象になるのはおかしい。

 蓮舫氏の挑戦を受ける小池百合子知事も、過去2回の自身の選挙は無所属で戦った。初挑戦した2016年の都知事選は、無所属で立候補しながら自民党を離党していなかった。あれだけ都議会自民党を「伏魔殿」と罵っていた小池氏が自民党を離党していなかったことの方がよほど驚きだが、そんなことには全く目が向かない。

 見事なダブルスタンダードである。
 
2016年、初めて都知事選に挑んだ小池百合子氏。このときはまだ自民党を離党していなかった
 
産経新聞「ボーナス惜しさの自動失職」
 次に、蓮舫氏が参院議員を辞職せず、都知事選告示の20日に「自動失職」することへの批判である。

 蓮舫氏が5月31日までに辞職すれば、参院議員のボーナス支給が満額の約8割にとどまるため、ネット上で「蓮舫氏はボーナス惜しさに辞職を引き延ばすのか?」との声が上がり、産経新聞がこれを拾って記事化したのだ。その書き方が振るっている。

「蓮舫氏の議員辞職は都知事選出馬に伴うため事情が異なるものの、不祥事で辞める政治家に対するボーナス支給を問題視してきた背景がある」

 書いた側が「こんなの書いても意味がない」と白状しているような記事だ。

 国会でも論客で知られた蓮舫氏が、自身の選挙準備より国民の負託を受けた参院議員としての職責を全うすることを優先したことを、「政治とカネ」の不祥事にまみれ、国会から逃げて議員の職責を果たさなかったにもかかわらず、ボーナスだけは満額支給された過去の自民党議員と一緒にする意味が、筆者には全く分からない。
 
誹謗中傷から垣間見える「チェック機能」の軽視
 最後に、今なおくすぶる「二重国籍」問題である。もはや言葉を尽くす気も起きないが、これは蓮舫氏の民進党代表時代に散々言い立てられ、蓮舫氏が戸籍謄本の一部を公開してまで対応し、解決したのは周知の事実だ。

 そこから7年近くがたっているのに、蒸し返す神経が理解できない。蓮舫氏が現職の参院議員であることからも、何の問題もないのは明らかだ。

 以上、これらの誹謗中傷は本来、いずれも完全無視で構わない内容なのだが、筆者があえてこれらに着目するのは、いつまでもこんな意味のない誹謗中傷にすがる、この国の政治のありようが、ここから垣間見えるからである。
 
東京都知事選の構図。社民党も蓮舫氏支援を決めた(似顔・本間康司)(図表:共同通信社)
 
 第一の「無所属出馬批判」だが、逆に政党公認の首長がいるのはどこかと言えば、代表的なのが地域政党「大阪維新の会」公認の首長が続いている大阪府や大阪市だ。
 
 これらの自治体では維新公認首長のもと、議員の存在が「無駄」だと言わんばかりに、議会の大幅な定数削減が進められた。その結果として、議会が首長の政策をチェックする二元代表制の機能が大きく損なわれている。

 こうした政治を「行政がトップダウンでスピード感を持ち政策を進める政治」ともてはやす風潮が、平成の時代には国政、地方政治を問わず日本を覆っていた。首相や首長のリーダーシップばかりが求められ、チェック機能や監視機能という存在は「抵抗勢力」として疎んじられた。

 蓮舫氏への誹謗中傷は、あるいは単に「立憲の看板には魅力がない」と当てこする程度のものだったかもしれないが、背景には、世間にはこのような「効率優先の政治」を良しとする空気があり、蓮舫氏を叩いても一定の理解を得られる――というもくろみがあったのではないか。
 
 
「蓮舫いじり」は日本政治を腐らせている元凶だ
 第二の「ボーナス受給批判」にも似たような「におい」を感じる。

 自民党の小泉政権や菅義偉政権、日本維新の会の政治に特に顕著な「身を切る改革」の政治は、平成の時代の日本を席巻した。国会議員に渡されるささやかな公費をすべからく「悪」とみなし、片っ端から「身を切る」ことが、あたかも「正しい政治」であるかのように喧伝された。

 若手など資金力のない政治家が、日常の政治活動にかかる普通のお金にも四苦八苦するのを横目に、私たちはごく最近まで、自民党政治家による巨額の裏金づくりを、平気で見過ごしてきた。

 そして第三の二重国籍問題である。
 
 こんなことを今の時代に決して言いたくはないが、結局は女性やミックスルーツの方々といった、社会的に弱い立場の人間をそのままの立場にとどめておきたい、つまり「社会の片隅で申し訳なさそうに生きていてほしい」という「マッチョな男たち」の身勝手な願望が、結局はいつまでもこの問題をおもちゃにしていたい、という欲求につながっているのではないか。

 これらはすべて、社会の価値観の変化に追いつけず、むしろ変化を押しとどめようとして日本の政治を腐らせている元凶だと考える。

 独裁的で権威主義的な政治が確かな政策遂行につながらないことは、大阪万博が証明している。公的なものを切り捨てる政治は、コロナ禍などの非常事態にもろさを露呈した。多様性を認めない価値観に社会がNOを突きつけ、企業などが即座に対応を迫られることは、政治以外のジャンルでは日常茶飯事だ。

 そういう時代に政治がついて行けていない。

 今回の「蓮舫いじり」には、ネット上で「#蓮舫パニックおじさん」などというハッシュタグがつき、失笑を買っている。

 あのような誹謗中傷と、それを許してきた政治は、もはや時代に完全に置いて行かれていることを、そろそろ認識すべきではないのか。
 
 

都知事選は国政の代理ではない!真っ先に争点にすべき「1400万都市・東京」が抱える大問題

 
最大のテーマは「反自民」ではなく「東京一極集中」だ
「自民党政治の延命に手を貸す小池都政をリセットする先頭に立つ」──。6月27日の立候補表明で蓮舫参院議員が「反自民・非小池都政」の姿勢を表明した。多くのメディアがさっそくこのフレーズに飛びついた。

 しかし、それは第一義的なテーマではないはず。東京都知事選は国政の代理選挙ではない。首都東京のあり方、東京都民の暮らしの課題に真正面から取り組み、最善のビジョン、解決策を政策で追い求め有権者に提示することにあるはずだ。
 
出馬の意向を明確にせず沈黙を守っている小池百合子知事(写真:ZUMA Press/アフロ)
 
 1400万人が暮らす首都に立ちはだかる最大の課題は、何といっても「東京一極集中」の問題だろう。国の地方創生政策とリンクするテーマだが、東京都としてなさねばならないことも多々ある。決して国だけの政策ではないのである。
 
 東京一極集中がもたらしている弊害、今後危惧されるリスクをチェックすれば、おのずと都が取り組むべきテーマが見えてくる。東京都の人口は1417万275人。もはやニュースにもならないが過去最多である。日本の人口1億2393万人の11.4%が集中している(いずれも5月1日時点の数字)。

 その結果、何が起きているのか。都民の生活に密着したテーマでいえば、地価高騰に伴う住宅価格の異常なまでの急騰だ。

 不動産経済研究所のデータによると、2023年度(2023年4月~2024年3月)の東京23区の新築マンションの平均価格は1億464万円まで高騰した。埼玉県4890万円、千葉県5067万円の2倍以上である。もはや普通のサラリーマン世帯には手が届かない存在だ。その結果、新築のタワーマンションを購入しているのは、投資目的の国内外の富裕層や2人の年収が1500万円以上のパワーカップルなどと言われている。

 中古物件も高騰しているから、年収1000万円以下の子育て世代は、千葉や埼玉といった近県に住み家を求めるしかなくなっているのが現状だ。

 東京のマンション価格高騰の背景には、資材価格や人件費アップに加えて、円安や株高による投資マネーの流入が大きいとみられている。東京の超高級マンションは、海外富裕層による日本の不動産買いあさりの象徴といっていい。

 ここに何らかの対策を打つことはできないだろうか。東京都独自の条例で外国人による購入枠を規制することぐらいはできそうなものだ。「国がやらないから東京が…」は、ディーゼル排出ガス規制や子育て支援金など歴代都知事の十八番ではなかったか。
 
 
リモートワークが減れば“通勤地獄”がまた復活か
 “通勤地獄”も一極集中の弊害である。

 国土交通省の「三大都市圏の平均混雑率(令和4年度)」を見ると、東京圏の混雑率は123%で前年度の108%を大きく上回った。大阪圏は109%、名古屋圏は118%。東京圏(主要区間)のワースト3は次の通りだ。

① JR京浜東北線(川口→赤羽)142%
② JR中央線(中野→新宿)139% 
③ 東京地下鉄(千代田線/町屋→西日暮里)139%
④ 東京地下鉄(東西線/木場→門前仲町)138%

 コロナ前に比べリモートワークが増えたこともあり、多少の改善は見られるが、それでも痛勤ラッシュの解消には程遠い。2016年の都知事選で「7つのゼロを目指します」と選挙公報に公約を掲げた小池候補(当時)。そのうちの一つが「満員電車ゼロ」だった。

 だが、知事主導の下での成果はゼロに近く、コロナ禍が混雑率を引き下げたのだから皮肉なものだ。リモートワークから出社の動きが増えてきている中、通勤地獄が再燃しかねない。中央線などはホームドアの設置も未整備で、人身事故による遅れが日常茶飯事。通勤電車を巡る環境は抜本的な対策が望まれるところだ。
 
 
「死者6000人、帰宅困難者453万人」首都直下地震への備えは大丈夫か
 東京一極集中の最大のリスクは大規模災害が発生したときの甚大な被害だ。

 都は2022年に首都直下地震の東京都の新たな被害想定をまとめた。都心南部直下地震(M7.3)が発生した場合には、建物被害19万4431棟、死者6148人、避難者299万人、帰宅困難者453万人を想定している。

 内閣府の被害想定では首都圏の死者は最大2万3000人、経済被害は約95兆円に達するとしている。

 被害想定策定時よりも人口が増え、2024年以降に完成する超高層マンションが東京23区内で130棟にも及ぶ(不動産経済研究所調べ)という状況の中で、いかに被害を減らしていくことができるのか。減災に向けた取り組みの具体策を知事選候補は示すべきだ。

少子高齢化対策に「マッチングアプリ開発」の笑止千万
 少子高齢化問題も避けて通れないテーマだ。

 東京都の人口に関するデータから、出生数と高齢化に関するものをピックアップした。

① 出生数8万6347人(2023年)→8年連続減少
② 合計特殊出生率*注1.04(2023年/全国1.20)→7年連続低下
③ 高齢者人口311万4000人(2023年9月)→前年比1000人増、高齢化率23.5%
④ 75歳以上176万1000人(同)→過去最高
*注:15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの。「コーホート合計特殊出生率」と「期間合計特殊出生率」の二通りがあり、一般にどちらも「一人の女性が一生の間に産む子供の数」と解釈される。

 一刻も早く実効性のある対策を講じないと東京の明日はない。それなのに東京都がいま少子化対策の一環として進めているのが、マッチングアプリの開発というから仰天した。

「AIマッチングシステム」という取り組みで、〈TOKYOふたりSTORY〉なんてキャッチコピーが付いている。結婚を希望する18歳以上の都内在住・在勤・在学の独身者を対象に、本人確認書類、独身証明書、年収確認書類などを提出して登録。AIによる紹介で相手と会ったり、お見合いができるようになるというもので、令和6年度の早い時期の本格稼働を目指しているという。

 ちょっと違うんじゃないか。東京都の人口移動報告を見ると、20代は8万2000人以上の転入超過となっている。男女共に若者が全国から集まっているのだ。それでも結婚や出産に結びついていかないのは、最大の問題が「出会い」ではなく、生活環境、雇用環境、収入といった社会的な条件にあるからだ。

 そこの対策に手を付けないで年間3億円もの予算をアプリ開発につぎ込んだところで効果はしれている。高校授業料の実質無償化や第2子の保育料無償化など子育て支援に向けた多少の前進は見られるが、抜本的な少子化対策には程遠い。知事選候補者の公約からどんなアイデアが出てくるだろうか。

 
「明日の東京をどうするのか」求められる候補者の明確なビジョン
 高齢化の進捗も深刻なテーマだ。

 2025年には全ての団塊世代が75歳以上の後期高齢者に突入する。医療費をはじめとする社会保障コストはどんどん膨れ上がり、一方で後継者難などから中小企業などの休廃業が相次ぐ。独居老人の孤独死、買い物困難、犯罪被害などますます厳しい状況が続く。

 ちょっと検証しただけでも1400万都市・東京が抱える課題は山積している。それだけに都知事選挙の持つ意味は極めて大きなものがある。明日の東京をどうするのか。それぞれの候補者が明確なビジョンを掲げた上で選挙戦を展開していくのが本来の姿である。メディアも個人的なスキャンダルばかりを追うのではなく、まともな政策論争になるような報道に努めるべきだろう。

 最後に、有権者の意識も問われている。都知事選の投票率は昭和46年の72.36%が最高で、近年は50%台。都内の有権者がどれだけ投票所に足を運ぶか。一票の重みを大切にして欲しいものである。
 
 首都東京の明日を大きく変えるかもしれない都知事選では、都民の民度も問われていることを忘れてはならない。
 
【山田 稔(やまだ・みのる)】
ジャーナリスト。1960年長野県生まれ。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。主に経済、社会、地方関連記事を執筆している。著書は『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』『分煙社会のススメ。』など。最新刊に『60歳からの山と温泉』がある。東洋経済オンラインアワード2021ソーシャルインパクト賞受賞。