押収されたパソコンからデータを消去されたなどとして、「このような手法で取材活動を冒すことは許されない」暴挙だ!

 

これはありえない。報道の自由の侵害です。そもそも警察が民間のデータを勝手に消すなんて犯罪行為そのものでしょう。よほど隠したいデータがあったのでしょうね。

 

 

 

鹿児島県警の巡査長が、刑事事件の内部文書などを第三者に漏らした罪で起訴された事件で、関係先として捜索を受けたネットメディアの代表が、県警に苦情を申し入れる文書を13日に送りました。

拒んだにもかかわらず、押収されたパソコンからデータを消去されたなどとして、「このような手法で取材活動を冒すことは許されない」としています。

申し入れを行ったのは、ネットメディアを運営する中願寺純則代表で、代理人の弁護士によりますと、鹿児島県警の巡査長が刑事事件の内部文書などを第三者に漏らした罪で起訴された事件の関係先として、ことし4月に警察から自宅の捜索を受けたということです。

県警に送られた「苦情申し出書」によりますと、この捜索で押収されたパソコンが返還された際、パソコンに保存していた「刑事企画課だより」という鹿児島県警の文書データを捜査員が消去したとしています。

 

 

中願寺代表が拒んだにもかかわらず、捜査員はデータを消去し「内部文書ですから」と述べたということで、「捜査機関がデータを消去する法的根拠は一切ない」として、「取材情報を隠滅する行為で、このような手法で取材活動を冒すことなど決して許されてはならない」としています。

このほか「申し出書」では、捜索の際に令状が示されなかったとして、「手続的違法の評価を免れない」などとしています。

鹿児島県警察本部は「苦情の有無や内容に関しては、個人情報保護の観点から基本的に答えられないが、警察官の不適切な対応などに対する苦情が来た場合には、主管する部署と連携して適切に対処している」とコメントしています。

 

 

「本部長の犯罪隠蔽」告発で揺れる鹿児島県警の愚挙 批判メディアへの強制捜査、心臓疾患を無視した取り調べ

 
 
 警察内部の情報を漏らしたとして逮捕された鹿児島県警の元警視正が「犯罪行為を県警本部長が隠蔽しようとした」と告発して騒然となっているが、この事件ではもう一つ大きな問題がある。内部情報が漏れた先と疑って、警察批判記事を発信していたメディアを県警が家宅捜索したことだ。メディアを強制捜査して情報源を探るとは、この国の警察はどうなってしまったのか。
 
 福岡県を本拠にするネットメディア「ハンター」は2022年から、鹿児島県内で発生した強制性交事件を報じ始めた。県内の女性が21年9月に、鹿児島県医師会の元職員から性的な暴行を受けたという事件だった。

 ハンターの記事によると、元職員は「謝罪文」を被害女性に送り、当初は事件を認めていた。だが、県医師会が「同意の上での性交だった」などと主張したため、ハンターは県医師会への批判を発信。警察が被害女性からの告訴状の受理をいったん拒んだことや、管轄が違う鹿児島中央署が告訴状を受理し、医師会元職員の父親がその鹿児島中央署の警察官であることがわかってくると、ハンターの追及の矛先は、県警の捜査に向かい、
「強制性交が疑われる事件の実相が、現職の幹部警察官と身内を庇う警察の悪しき体質によって捻じ曲げられている」
 などと批判を続けた。

 その中で、23年10月、ハンターは県警の内部文書である「告訴・告発事件処理簿一覧表」の一部を黒塗りにしてニュースサイトに掲載し、不当捜査の証拠であると主張を展開した。

 県警はこのハンターの記事を見て、掲載された「一覧表」は県警が作成したものだと気づき、個人情報が漏洩したとして個人情報保護委員会に報告した。同時に、情報を漏らした「犯人捜し」を始めた。

■ハンター代表から「家宅捜索が入った」と電話

 今年3月12日、ハンター代表の中願寺純則氏(64)から、筆者のもとに電話があった。

「鹿児島県警が騒がしい。私の身が危ないかもしれない」
 中願寺氏の声は切迫していた。
 
「私は『告訴・告発事件処理簿一覧表』を手に入れてハンターで記事にしている。鹿児島県警はそれを警察官にカネを払って情報を出させたと疑っているが、1円のカネも使っていない。悲しみにくれている被害女性スタッフや病院関係者がおり、腐敗している県警の中の数少ない正義ある警察官の内部告発もあり、頑張って書いている。県警は『一覧表はこちらのものだから返せ』という話だが、メディアとして情報源を明かすわけにはいかない」

 4月8日、また中願寺氏から電話があり、
「家宅捜索が入った」
 と言って、すぐに切れた。この日、福岡市内の中願寺氏の自宅兼「ハンター」事務所に県警が家宅捜索を強行した。

 同日、県警は曽於署の藤井光樹巡査長(49)を地方公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで逮捕した。23年6月と今年3月に、「告訴・告発事件処理簿一覧表」などの内部情報を第三者に漏らした容疑だった。ハンターの中願寺氏宅に家宅捜索が入ったのは、その直後のこと。藤井巡査長の情報漏洩先として強制捜査を受けたのだった。

 私はハンターなどのメディアで警察の不正を追及してきた札幌市在住のジャーナリスト、小笠原淳氏と連絡をとりあった。中願寺氏が逮捕される可能性がある、と意見は一致した。

■携帯電話、パソコンが押収された

 私には苦い経験がある。
 2002年年4月、当時、大阪高検公安部長だった三井環氏が突然、身内の大阪地検特捜部に逮捕された。マンションを購入するときに居住実態がないのに住民票を移し、税金の軽減措置を受けるため役所から申請書類をもらったことが詐欺などにあたるという異例のものだった。それまで三井氏による検察の裏金問題の匿名告発を、週刊朝日などが何度も記事にしていた。逮捕された日には三井氏が実名で記者会見を行い、その場で検察バッジを外して辞める計画を極秘で進めていた。だが、特捜部の「口封じ逮捕」で計画はすべてダメになってしまった。
 現職警官の藤井巡査長も逮捕され、捜査権力を敵にまわすと中願寺氏も同じ命運をたどるのかと、正直思った。
 
 家宅捜索の日の夜7時過ぎ、登録されていない電話番号から私の携帯電話に着信があった。中願寺氏からだった。

「ガサ(家宅捜索)だけで、逮捕されませんでした」

 それを聞いた瞬間、ほっとした。しかし、中願寺氏の声は怒りに満ちていた。

「携帯電話やパソコンがとられてしまい、仕事ができない。なんとかパソコン1台とふだんは使用していないこの携帯電話だけは守った。鹿児島県警は『告訴・告発事件処理簿一覧表を返却せよ』としつこく言うが、今は手元にない。出さなければ逮捕するつもりだろう。メディアとして情報源は絶対に守る。だがガサまで入れば、どうにもならない。鹿児島県警の内部告発つぶしであり、メディアへの弾圧だ」

■心臓に持病があるのに連日取り調べ

 いったんは解放された中願寺氏だが、その後も連日、鹿児島県警から福岡南署の一室に呼び出され、事情聴取を受けることになった。初日だけは雑談に応じたが、その後は黙秘を貫いた。

 一方、藤井巡査長は逮捕後の取り調べで、告訴・告発事件処理簿一覧表を流出させたことを認めていると報じられ、中願寺氏の外堀は埋められていった。

 私は中願寺氏と電話で連日話していて、声に力がなくなっていくのを感じた。中願寺氏は心臓に持病があり、今年に入って体調不良だと聞いていた。そこへ取り調べが連日続き、心臓が悲鳴をあげていた。
 中願寺氏が取り調べの合間に病院へ行くと、「24時間ホルター心電図」という器具を装着された。心拍数などのデータを日常生活の中で記録し、不整脈の有無などをチェックするものだ。当然、医師は取り調べを延期してもらうようにと忠告した。しかし、鹿児島県警は容赦なく、中願寺氏を連日呼び出し、追及を続けた。

 4月18日、夜9時前に中願寺氏から電話があった。

「今日、鹿児島県警から被疑者として取り調べることになりますと言われました。日曜日(21日)はどうでしょうといわれ、どうぞと。
 藤井さんの事件にかかわった被疑者と、はっきり言われました。日曜日に(私の)身柄がとられる可能性が高い。ただ私は4月25日に心臓の持病で診察がある。それでも日曜日だと鹿児島県警はゆずらない。事情聴取から身柄を取るでしょう。メンツにかけても。取材活動、情報源のことは答えないと最初から話していることで、かなり立腹のようだ」

 中願寺氏は観念したような声だった。
 
■「鹿児島県警に殺される」

 身柄が拘束されても投薬や治療が受けられるよう、私は中願寺氏に、診断書や治療経過、服用している薬などがわかる書類を弁護士に託すようにと伝えた。

「依頼している弁護士が福岡なので、身柄をとられると鹿児島の弁護士が必要になる。取り調べでずっと黙っているというのも、それなりに負担がかかるのです。黙秘しているものだから、刑事の声も時折荒くなる」(中願寺氏)

 4月21日、中願寺氏の事情聴取があったが、懸念していた逮捕はなかった。だが、その後も鹿児島県警の調べは続き、中願寺氏の病状はより深刻になった。

 ある日、中願寺氏は電話でこう伝えてきた。

「取り調べの最中、心臓発作で椅子から落ち、床に横たわった。なんとか心臓の発作をおさえるニトログリセリンに手を伸ばして口に含んだ。記憶では、心臓が安定するまで15分ほど、何もない床に寝転がっているしかなかった」

 中願寺氏の記憶では、床に横になった時、鹿児島県警の刑事は「大丈夫か」と口にする程度で、119番通報もせず、毛布なども持ってこず、なんら措置を講じずに中願寺氏を放置していたという。中願寺氏はこう訴えた。

「このまま取り調べられ、逮捕までされたら、心臓が持たず、鹿児島県警に殺されるかもしれない」

 私と小笠原氏は、人権無視も甚だしい取り調べの実情を記者会見で訴えるべきではないかと、中願寺氏を説得した。だが、
「命にかかわる取り調べですが、情報源を守るため、会見はしない。警察にも絶対にしゃべりません。黙秘で戦う」
 それが、中願寺氏の答えだった。

 その後、藤井巡査長はさらなる捜査情報漏えいの容疑で再逮捕された後、5月20日に起訴された。中願寺氏については嫌疑がないと判断したのか、県警の取り調べはなくなり、逮捕は免れた模様だ。

■押収したパソコンデータから新たな逮捕者

 だが、鹿児島県警は中願寺氏から押収したパソコンから、新たな「ネタ」を見つけていた。

 小笠原氏のところに3月下旬、「闇をあばいてください。」と始まる、鹿児島県警内部の不正事案を記した差出人不明の文書が送られてきた。小笠原氏はそのデータを中願寺氏に転送し、共有した。それが押収されていた。
 これが端緒となり、県警元警視正の本田尚志・前生活安全部長(60)が5月31日に国家公務員法違反(守秘義務違反)容疑で逮捕されることとなった。
 
 小笠原氏が、自分が受け取った文書が、本田前部長から送られた内部告発だったと知ったのは、6月5日に本田前部長が勾留理由開示手続きのため鹿児島簡裁で意見陳述し、
「私がこのような行動をしたのは、鹿児島県警職員が行った犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことが、どうしても許せなかったからです」
 などと発言した後だった。本田前部長の行為は、正当な内部告発ではないのか。

 小笠原氏はこう話す。

「本田さんからの郵便には84円切手が貼られて送られてきたが、10円不足で私が負担して受領した。封筒には差出人がなかったが、10円を払わなければ永久に内部告発は封印されたかもしれない。本田さんが逮捕され、鹿児島県警は『鹿児島県警のものだから、郵便を返せ』と電話してきました。どの郵便なのか特定もしていません。宛先は私で、しかも不足の10円を払ったのですから所有権が誰にあるのか明らかです。そして鹿児島県警は『取り調べをしたい』というので、『こちらも録音録画をするのでどうぞ』と了承したら断ってきた。本田さんが送った原本の存在を確認せず、捜査を継続するのでしょうか」

■「表現の自由は封殺される」

 中願寺氏はこう話す。

「メディアはいろいろな情報を入手する。中には一方的に送られ真偽不明のものもあるが、警察の事件の隠蔽はおかしいと、藤井さんや本田さんのように正義のために内部告発してくれた資料もあるでしょう。メディアにガサをかけ、パソコンなどを押収して調べれば、いくらでも公務員を逮捕できるかもしれない。それは、自らの不祥事の隠蔽であり、他の正義ある警察官への見せしめです。報道機関のガサが簡単に容認されれば、憲法が保障する表現の自由は封殺される。鹿児島県警のガサはメディアへの弾圧だ。許されることではない」

 元東京地検特捜部検事で、コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士に話を聞いた。

「まず、心臓の持病があって測定装置をつけている人に事情聴取し続けるとは、人権無視としか言いようがない。それで仮に供述調書が作成されても、検察は採用しないどころか激怒して事件も立件できないでしょう」

 そして鹿児島県警について、こう語った。

「内部告発が相次ぐというのは、不祥事などを適正に処理せず、県警上層部が隠して、周りから異議があろうが封印してきた結果ではないか。メディアへの強制捜査も言論の自由を抑制、萎縮させる問題だ。身内を逮捕してさらに隠そうとする県警にはコンプライアンスどころか、警察としての正義がない」
 

 

鹿児島県警 ネットメディア捜索後、取材データを一方的に消去か

 

 

 鹿児島県警が、刑事裁判のやり直しを求める再審請求で弁護側に利用されるのを防ごうと、捜査書類の速やかな廃棄を促す内部文書を作成していた問題で、この文書を掲載したインターネットメディアが、別の事件の関係先として県警から捜索され、文書データを強制削除された疑いがあることが判明した。同メディア代表の男性記者が明らかにした。男性記者は弁護士を通じ、県警に13日付で「苦情申出書」を送付し「取材情報を隠滅する行為で、許されない」などと訴えている。

 ネットメディアは、福岡市に拠点を置く「ニュースサイト ハンター」。県警に批判的な記事を書く中で2023年秋、独自入手したとして県警の内部文書を自社サイトに掲載した。

 内部文書は、適正な捜査の推進のための執務資料として県警が作成し、捜査員らに23年10月2日付で配布した「刑事企画課だより」。「再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!」と強調し、「未送致書類であっても、不要な書類は適宜廃棄」などと呼びかける内容だった。

 一方、県警は24年4月8日、捜査に関連する情報などを外部に漏らしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反容疑で県警曽於(そお)署の男性巡査長(当時)=同違反で起訴=を逮捕。苦情申出書によると、この事件の関係先としてハンターの男性記者宅も同日、県警の家宅捜索を受けた。男性記者は裁判所の捜索令状を見せるよう求めたが、捜査員から示されず、内部文書のデータが入ったパソコンなどを押収された。
 
 翌日、パソコンを返却されたが、捜査員から内部文書を削除していいかと尋ねられたという。男性記者は、捜索対象の事件とは無関係だなどとして拒否したが、捜査員は「内部文書ですから」と述べて一方的に消去したと訴えている。

 男性記者の代理人弁護士によると、男性記者は家宅捜索を受ける前の24年2月、サイトに掲載した捜査関係資料の一部を任意提出すると申し出たが、県警から受け取りを拒否されたという。男性記者は「不必要な強制捜査だった」とした上で「捜査機関がデータを消去する法的根拠は一切ない」と批判。「このような手法で取材活動を侵すことなど決して許されてはならない」と訴えている。
 
 県警は毎日新聞の取材に対し、男性記者宅を家宅捜索したか「捜査上のことなので言えない」とし、申出書の授受についても「個人情報保護の観点から回答は差し控える」としている。

 甲南大の笹倉香奈教授(刑事訴訟法)は、県警がハンターを捜索したことについて「メディアへの捜索は、報道の自由への萎縮効果を考えれば、例外的であるべきだ。任意提出で済んでいたのに、あえて強制捜査をしていたならば問題だろう。先に捜索に着手しなければ証拠が廃棄される恐れが迫っているなどの例外的事情がない限り、令状を示すことも当然必要だ」と指摘する。
 
 文書データの強制削除については「押収物は被押収者への還付が原則だ。捜査機関が強制的に押収物のデータを削除できるとする根拠規定は刑事訴訟法などには見当たらない。もともとは県警の内部文書であることも理由にならず、同意のない削除は明らかに被押収者に対する権利侵害だ。消去したものが他人の刑事事件の証拠になり得る場合は証拠隠滅罪になる可能性すらある」と語る。

 ジャーナリストの江川紹子さんは「ハンターは小さいながらも、警察の問題を追及してきた報道機関だ。内部告発を受けて不正を報じた報道機関が強制捜査されたうえデータを消去されるようなことを許せば、公権力の不正情報を集めて報道することが難しくなる。鹿児島県警の行為は報道の自由の侵害だ」と話した。【取違剛】